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それは絶対的能力の代償  作者: 山本正純/村崎ゆかり(原作)
第八章 アソッド編
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第六十八話 ファンショップ

 数十軒の商店が向かい合う形で建ち並ぶ商店街に二人が訪れたのは、それから五分後のことだった。

「クルス。私はこの辺で物色しているから」

 アルケミナが商店街の中心でクルスに告げる。

「やっぱり別行動なんですね」

「別行動の方が効率的に動くことができる」

「先生。一応正確な待ち合わせ場所を決めた方がいいと思いますが」

 クルスの提案を聞き、アルケミナが小さく縦に頷く。

「そう。この店の前が待ち合わせ場所。とりあえず三十分後ここに集合」

 アルケミナは右側にあった今にも潰れそうな商店を指さす。

 それからクルスはアルケミナと別れ、ファンショップに向い歩き始めた。


 二階建ての大きな長方形の建物が、五大錬金術師のグッズを多く取り扱っているファンショップ『ヴァッターマーケット』である。

 五大錬金術師のイニシャルに商店を意味するマーケットを付け加えた店名が書かれた看板を見上げ、クルスはため息を吐く。

 クルスは店の自動ドアを潜り、店内へと足を踏み入れた。

 店の床は白いタイルで埋め尽くされている。そして店内には多くの五大錬金術師ファンたちが集まっていた。

「すみません。どなたかブロマイドを交換してくださりませんか? 」

 クルスが周囲を見渡していると、十代後半に見える少女の声が聞こえた。その女の声に反応した男たちは、少女に歩み寄る。

「姉ちゃん。何が欲しいって」

 茶髪に黒サングラスを掛けた色白の男が女に尋ねる。

「ガチャ限定イラストのテルアカ様のブロマイドが欲しいのです。レアリティは何でもいいので。このファイルから自由に好きなブロマイドを選んでください。それが報酬です。もう一度言います。ガチャ限定イラストのテルアカ様ブロマイド一枚とファイルから好きなブロマイドを選ぶ権利。それが交換条件です」

 彼女は水玉模様のファイルを男に見せる。

「本気かよ。お前ら聞いたか。ここに神がいるぜ」

 男が大声を出し、彼女の周りにファンたちが集まった。そのファンたちの手には、黒縁眼鏡をかけた優男のブロマイドが握られている。

 その光景に依頼した少女は途惑った。

「えっと。まさかこんなに集まるなんて思いませんでした。今持っているのは、ガチャ限定イラストブロマイド二十五枚。とりあえず一列に並んでくださいね」

 異様だとクルスは思った。ファンたちは五大錬金術師のブロマイドに執着している。交換を申し込むと叫べば、光に吸い付く虫の如く集まる。


 小さなファンショップに何度か立ち寄ったことのあったクルスでさえも、この光景は異様だと感じた。

 クルスは改めて若い女の顔を見る。漆黒に染まったショートボブヘアに二重瞼、黒子一つない綺麗な肌。十代後半に見える低身長の少女は微笑みながら一枚一枚ブロマイドを交換していった。

「姉ちゃん。一ついいか。どうしてこんな交換を申し込んだ。いらないブロマイドは売れば金になるのに」

 突然男が少女に尋ねる。

「簡単なことです。ガチャ限定ブロマイドをゲットしようと所持金を投資したら、一枚もテルアカ様のブロマイドが手に入らなかったからです。正直な話。運がなかったということですよ」

 少女が簡単に説明する。その答えに男は納得し、テルアカのブロマイドを渡した。


「テルアカさんの熱狂的なファンですか」

 クルスは小声で呟き、店内で交換会を開催する少女の顔を見る。

 一方その少女はクルスに顔を見られていることに気が付いたのか、一瞬クルスと顔を合わせた。

 あの少女にテルアカについて尋ねたら何か分かるかもしれない。クルスはそのように考え、行列を見る。

 現在行列に並んでいるのは十人の男達である。交換に一人一分かかるとすれば十分後に彼女は交換会から解放される。

 クルスは一瞬行列に並び、少女と接触しようと考えた。だが頭にアルケミナの顔が浮かぶ。

「先生だったら行列に並ぶより、店内での聞き込みを優先するはず」

 クルスは小さな声で呟き、行列を無視して店内を徘徊する。


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