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それは絶対的能力の代償  作者: 山本正純/村崎ゆかり(原作)
第八章 アソッド編
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第六十六話 強盗犯

 広大な土地に巨大な大木が数多く生えている。ルクリティアルの森と呼ばれる中心部に十人程度の黒いローブを着た錬金術師たちが集まっていた。

 ウサギの耳を模したカチューシャに茶髪の短い髪を生やした、巨乳の女を囲むように錬金術師たちが立っているのだが、彼らは一歩も動こうとしない。

「さっきまでの威勢はどこに行ったのかしら。やっぱりあなたたちの錬金術の研究なんて、学校の自由研究レベルよ」

 その女、メランコリア・ラビが錬金術師たちを挑発する。それでも錬金術師たちは動くことができない。まるで金縛りにあったかのようである。

「うるさい。お前に俺たちの実験に有効性が分かるはずがない」

 一人の錬金術師が怒りを露わにした。だがメランコリアは錬金術師の声に耳を傾けない。

「じゃあ、予告通り根こそぎ奪うから。あなたたちの槌や荷物を」

 メランコリアが錬金術師たちの体を1人ずつ押し倒す。錬金術師たちは仰向けの状態になっても身動きが取れない。

 彼女は、そんな彼らから服以外の荷物を奪う。

 そして全員の荷物を奪いとると、彼女は不敵な笑みを浮かべ、現場から立ち去った。

「早く森を出た方がいいよ。この森の主、ドッグサウルスが起きない間に」


 そのニュースをアルケミナとクルスが聞いたのは、ヴィルサラーゼ火山噴火から一週間が経過した頃だった。

 現在二人は、アルケア八大都市の一つ、サンヒートジェルマンの街を歩いている。

 気温はサラマンダー程の猛暑ではないが、街を歩くたびに熱気を感じる。

 この街、サンヒートジェルマンは一年中温暖な気候が続く街である。

「それにしても遅いですね。ティンクさん。あれから一週間経過したのに、まだ合流しないなんて。まさかあの言葉は嘘だったのでしょうか」

 クルスがアルケミナの隣を歩きながら、ぽつりと呟く。

 その声を聞いたアルケミナはティンクの言葉を思い出した。

「悪いが、俺はあいつらに倒された仲間たちの手当てをしないといけない。それが終わったら必ずお前らを追いかける。俺は逃げも隠れもしない」

 あの時ティンクは、このように言っていた。だが当のティンクは一向に姿を見せない。そのことにクルスは困惑しているとアルケミナは察した。

「大丈夫。ティンクは嘘を吐かないから」

「先生。手当をするだけで一週間もかかると思いますか。まさかティンクさんは迷子になったのではありませんかね」

「方向音痴のテルアカだったらあり得るかもしれない。ティンクに限ってそれはあり得ない」

「ですよね」

 会話を交わしながら二人が歩いていると、偶然付いていた街の商店からニュースが聞こえた。

 そのニュースを聞きアルケミナが立ち止まる。


『昨日未明、ルクリティアルの森で錬金術師たちを狙った強盗事件が発生しました。被害に遭った錬金術師たちの証言です』

『突然ウサギの耳の形のカチューシャを身に着けた巨乳の女が、俺たちを挑発しました。そしてその直後金縛り状態となった俺たちから次々と槌や錬金術研究に必要な物品などを奪って逃走したんですよ』

「先生。どうしたんですか」

 クルスがアルケミナの顔を覗き込む。

「強盗犯を許せない。犯人は絶対的能力か呪言の槌を使い錬金術師たちを金縛り状態にして、全てを奪った」

「呪言の槌? 」

 クルスが聞きなれない言葉に首を傾げた。

「呪言の槌。別名錬金術の負の遺産。洗練された呪言の槌を叩けば、大量殺人も可能。金縛り程度なら軽度な奴を使えば可能だと思う。いずれにしろ危険な槌に変わりないから、法律で所持が禁止されている」

「そういえば学校で学んだような記憶があります」

「これは常識問題。この程度のことを忘れているようでは、立派な錬金術師になれない」

 クルスはアルケミナの言葉を聞き、頭を掻いた。


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