第六十五話 ティンク・トゥラの能力
何とか火山噴火からヴィルサラーゼ村を救ったクルスは深呼吸した。
それからティンクがクルスたちの顔を見つめる。
『そろそろ俺の能力について教えようか。俺の能力に名前を付けるとしたら、熱血理論という言葉が妥当だろう。漫画とかでよくあるだろう。何でも気合いで危機を乗り越える主人公の話。それと同じように、俺は気合いでどんな危機も乗り越えることができる。たとえそれが、錬金術では実現不可能なことだったとしても』
「なるほど。その能力でティンクさんは元の体に戻ることができるということですか」
クルスがティンクの説明を聞き、確認する。
『そういうことだ。俺の能力の応用力は半端ない。急速なスピードで相手の行動を避ける。長い尻尾で槌を掴み錬金術を使う。そしてテレパシーでお前たちに話しかけるなど使用用途は様々だ。ただし複数の能力を一度に使うことはできない。例えば能力で元の姿に戻ったら、他の用途で絶対的能力を使うことはできない。それ以外の制約はないのも特徴だな』
ティンクの能力の全貌を知ったアルケミナは静かに彼に近寄った。
「なるほど。これで、EMETHシステム解除の鍵が何なのかが分かった。その鍵は錬金術にある」
アルケミナの唐突な発言にクルスは目を丸くする。
「それはどういうことですか」
「錬金術師は、常に実現不可能なことを求めている。その思考こそが錬金術師に必要な最低条件。それをティンクの能力は錬金術を超越した形で証明した。だからティンクが絶対的能力で元の姿に戻ることができたのならば、彼の能力を解析することで、システム解除の手がかりが見つかるはず」
ティンクはアルケミナの言葉に、思わず赤面する。
『それほどでもない』
その後でアルケミナはティンクの体に障る。
「ティンク。私たちの仲間になって」
アルケミナの突然の申し出にティンクは驚きを隠せない。そして彼は一言アルケミナたちに告げた。
『悪いが、俺はあいつらに倒された仲間たちの手当てをしないといけない。それが終わったら必ずお前らを追いかける。俺は逃げも隠れもしない』
「逃げも隠れもしないって。それならどうして先生に責任を押し付けたんですか」
クルスが突っ込みを入れると、ティンクは視線をクルスから反らす。
『あの時は色々とあっただな。兎に角アルケミナに一言謝らせてくれ。あの時は悪かった。許してくれとは思わないが、ちゃんと償いをさせてくれ。必ず俺はお前らの仲間になる』
「分かった」
アルケミナが一言告げ、彼女は四合目へと歩みを進めた。その後をクルスが追いかける。
二人の後姿を見つめたティンクは、テレパシーでクルスにだけ伝えた。
『お前との添い寝を楽しみにしているぜ。ロングヘア巨乳姉ちゃん』
「だからその呼び方を止めてください」
クルスは思わず声を出す。しかしアルケミナはクルスの声を気にも留めず、道なき道を進む。
第八章『アソッド編』
四月三十日から連載開始。




