第六十四話 火山噴火を食い止めろ
何の予兆もない火山の噴火。それはアルケミナたちにとって想定外な出来事だった。
「先生。どういうことですか。ラジオの情報では、今日は登頂可能だって」
クルスが突然の出来事に取り乱す。そんなクルスを他所に、アルケミナは冷静に状況を分析する。
「原因不明の異常気象」
「予兆がなかったのは厄介だな」
アルケミナの言葉に続くように、ティンクが続ける。
「ティンク。どうする」
「決まっているだろうが。火山の噴火を止める」
アルケミナとティンクが互いの顔を見合わせる。だがクルスはそんなことができるのかと心配になる。
「先生。大丈夫ですか。火山の噴火なんて止めることができるのですか」
「錬金術では天災を止めることはできないけど、絶対的能力は錬金術を超越した能力だから、火山の噴火くらい防ぐことは可能」
アルケミナの説明の後で、ティンクはクルスの顔を見る。
「ということだ。分かったか。ロングヘア巨乳姉ちゃん」
ティンクの言葉にクルスは頬を膨らませた。
「こんな状況なのに、よくこんなことが言えますね」
「冗談のつもりではなかったのだが。そんなことよりも時間がない。作戦を話し合おうか」
「私が錬金術で巨大な土の壁を作るから、クルスとティンクで岩を壊して。それで溶岩を塞き止めるダムを造る」
アルケミナが作戦を説明している間、ティンクの体が突然、白い光に包まれ、ティンクの体がスカーレットキメラに変わる。
突然の現象にクルスは驚く。一方のティンクはテレパシーでクルスに声を掛ける。
『詳しい説明は後だ。俺はその辺りにある岩肌を破壊するから、ロングヘア巨乳姉ちゃんは、適当に岩を破壊しろ』
ティンクの怒号を聞き、クルスは背中に背負った荷物を降ろす。荷物からアルケミナが必要としている槌が取り出せるように。
アルケミナはクルスの荷物から必要な物品である、青いチョークと黒色の槌を取り出す。
黒い槌を地面に置いた彼女は、青いチョークを握り、魔法陣を書き始める。
その間クルスは、近くにある巨大な岩を触る。それにより巨大な岩が壊された。
クルスは周囲を見渡し他に壊せそうな岩がないのかを探す。その時彼女の目に映ったのは、物凄いスピードで岩を体当たりで壊すティンクの姿だった。
一分ほどで三合目の岩が手あたり次第に壊される。
それと同時進行でアルケミナは魔法陣を描いている。
彼女が今回魔法陣を書きこみために使用したチョークは、白色ではなく青色。チョークの色と錬金術には因果関係がないが、白いチョークで魔法陣を書けば、白い岩場と同化してしまう。
それを避けるために、彼女は青いチョークで四方に逆三角形に横棒を加えた記号を記す。
その土を意味する記号を丸で囲む。東西南北に記された記号を一つの円になるように繋ぐ。その縁の中央に、凝固を意味する牡牛座の記号を書き込み、丸で囲む。
そうやってできた魔法陣は、魔法陣を書き込むにはコンディションが悪い岩場にも関わらず、綺麗である。
『さすがだな。アルケミナ。記号が歪めば錬金術の効果が薄まる。それにも関わらず通常通りの魔法陣が書けるとは。さすがだ』
ティンクが褒めるも、アルケミナは無表情で完成した魔法陣を触る。
「このくらいの芸当。五大錬金術師だったら普通にできること。そんなことより、溶岩の進行状況を教えて」
クルスは山の斜面から徐々に進行する溶岩を目にする。
「五合目付近を通過。物凄いスピードで溶岩が迫っています」
『普通の火山噴火の三倍くらいのスピードだ』
ティンクがクルスの報告に補足する。それを聞きアルケミナは地面に置かれた黒色の槌で魔法陣を叩く。
周囲に散らばる岩の残骸を巻き込むように、魔法陣から巨大な壁が現れる。その壁は全長十メートル程だった。
そしてその壁が溶岩に触れた瞬間、溶岩が急速に固まる。
そうして五分後、火山から噴き出した溶岩が全て凝固した。アルケミナはタイミングを計り、錬金術を解除する。




