第六十一話 ティンク対マエストロ 前編
ヴィルサラーゼ火山の三合目は、殺戮としていた。
地面に散乱した白い羽が、赤く染まる。その周辺では、数十匹のスカーレットキメラが血を流して、倒れていた。
「この程度か。つまらないな」
金髪スポーツ刈りの男が倒れているスカーレットキメラを見下すように呟く。
その男、マエストロ・ルークの隣には大柄な体型に茶髪のショートカットの女、ルクシオンがいる。
ルクシオンは散乱している白い羽を一枚拾う。
「このスカーレットキメラの白い羽は、トールが欲しがっている錬金術の材料よ。大収穫祭になったけど、いいんじゃないかしら。本当は私もやりたかったんだけどね」
ルクシオンの肩に乗る黒猫、エルフが鳴く。
「この程度のミッション。第五位の俺だけでも十分だろうが」
マエストロ・ルークが握り拳を作り、抗議する。だがルクシオンは失笑してみせた。
「あら。その順位が気に入ったのかしら」
「うるさい。俺は必ずお前らを倒して最強の殺人鬼になってやる」
マエストロ・ルークが決意表明した瞬間、四合目の地面に何かが落下した。この場にいるマエストロとルクシオンは何が起きたのかが理解できなかった。
『お前らか。俺の仲間たちを痛み付けたのは』
二人は砂埃の中から男の声を聞いた。
「仲間が来たらしいな」
マエストロは手刀を作り、空気を切る。紛れもない不意打ちにより、砂埃が切断される。
だが消滅した砂埃からは、声の主が消えていた。
「何だと。不意打ちを避けやがった。何者だ」
マエストロが叫ぶと、彼の目の前に一匹のスカーレットキメラが姿を現した。
『お前ら。絶対的能力者か。面白い。俺の能力がお前らに通用するか実験してやるよ』
そのスカーレットキメラ、ティンクが白い牙を見せる。だがマエストロは怯むことなく白い歯を見せ、手刀で目の前にいるスカーレットキメラの白い羽を切断する。
「空を飛ばれたら厄介だからな。先にお前から飛行能力を奪う」
マエストロが言い聞かせるように、目の前のスカーレットキメラの体を見る。
だが、目の前のスカーレットキメラは無傷である。
『どうした。俺から飛行能力を奪うんじゃないのか』
「お前も絶対的能力者か」
マエストロが目の前にいるスカーレットキメラに問う。その答えは咆哮で返ってくる。
『そうだ。じゃあ、クイズでもしようか。問題。俺の絶対的能力は、どのような物か? 』
「愚問だな。テレパシーだろう。普通のスカーレットキメラに発声能力はない」
『残念。不正解だ。そっちの茶髪の姉ちゃんは分かるか? 』
ティンクはマエストロの隣に立つチャオ圧の女に視線を移す。
「さあね」
その女、ルクシオンは握り拳を作り、空気を殴る。それからすぐに、ティンクの体が空中に飛ばされた。
『このアッパーは結構痛いな。だがその程度の拳では、俺を倒すことはできないぜ。茶髪の姉ちゃん』
「これで分かったよ。あなたの能力では、私の能力を打ち破ることはできない」
『それはどうかな』
ティンクは地面に着地して、再び空へ咆哮した。




