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それは絶対的能力の代償  作者: 山本正純/村崎ゆかり(原作)
第七章 ティンク編
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第五十九話 その男、ティンク・トゥラ

 案の定、アルケミナは登頂三十分程でギブアップした。現在アルケミナとクルスは、一合目へ一歩手前の位置にいる。

 重い荷物はアルケミナの錬金術で一つにまとめたが、それでもクルスは山道をきつく感じる。槌と五歳くらいの少女を背負って、道なき道を進むのだから、無理もない。

 そうこうする内に、アルケミナを背負ったクルスは一合目に辿り着く。そして休み暇なく彼女は二合目へと向かう。

 過酷な登山に挑むこと一時間。アルケミナたちの横を数匹のファイアトカゲが這うように、三合目の方向に逃げた。


 一方その頃、アルケミナたちを追い越し、三合目へと向かうファイアトカゲの群れを、一人の大男が三合目に位置する崖の上で見ていた。

 角刈りにした髪型に、全長二メートルという巨漢。その男の名は、ティンク・トゥラ。五大錬金術師の一人である。

 彼は上半身裸に長ズボンという服装を着ている。綺麗に割れた腹筋に、鍛え上げられた筋肉。腹には絶対的能力者であることを示す『EMETH』という文字が刻み込まれている。

「ファイアトカゲは逃げたか。あれは丸焼きにしたら旨いんだがな」

 ティンク・トゥラが呟くと、彼の周りを数十匹のモンスターが囲んだ。赤色の虎柄の体の四足歩行の体に、山羊のように長い角。背中に白い羽が生えた生物の名前は、スカーレットキメラ。

 数十匹のスカーレットキメラに囲まれた彼は、両手を広げながら、一匹一匹のキメラの顔を見る。

「仲間たち。残念ながら獲物たちは逃げたよ。でも大丈夫だ。あれくらいの獲物なら、俺だけでも十分捕獲可能だ。根こそぎ捕まえたら、お前たちにもご馳走してやるよ」

 ティンク・トゥラはファイアトカゲが逃げた方向へと視線を移す。だが、物凄い視力の持ち主である彼の瞳に映ったのは、逃げたファイアトカゲではなく、二人の女性だった。

 その内の一人、銀色の長い髪を生やした少女に彼は見覚えがある。またその少女を背負っている女性もどこか見覚えがある気もする。

「まさか。面白くなってきやがった」

 ティンクは白い歯を見せ、周辺を囲むスカーレットキメラに指示する。

「お前たちは逃げたファイアトカゲを追ってくれ。お前らなら大丈夫だ。この前教えたフォーメーションで動けば、確実に獲物は捕獲できる。俺がいなくても、お前らなら生きていけるさ。その代り、二匹くらい俺と行動を共にしてくれ」

 スカーレットキメラの群れは、一斉にティンクを睨み付ける。

「この一か月で人語を理解するまでに成長したと思っていたが、十分な勘違いだったようだな。分かったよ。お前らにも分かるように説明してやる」

 ティンクはスカーレットキメラの群れに言い聞かせながら、両手で握り拳を作る。そして次の瞬間、彼の体は白い光に包まれる。

 瞬く間に彼の体は、スカーレットキメラの物へと変わった。

 それに伴い、スカーレットキメラの群れの内の二匹は、スカーレットキメラへと変貌したティンクの元へ歩み寄る。

 残りのスカーレットキメラは白い羽で空を飛び、ファイアトカゲを追跡する。

 崖の上に取り残された三匹のスカーレットキメラは、崖の下を覗き、物凄い速さで崖を駆け下りる。

 アルケミナたちは、近くに五大錬金術師の一人、ティンク・トゥラがいることを知らない。


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