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それは絶対的能力の代償  作者: 山本正純/村崎ゆかり(原作)
第七章 ティンク編
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第五十八話 ヴィルサラーゼ火山の朝

 翌日の早朝。クルスは村で一番安い宿の客室のベッドの上で目を覚ました。

 シングルベッドに簡易的な机と椅子だけが置かれた狭い空間で、安さを全面的に押し出すために、食事は一切出ない。ただ泊まるだけの部屋である。

 窓から差し込む朝日を浴びながら、クルスは瞳を開ける。彼女の隣ではアルケミナが丸まって眠っている。

 可愛らしい寝顔のアルケミナを見ながら、クルスは大きく両手を挙げ、軽く体操する。

 それから一分ほどが経過し、アルケミナが静かに瞳を開け、ベッドから起き上がった。

「おはよう。クルス」

 アルケミナは寝不足そうな瞼を擦りながら、クルスに挨拶する。

「おはようございます。先生」

 クルスが挨拶を返す。その後でアルケミナたちは着替えを済ませる。それからアルケミナは宿の壁に立てかけておいた銀色の槌を手にして、それを宿の床に叩く。

 それにより魔法陣が出現し、その中央に一台のラジオが出現する。

 アルケミナはそのラジオのスイッチを付けた。彼女の目的は、朝の情報収集である。

『ヴィルサラーゼ火山は、本日も登頂可能です。繰り返します。ヴィルサラーゼ火山は、本日も登頂可能です』


 一番知りたかった情報がラジオから聞こえて来たアルケミナは静かにラジオのスイッチを切り、再び銀の槌を床に叩き、ラジオを消す。宿の床には、錬金術を使用した痕跡が何一つ残されていない。

「ということで、今からヴィルサラーゼ火山を登る」

 アルケミナがクルスに伝えると、彼女は首を縦に振った。

「分かりました」

 クルスが簡潔に答える。二人は宿をチェックアウトし、近くの商店で食糧を買い込み、火山がある方向へ歩き始めた。

 

 青く綺麗な空に、昨日と同じくらいの気温。アルケミナとクルスの前にあるのは、岩の足場で構成された山である。

 半径五キロメートルという広大な土地に、溶岩と火山砕屑岩が積み重なる。二人が昇ろうとしているヴィルサラーゼ火山は、アルケアで一番大きな火山だ。

 アルケミナは火山へと一歩を踏み出す前に、地図で道順をクルスに説明する。

「ヴィルサラーゼ火山の頂上まで行く必要はない。六合目に到着したら、東に続く道を三キロ真っ直ぐ進み、南下するだけ。道順としては単純」

 クルスはアルケミナの説明を聞きながら、地図を見る。その地図に書き込まれた事実に、彼女は自身の目を疑う。

「先生。六合目に行くためには、十二キロ登らないといけないではありませんか。先生は幼児化して体力が落ちているから、絶対途中でギブアップして、僕がおんぶする羽目になる。ただでさえ足場が悪いのに。だから別の道を進みましょうよ」

 アルケミナはクルスの申し出を聞かない。

「嫌」

 またアルケミナの我儘が始まったとクルスは思った。こうなってしまえば、クルスはアルケミナの言うことを聞くしかなくなる。

 彼女はアルケミナの我儘を打ち破る手段を持ち合わせていないのだから。

 クルスは仕方なく果てしない火山に昇ることにした。


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