第五十三話 錬金術爆弾
ルスがティーカップを机に置く。
「本当は戦いたくないんだけど」
ルスは床に書かれた魔法陣に触れる。一方マエストロは手刀を作り、ルスとの距離を詰める。
マエストロはルスの近くにある紅茶セットを切断。その残骸がルスに襲い掛かる。だが、ルスは魔法陣を爆発させ、自身の体を守る。
「魔法陣を爆発させる能力か」
マエストロが聞くと、ルスが人差し指を立てる。
「半分正解。能力名は錬金術爆弾。僕が指で触れた魔法陣は必ず暴発します。爆発の威力は魔法陣が精巧であるほど高くなります」
「悪趣味な能力名だな。ルス。その名前はお前が考えたのか」
「違います。ラスが考えました。能力名は飾りに過ぎません。意味があるとするならば、愛着が湧くことでしょうか」
「なるほど。ということはラスの能力にも名前が付いているということだな」
マエストロはラスの顔を見る。ラスは微笑み、白い歯を見せた。
「もちろん。僕の能力名は暗黒空間。銃弾から衝撃波まで。あらゆる攻撃を暗闇の中に閉じ込める。閉じ込めた攻撃は、出し入れ自由だけど、一度外に出せば消滅します。簡単な言葉で言えばカウンターですよ。相手の攻撃を跳ね返す。マエストロ。あなたの能力名に興味がありますかね」
「興味ない。それは飾りに過ぎないんだろう。兎に角、ルスの能力では俺を倒すことができねえということが分かった。俺は何でも切断できる。それが魔法陣だとしても」
マエストロは床に書き込まれた魔法陣を、徐々に切断する。だが、ルスの能力は発動しない。
徐々に床が切断され、ルスの足場が壊される。マエストロの能力により、ルスの体を中心に大きな穴が開く。
落下していくラスは、一瞬姿を消し、マエストロの背後に姿を現す。
「魔法陣まで切断できるとは。さすがですね。でも僕の能力が、魔法陣を暴発させるだけの能力だと思ったら大間違いですよ」
「どういうことだ」
「気が付かないのですか」
ルスはマエストロの開けた穴から、地下に堕ちる。マエストロが穴を覗き込む。その穴の中心に大きな魔法陣が刻み込まれている。
ルスが魔法陣を二回触る。その直後マエストロとラスがいる部屋に書き込まれている魔法陣から同時に白煙が昇る。
異変に気が付いたラスは、大きな穴から地下へ飛び降りる。それから数秒後、壁に刻まれた魔法陣と、切断できなかった床に残された魔法陣が同時に爆発する。
突然の爆発により、マエストロの近くで浮いている仮面が壊される。爆風によって飛ばされたマエストロの体は大きな穴に堕ちる。
彼の体は床に叩きつけられる。その痛みによりマエストロは気を失う。




