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それは絶対的能力の代償  作者: 山本正純/村崎ゆかり(原作)
第六章 聖なる三角錐編
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第四十八話 暗黒空間

 五分後、建物の玄関に仕掛けられた花火が打ち上がり、戦闘が開始される。

 建物の中に取り残された男性が、身に着けていた白いローブを脱ぐ。そこに現れたのはショートボブの低身長な男。黒色の髪。前髪は左を向いている。一重瞼。尖がった耳。好青年という印象をマエストロは受けた。

「ラス・グースです。よろしく」

「尖がった耳。ヘルメス族か。瞬間移動が得意という希少な種族と聞いたことがある」

「ご名答。絶対的能力の副作用でヘルメス族になったわけではありません。ルスお姉様と僕はヘルメス族」

 ラスが握手を交わそうとする。だが、マエストロは手刀を作り、近くにある頑丈なコンクリートの壁を切断する。

「挨拶は必要ないだろう。もう戦いが始まっている。この壁のようになりたくなかったら、さっさと終わらせようぜ」

「なるほど。何でも切断する能力。でも馬鹿ですよね。手を差し伸べているのに、どうして僕の腕を切断しないのでしょう。切断してなかったことを後悔しますよ」

「後悔しない。あれは挨拶だ。お前に恐怖を植え付けるための」

 マエストロは相手の標的となる仮面を顔に装着する。それを見ながらラスが呟く。


「結構残忍ですね。いいでしょう」

 ラスは壁に標的の仮面を立て掛ける。そして、その仮面に釘を打つ。

「何をしている」

 マエストロが聞くと、ラスが釘を打ちながら笑う。

「トールは殺人以外なら何をしてもいいって言っていたでしょう。だからあなたの標的を壁に固定しているのですよ。面白くないから」

「面白くないだと」

「あなたの絶対的能力と僕の能力では、圧倒的に僕の能力の方が有利ということ。もう一つサービスするね。僕は一歩も動かない。あなたなら動かない標的を仕留めることも容易でしょう」

「笑わせるな」

 マエストロは切断した壁を支えていた鉄柱を破壊する。壁はそのまま砂埃に包まれ落ちる。周囲に轟音が鳴り響いた。

 マエストロは四本の鉄の柱を持ち、固定された仮面に向かい投げる。鉄の棒は仮面に命中するはずだった。だが、壁に固定されたはずの仮面の周囲が暗闇に包まれ、消えていく。

 暗闇は投げられた鉄の柱を飲み込んでいく。

 一秒にも満たない時間。暗闇が消え、壁に大きな穴が開く。その間ラスは一歩も動いていない。


「それではお返しします」

 ラスが笑顔を見せる。その次の瞬間、マエストロが立っている地面に暗闇が出現する。

 その暗闇から四本の鉄の柱が生える。マエストロは上に飛び、その柱を手刀で切断する。

「中々やるな。面白い」

 マエストロは無傷で地上に立つ。

「想定外でした。まさか間接的に仮面を破壊しようとするとは。どうして仮面が固定されている壁を切断しなかったのでしょう」

「答えない」

「そうですか」

 ラスが一回拍手する。すると、開けられた穴から壁に固定された仮面が姿を現す。

「今度は外さないでくださいよ」

「リクエスト通りそうさせてもらう」

 マエストロは仮面が固定された壁まで走る。

 壁が破壊されるのに時間は必要ない。マエストロの指が壁に当たり、壁が切断されていく。

 これで勝ったとマエストロは思った。だが、壁が破壊される直前、暗闇が現れ、壁全体を包み込む。

 マエストロは暗闇に飲み込まれている壁から手を離し、一歩も動こうとしないラスに殴りかかろうとする。

 だが、それはできなかった。何もない空間から暗闇が出現して、衝撃波が彼を襲ったのだから。

 マエストロの顔を隠していた仮面が衝撃波によって破壊される。衝撃波によりマエストロの体が天井に叩きつけられる。

 マエストロ・ルークは敗北した。


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