第四十六話 ラプラスの錬金術 後編
そして、巨大なファイアトカゲがクルスの前に立ち塞がり、腕を振り下ろす。ファイアトカゲは鋭い爪でクルスの体を切断しようとしている。クルスはファイアトカゲの腕を掴み、攻撃を防ぐ。
その間ラプラスは緋色の槌を叩き、魔法陣を地面に刻む。その瞬間、幾つもの魔法陣から炎の柱が出現する。その柱が研究所の天井を貫く。柱は天まで届くのではないかというくらい高い。
やがて炎の柱がファイアトカゲの体に吸収されていく。それに伴いファイアトカゲの攻撃力が上がる。
クルスはファイアトカゲの腕を支えることができず、地面に叩きつけられる。
アルケミナが周囲の様子を観察しながら、呟く。
「炎の柱をここまで伸ばすのは、高度な錬金術。ファイアトカゲは炎を吸収することで活動が活発になる」
「正解です。ただ攻撃が上がるだけではなく、スピードも上がりますよ。つまりこのフィールドでの戦闘に措いて、ファイアトカゲは無敵ということです。絶対的能力者だとしても、勝つことができる。理解できましたか。なぜあなたたちが勝てないのか」
「クルスだけの力では勝てないということは分かった」
アルケミナは落胆していない。それどころか、どこか嬉しそうであるとラプラスは感じた。ラプラスは彼女の表情を見て呆れる。
「諦めたらどうですか。炎を消すことは不可能ですよ。炎の柱に水を掛けたとしても、炎は消えません。水が沸騰して使い物にならないのがオチです。そこに倒れているお仲間の絶対的能力なら、破壊も容易でしょう。しかし、それを私が許すと思いますか」
「いいえ。許さない。だから炎の柱を消すのは私の役目」
クルスはゆっくりと体を起こす。アルケミナは青色の槌を地面に叩く。
「何をやっても無駄ですよ」
ラプラスがアルケミナたちに呼びかける。気温の上昇によってアルケミナとクルスの頬を汗が伝う。
アルケミナが刻んだ魔法陣から水の柱が出現する。その柱の高さはラプラスが召喚した炎の柱の二倍程。だが、気温の上昇によって水の柱が蒸発する。
水の柱が完全に消滅する前にアルケミナが創造の槌でそれを叩く。すると水の柱が白い煙に変わり、天に昇っていく。白い煙が天空で雲の代わり、雨が降る。
ラプラスにとってこの現象は想定外のことだった。やがて炎の柱に雨の滴が落ち、炎が弱まっていく。
「何をしたのですか」
驚いているラプラスがアルケミナに聞く。
「この世界に存在する物質は全て錬金術によって成り立っているというのは周知の事実。即ち錬金術で召喚した物質を変化させることも可能」
「しかし、それは机上の空論と聞きますが」
ラプラスの疑問を聞き、アルケミナは想像の槌を彼に見せる。
「万物を創造する創造の槌を用いれば可能」
ファイアトカゲの力が弱まっていく。クルスはそのトカゲの腹を殴る。
トカゲの体が徐々に小さくなっていく。勝てないと悟ったラプラスは両手を上げる。
「降参します」
ラプラスが終戦を申告すると、アルケミナがラプラスに尋ねる。
「それなら敵地に絶対的能力者を派遣して何をやっているのかを教えて」
「分かっていることでしょう。絶対的能力者を隣国に与え、戦争を激化させる」
「絶対的能力者を戦争に利用することを許せない」
アルケミナが正論を訴えると、ラプラスは歩きながらアルケミナたちに呼びかける。
「ということはいずれまた対立することになりますね。その時を楽しみにしています」
ラプラスは笑顔を見せ、ドアから部屋を退室する。
それから三分後、アルケミナとクルスはラプラスの研究所を脱出する。研究所は頑丈なため倒壊しないが、天井が突き破られた箇所もあるため、修理が必要である。
二人はラプラスの研究所を背に歩きはじめる。
クルスは隣を歩くアルケミナに聞く。
「ラプラスさんの悪事をスルーしていいのですか」
「構わない。まだラプラスの自白しか証拠がないから。ラプラスとはまた対立することになる。その時に証拠を得ることができたら、専門家に対して告発する」
「次の目的地はどこですか」
クルスの質問を聞き、アルケミナが槌を叩き地図を取り出す。アルケミナは地図を指さしながら新たなる目的地を説明する。
「サンヒートジェルマンに向かう。ブラフマがそこに向かっているから」
二人は新たな目的地サンヒートジェルマンまで歩き出す。その道なりは遠い。




