第四十五話 ラプラスの錬金術 前編
アルケミナは、ラプラスがいる部屋のドアを開ける。その部屋の内部では、肩にファイアトカゲを乗せたラプラス・ヘアと見知らぬ白いローブを着た人物が椅子に座っていた。
ラプラスは侵入者の存在に気が付き、椅子から立ち上がる。
「外が騒がしいと思ったら、侵入者がいたとは。あなたたちの目的は何でしょう」
ラプラスがアルケミナに聞く。
「聞きたいことがある。絶対的能力者を集めて何をしているのか」
「EMETHシステムに隠されたバグを探すことが目的ですよ。それ以外は何もありません」
「それはフェジアール機関の仕事。システムの不具合を探すのは建前で本音が隠されているはず。先程敵地に絶対的能力者を派遣するという声を聞いた」
アルケミナの発言を聞き、ラプラスが苦笑いする。
「なるほど。会話を聞かれていましたか。この研究所の研究員や研究対象として研究所を訪れている絶対的能力者なら、隠ぺい工作を施すこともできるのですが、外部の人間に知られてしまうと、困りますね。ということであなたたちを排除します」
ラプラスが不気味に笑いながら、白いローブを着た人物に話しかける。
「二人で侵入者を殺しましょうよ」
「断る。用心棒の真似事は職務内容に含まれていない。ということで私は逃げる」
「分かりました。トールさん」
白いローブを着た人物の声質は明らかに男だった。トールという人物の名前をアルケミナは聞いたことがある。だが、男の正体を彼女は思い出すことができない。
トールは気配を消し、ドアを開け、部屋を退室する。
アルケミナが思い出そうと考えている中でラプラスが赤色の槌を叩く。三十二方向に煆焼を意味する牡羊座の記号。中央には火を意味する三角形。その記号が地面に刻み込まれる。
そして次の瞬間、魔法陣の上に、ラプラスの肩に乗っていたファイアトカゲが着地する。
瞬く間にファイアトカゲが巨大化していく。
「突然変異研究の副産物。レベルの高い錬金術」
アルケミナが呟くと、ラプラスが中指を立てる。
「正解」
「ファイアトカゲを巨大化させることができるのに、EMETHシステムのよって突然変異した謎が分からないのですか」
クルスがラプラスに聞くと、ラプラスが頬を緩ませる。
「EMETHシステムの欠如による突然変異のメカニズムは分かりません。いくら突然変異研究のプロフェッショナルである私でも分からないこともありますよ。この三週間で分かったことといえば、僕程の錬金術の使い手なら、絶対的能力者と互角に戦うことができるということくらい」
クルスが首を傾げる。その時、錬金術によって巨大化したファイアトカゲが火を噴く。
クルスの指に炎が届いた瞬間、炎が突然消える。その能力を知ったラプラスが手を叩く。
「素晴らしいですね。炎を消す能力ですか」
クルスは首を横に振る。
「違います」
ラプラスは、部屋に飾られた鎧から、短剣と盾を取り払う。ラプラスがそれを持ち、クルスに近づく。クルスは迫りくるラプラスの攻撃を自身の拳で受け止める。
クルスの攻撃はラプラスが手にする盾で防がれる。だが、盾が跡形もなく崩れてしまう。
「なるほど。何でも破壊する能力ですか。名称を付けるとしたら理論破壊。この世界に存在する物質は全て錬金術によって成り立っているというのは周知の事実。その理論を破壊するから理論破壊。相応しい名称だと思いますがいかがでしょうか」
「簡単な名前ですね。気に入りました」
「それは良かったと言いたいところですが、あなたは私に勝てません。理論破壊を使用したとしても」
ラプラスが不気味に笑う。




