第四十話 ラプラスの演説
「EMETHシステムの不具合により皆様は突然変異されたわけですね。対処方法は私にも分かりません」
そのラプラスの発言を聞き、四十人は騒然とする。その空気をラプラスは咳払い一つで止めて見せる。
「お静かに。私が言いたいのは、あくまで対処方法が分からないということだけです。どのようにすれば体が元に戻るのか。その方法が分からない。唯一分かるのは、突然変異の原因は、EMETHシステムの不具合であること。具体的ことは分かりませんがね。そこで皆様には、私の実験に協力していただきたい。EMETHシステムには、必ずフェジアール機関が試作段階で見逃したバグが存在するはずです。それを皆さんで探そうではありませんか。私からは異常です」
ラプラスの演説を聞き、三十八人は一斉に拍手する。拍手をしていないのは、クルスとアルケミナの二人だけ。アルケミナはラプラスの発言を聞き、握り拳を作っている。
「それでは、質問コーナーを始めます」
アフロヘアの助手がマイクを握ると、顔が狼になっている男が挙手した。
「どうぞ」
助手は男にマイクを渡す。マイクを受け取った男は早速ラプラスに質問する。
「実験の具体的な方法が知りたい」
ラプラスは質問を受け、再びマイクを手にする。
「簡単に説明しましょう。皆様には研究所の敷地内や国内で絶対的能力を使用してもらいます。我々研究員が絶対的能力に関するデータを収集し、不具合を見つけるというように実験を進めていきます」
狼男は会釈し、マイクを助手に渡す。
「他に質問はありませんか」
ラプラスの助手が、集まった絶対的能力者たちに聞く。すると、アルケミナが手を挙げた。
それに気が付いた助手はしゃがみ、アルケミナにマイクを渡す。
「質問する。なぜシステムの不具合によって突然変異したのか。この場にいる絶対的能力者は全員多種多様な存在。本当にシステムに不具合があったのなら、突然変異するのは一種類のみのはず」
その五歳児からの質問にラプラスは笑み浮かべた。
「システムの不具合で個別性が生まれるのはあり得ないと。確かに君の言う通りです。あまで仮説ですが、突然変異と絶対的能力には因果関係があると思うのですよ。その答えで満足ですか」
ラプラスの質問を聞き、アルケミナが質問を続ける。
「次の質問。性格だけが変化した絶対的能力者を私は知っています。そのメカニズムはどうですか。仮説で構いません」
「そういうレア物もいるんですね。システムの不具合により、精神が異常になったということでしょう。もういいですか」
ラプラスが呆れたような顔を見せると、アルケミナは最後の質問をラプラスに伝える。
「最後の質問。EMETHシステムの不具合を解析したら、万人が絶対的能力を使用できると思うのか」
「面白いことを言いますね。理論上は可能でしょう。EMETHシステムの不具合で一般公募を含む十万人が突然変異したんです。ただの一般人が使えないはずがない」
「ありがとうございました」
アルケミナはマイクの電源を切り、ラプラスの助手にマイクを渡す。




