第三十八話 エクトプラズムの洞窟からの脱出
ブラフマは壁に触れながらアルケミナたちに近づく。すると無数の魔法陣が壁に現れた。
一方アルケミナは槌を地面で叩く。だが、それより早くブラフマの絶対的能力によってハエトリ草のような食虫植物が召喚される。
その数は十を超えている。これだけの数を一斉に召喚することは錬金術では不可能だ。
「アルケミナ・エリクシナ。この状況をどうやって切り抜ける」
「それは地に生えた植物。ツタを伸ばし獲物を捕食する。ある程度の距離を保ちつつ錬金術で対処すれば何とかなる」
そのアルケミナの判断を聞き、ブラフマが笑う。
「その知識は正しい。だけどその知識は通用しない」
ブラフマによって召喚された食虫植物のツタは、近くで気絶している緑色の毛に覆われた三つ目の怪物を突き刺す。すると怪物の瞳に光が戻った。
「このツタに突き刺されたモンスターは、体力を回復して凶暴になる。これも錬金術ではできない芸当だな。こいつは夜凶暴化した主と同じかそれ以上強い。夜に凶暴化した主を仕留めるのは、プロでも難しい。それでも倒せるのか」
ブラフマはアルケミナに問うと、出口の方向に向かう。
「凶暴化した主は暴走する。わしも攻撃に巻き込まるかもしれん。必要な物は手に入ったから、ここは脱出する。次はサンヒートジェルマンで狩りを楽しもうかな」
ブラフマは笑顔を見せ、洞窟の出口から脱出する。彼が脱出した後、凶暴化したモンスターは出口を塞ぐように立つ。
この状況からアルケミナは察する。このモンスターは撃破しなければ、洞窟を脱出することはできない。
三つ目のモンスターは、アルケミナに考える隙を与えず、彼女に襲い掛かる。
そのモンスターは、体中の体毛を猛スピードで生やす。その体毛は一秒間に十センチほど伸びる。
アルケミナはモンスターとの距離を開ける。だが、それより早くブラフマが召喚した食虫植物がツタを生やし、アルケミナを襲う。
クルスは、アルケミナの背後に立ち、伸びるツタに触れる。その瞬間ツタは枯れるが、また新しいツタが生え変わる。
「先生。きりがありません」
「大丈夫。ここは私に任せて。ブラフマが召喚した食虫植物は距離を開けて私が錬金術で対応すれば一発で対応できるけど、問題は主。凶暴化したうえに体毛が生えるスピードが通常の十倍になっている」
「何か弱点はないんですか」
「それは……」
モンスターは会話中にも容赦せず、攻撃を繰り返す。アルケミナは小さな体でモンスターの攻撃を避けながらクルスに言い聞かせる。
「左目が弱点」
アルケミナは素早く、そこに転がっている石を四つ地面に置き、創造の槌を叩く。
ただの石は石炭へと変化する。その後アルケミナは東西南北を牡牛座の記号で構成され、中央に上向きの三角形が記された魔法陣をお召喚させる。それによって生まれた炎が石炭に引火。
それらがアルケミナの回りを包み込む。モンスターたちは攻撃を続ける。だが、アルケミナの回りに置かれている石炭が炎を上げる。
炎はツタに引火。炎は瞬時に食虫植物を包み込んでいく。
それは主も同じだった。主がアルケミナを攻撃しようとすると、炎が体毛に引火する。
主は一瞬動きを止める。その隙を突きクルスが主の左目を攻撃する。
たった一発の攻撃により主は気絶した。
アルケミナは炎を消し、出口まで歩く。その後をクルスが追う。
追いついたクルスは、アルケミナに話しかける。
「凄いですね。あのピンチを切り抜けるなんて」
「凄くない。あの主はブラフマの能力で凶暴化していたけど、無理やり暴走させられたから動きが鈍かった。ただ体毛が伸びるスピードが十倍になっているだけ。鈍かったと言ってもクルスの絶対的能力がなかったら、今頃殺されていたかもしれない。絶対的能力がなかったらあり得ないシチュエーションだけど」
洞窟の先には八大都市の一つサラマンダーがある。まだ日は出ているので、二人はその足でサラマンダーへと向かう。




