第三十六話 ブラフマ対謎の組織
その頃ブラフマは、エクトプラズムの洞窟の出口にやってくる。
彼の目の前には、気絶した一匹の緑色の毛に覆われた三つ目の怪物。
この怪物はエクトプラズムの洞窟の主とされる存在。その怪物が易々と倒されたという事実。おそらくブラフマが洞窟の出口に到着する直前、何者かが怪物を倒したのだろう。
「弱かったよ。そのモンスター」
それは女の声だった。ブラフマが背後を振り返る。そこには右肩に黒猫を乗せた白いローブを着ている女と金髪スポーツ刈りの男がいる。
「殺してはいないよな。このモンスターの血液は錬金術の実験に必要なアイテムなのよ」
ブラフマが女に確認すると、女は笑顔になる。
「もちろん。私もあなたと同じ物が欲しかったからね。手加減したよ」
「錬金術を使用した形跡がないということは絶対的能力者か」
「そう。私たちは絶対的能力者。血液を分けて貰おうという考えは捨てなさい。イケメンだからって手加減しないから」
女がブラフマに敵意を向けると、ブラフマは白い歯を見せる。
「わしは強いよ。何ならルール無視のガチンコ勝負でどうだ」
「あなたって本当に馬鹿だね。ただの錬金術師が三人もの絶対的能力者に勝てるわけがないじゃない」
三対一という不利な状況。それでもブラフマは焦らない。
ブラフマは洞窟の壁に触れる。すると突然魔法陣が出現した。
チャンスだと黒猫は思った。黒猫の瞳が赤く光る。だが、何も起きない。
「どうした。戦わないのか。その様子だと黒猫が絶対的能力を使ったのか。だが、何も起きない。ということはわしの能力は黒猫の能力が通用しないということよ」
「うるさい。マエストロ。一気に倒す」
「一気に殺すだろう」
マエストロ・ルークことパラキルススドライの怪人は手刀で洞窟の壁を切断する。
一方白いローブの女は拳を構える。白いローブの女は一瞬消えて、ブラフマの前に現れる。
ブラフマは何もできず殴られるはずだった。
だが、ブラフマは無傷である。
女の打撃が当たる直前、ブラフマの周囲にバリアが展開されたのだから。
白いローブの女による打撃が当たる直前に、錬金術でバリアを展開することは不可能だ。
どうやったとしても白いローブの女による打撃が当たる。
「何をした」
「絶対的能力を使っただけよ。お前らとは経験や才能が違う。俺は最強だ」
ブラフマの反撃が開始されようとした直前、エクトプラズムの洞窟の出口から、一人の人物が姿を現す。その人物の特徴は中肉中背。それ以外の情報は、白いローブで隠れていて分からない。性別不明の人物は白いローブを着た女に声をかける。
「ここにいたのか。随分探したよ」
「トール。約束は明日のはずでしょう。なぜ探していたのですか」
トールと呼ばれる人物はブラフマの顔を見る。
「ルクシオン。お前は探していない。このエクトプラズムの洞窟を住処にしている錬金術師を探していた」
白いローブを着ている女、ルクシオンが聞き返す。
「この男を見つけたあなたは何をするの」
「挨拶。噂は聞いているよ。エクトプラズムの洞窟を住処にして、多くのモンスターを狩っているそうじゃないか。君の名前を知りたかった。教えてくれないか。君の名前」
「わしはブラフマ・ヴィシュヴァ。お前はこいつらの仲間か。だったら教えてやれ。これ以上の戦いは無駄だと」
ブラフマが名乗るとルクシオンは唇を噛む。
「ブラフマ・ヴィシュヴァ。私の宿敵」
そんな彼女の顔を横眼で見ながら、トールが口を開く。
「やっぱり。五大錬金術師のブラフマか。随分と探したよ。私はトール・アン」
「トール・アン。ルクシオン。お前らはアイザック探検団のメンバーを殺害し、絶対的能力を手に入れた。そうでなければ、お前らが絶対的能力を手に入れることができない」
ブラフマの脳裏には、ある危険な錬金術研究機関の名前が浮かぶ。その答えにトールは不敵な笑みを浮かべる。
「ご名答。因縁の決着は後程ということで、私はこいつらと一緒に洞窟を脱出する。無益な戦いはやりたくないからね」
トールはルクシオンたちと共に洞窟を脱出する。




