第二十五話 救世主
その頃、クルス・ホームは少年と共に行動を共にしていた。
「ここまでくれば安全だろう」
ここはパラキルススドライの怪人から避難してきた人々が集まるエリア。
クルスは、そのエリアの中で野次馬が多く集まっている場所を見つける。
「おい。大丈夫か。お嬢ちゃん」
その野次馬の中から聞こえた男の声。野次馬の中央で、誰かが倒れているらしいことがクルスには分かった。
倒れているのがアルケミナだとしたら。クルスの脳裏に嫌な予感が過る。
「ごめんなさい。少しあの野次馬が気になるので見てきます」
クルスは少年に伝え、野次馬に合流する。
クルスは野次馬に紛れている男に聞く。
「何がありましたか」
「突然クッションマットが現れた。そのマットの上に小さな女の子が落ちてきた」
「小さな女の子」
突然出現したクッションマット。落ちてきた小さな女の子。クルスが抱く嫌な予感は現実になろうとしている。
クルスはクッションマットの上で仰向けに倒れている女の子に目を向ける。そこに仰向けの状態で倒れていたのは、右足を負傷したアルケミナだった。
「先生」
クルスは野次馬たちを払いのけ、クッションマットの上で倒れているアルケミナに近寄る。
アルケミナは小さく唸り、呟く。
「疲れた」
その一言にクルスが唖然すると、アルケミナは瞼を開け、再び呟く。
「疲れた」
「先生。それが最初に言うことですか。僕がどれだけ心配したのかを分かっていますか」
「本当に疲れた。だって久しぶりに六割くらいの力を使って戦ったから。あれくらいやらないと生き残ることはできなかった」
戦った。生き残れない。まさかと思いクルスはアルケミナに尋ねる。
「戦ったと言いますと、まさかパラキルススドライの怪人と戦ったのですか」
「うん。でも私は逃げただけだから、怪人は無傷。精神的ダメージなら与えられたかもしれないけど」
「精神的ダメージって。何をしたのですか」
「一般人にはできない芸当を使った脱出劇。疲れたからおんぶして」
「分かりました」
クルスはアルケミナを背中に背負い、野次馬たちから離れた。
「マジかよ。聞いたか。あの女の子はパラキルススドライの怪人と遭遇して生き残った唯一の人物らしいぜ」
野次馬の一人がクルスとアルケミナの会話を聞き驚愕する。
この噂は物凄い速さで伝染していく。パラキルススドライの怪人と対抗できる救世主が現れたと。
間もなくしてクッションマットは消滅する。




