第十九話 絶対的能力実験
広大な土地に吹き荒れる砂嵐。地面は乾ききっている。そんな場所にアルケア八大都市の一つ、パラキルススドライがある。
三日月が輝く夜、パラキルススドライで一番大きい宝石店に侵入者が現れた。顔を白い仮面で隠した、金髪スポーツ刈りの侵入者の目的は宝石の強奪。
黒いローブに身を包んでいる男は最近パラキルススドライを騒がしている怪人。堂々と宝石店に侵入した怪人の耳に警報アラームの音が聞こえたのは一秒後のことだった。おそらく一分も満たない内に警察官たちが宝石店に集結するだろう。
怪人はそれでもショーケースを壊す。怪人の手には金属バットの類が握られていない。
怪人の縦にした片手を、体からやや離した位置で小さく数回上下させる。すると、銃弾でさえも貫かないショーケースが簡単に切断された。
怪人は同じ要領でショーケースを次々に壊していく。それから一分後、怪人の回りを警察官が囲んだ。
「パラキルススドライの怪人。お前は包囲されている。逃げ場はない」
その言葉を聞き怪人は仮面の下で笑う。怪人を囲んだ警察官たちは錬金術で怪人を逮捕するため、槌を振り下ろそうとする。だが、その槌は怪人の手刀によってあっさり切断される。
「なるほど。槌も切断できるのか。素晴らしい能力だ。最後に証明しようかな。この能力に不可能がないのか」
怪人は白い歯を見せ、警察官たちに右手の甲を見せる。そこにはハッキリとEMETHという文字が刻み込まれていた。
それから一分後、怪人は警察官の包囲網から脱出した。
怪人が荒野を走る。その怪人の前に、白いローブを着た大柄な体型に茶髪のショートヘアの女が現れる。その女の右肩には黒猫が乗っている。
「君がパラキルススドライの怪人だよね。三日前からパラキルススドライを騒がしている悪党。私たちの仲間にならないかな」
女の問いかけに怪人が笑う。
「愚問だな。俺は自分の能力の可能性を確かめたいだけ。ただの盗賊団の仲間なんかにはならない」
「あなたは二つの勘違いをしているよ。一つは私たちが盗賊団のメンバーではないということ。もう一つの勘違いは、ただの人間ではないということ」
女は白いローブを脱ぎ、素肌を晒す。水色のノースリーブを着ている女の左腕には怪人と同じEMETHという文字が刻み込まれている。それを見て怪人は納得した。
「なるほど。お前も能力者か」
「私に右肩に乗っている黒猫ちゃんも能力者。尻尾にEMETHという文字が刻み込まれているでしょう。あなたが自分の能力の可能性を試したいのなら、実験に協力してあげてもいいよ。やったことがないよね。絶対的能力者通しの直接対決」
その女の言葉を聞き怪人が拍手する。
「面白い。百人目の被害者が絶対的能力者というのも悪くない。だが、二対一というのはアンフェアではないか」
「大丈夫。この黒猫ちゃんは錬金術が発動した時限定の能力だから」
「それは信じてもいいのか」
「もちろん。殺し合いはやりたくないから、マスクゲームでどうかしら。私も仮面をつけるから。ルールは至ってシンプル。相手のマスクを破壊した方が勝ち。ただし相手を殺した場合は敗北を見なす」
「分かった。殺さない程度でやる」
怪人と女の対峙。その決着はわずか一秒で決まった。女の絶対的能力によって怪人のマスクが破壊されたのだから。マスクが壊され、露わになった怪人の頬から出血が生じる。
「何をした」
怪人が傷口に手を触れながら女に尋ねる。
「だから言ったでしょう。絶対的能力を使ったって。どうやら、私の能力とあなたの能力は相性が悪いようだね。相手が黒猫ちゃんだったらあなたが勝っていたでしょうけど」
「ふざけるな。俺は黒猫一匹しか殺せないということか。俺はお前らと会う前に……」
怪人の激怒を嘲笑うように、女は自信満々に頬を緩ませる。
「それで勝ったつもり。私と黒猫ちゃんのペアだったら、それと同じ結果をあなたの三分の時間を使って実行できるけどね。それで、仲間になるつもりはあるかな。私たちの仲間になれば、別の仲間と実験をさせてあげてもいいよ」
女の問いかけに怪人は意外な言葉を口にする。
「俺の能力が完璧な物だと証明されたら考える」
「それは断っているのかな。私に勝てなかった時点で完璧ではないと」
怪人は首を横に振る。
「違う。なんでも切断できる能力と世界一固い石とされるクラビティメタルストーン。戦ったらどちらが強いのか。それを証明するまでは決断できない。俺が勝てば、能力者ではない一般人を無差別に殺すことができると証明できるからなぁ」
「分かったよ。それなら、その対決を見守っているからね」
茶髪の女と黒猫は暗闇の中に消えた。




