第7話 冒険者ギルドの依頼と、武具屋の不良品
魔王軍の情報を冒険者ギルドが保管している。
依頼も出しているようだが、Bランク以上の冒険者に昇格しなければ受けられないらしい。
俺の現在の冒険者ランクはD、まだ登録したてで薬草の収穫しかしていないので当然と言っちゃ当然の低ランクだ。
「じゃ、強いモンスターの討伐依頼をくれよ。そいつを倒したら飛び級で昇格できるだろ?」
「無理ですよ、強力なモンスターの討伐はCランクからです」
「地道なのは大切だが、これじゃBランクになるまで数ヶ月もかかっちまう……なんかもっと、効率よくランクを上げられる依頼はないのかよ?」
冒険者ギルドの受付嬢キララに、何かいい依頼がないかを確認する。
強いモンスターを倒してBランクまで飛び級で昇格したいところなのだが、ルールが厳しくて危険な依頼を出せないらしい。
「ランクを上げたいのなら初級のモンスター討伐が一番効率がいいですよ。ゴブリン討伐とか、スライム討伐とか」
「そっか……なら、それにする」
仕方なく依頼を受けることにした。
薬草集めばかりじゃ飽きるし、ランク昇格の近道になるのなら大歓迎だ。
「その子は、昨日は連れていませんでしたよね? か、可愛いですね……」
キララは、俺の後ろに隠れている獣人族ルナに指をさして、撫でたそうにしていた。
「ルナだ、こいつをパーティに入れたいから冒険者登録もお願いできるか?」
「いいですけど、まだ小さい子供なのであまり危険なことはやらせないでくださいね?」
「あったりまえだ」
安い宿でも二人で泊まるとなると一泊でも、かなりの出費になる。
町のどこかで留守させるわけにもいかないし、考えた末に連れて行くという判断に至った。
獣人族は身体能力が高く体力があると言うし、仕事の手伝いぐらいはさせてもいいだろう。
さすがに危険なのでモンスターとは戦わせないけど。
(この体で何ができるか確かめたいし、ゴブリン共で検証してみよう)
そうして俺は、ゴブリン退治の依頼を受けるのだった。
町の”武具屋”にやって来た。
カウンターの奥にいる店主おっさんが面倒くさそうな顔でこちらを見ていた。
そして小さくニヤけたような気がした。
(カモだと思われたな……)
浮浪者のような身なりをした二名。
聖剣はバレないように鞘袋で包んで背負っている。
鎧などの防具を一つも着ていない。
「今日はどんな用で?」
「あー、安くて丈夫な鎧が欲しいかなーなんて」
苦笑しながらそう返すと、店主はため息をついた。
金がないのがバレた。
「そこの隅っこにある中古の中から選べ。ちょっぴしなら値引きしてやるよ」
「マジか! ありがとな、おっちゃん!」
「誰がおっちゃんだ、ヤロウ。こう見えてもまだ二十八歳だ」
俺は隅っこにある汚い防具の中から、ルナに合うサイズを探す。
今回は俺ではなくルナの防具を買いに来たのだ。
「おいルナ、この中から好きなモンを選べ。こういうのはフィーリングだ」
そう言って、俺は左手に頑丈で重そうな胸当てと、右手に防御力低そうなデザインがいい胸当てをルナに見せる。
「……こっちが良い」
ルナは右手のデザイン重視されている胸当てを選んだ。
次は篭手、足、どれも彼女はカッコいい方を選んでしまった。
(センスはあるが、これじゃ防御力が心許ないな……)
「全部で3万ゴルドだ。毎度あり〜」
今回も遠慮するかと思ったが、ルナはどうしても欲しそうに尻尾を振っていたので、買うことにした。
三万か、ちょっと高いけど他の飾られている鎧と比べたらマシな方だ。
上等なやつは一つだけでも十万以上はする。
腑に落ちない気持ちのまま、店を後にするのだった。
ゴブリン退治をするため、町を出発する。
その道中。
「シオン様、ありがとうございます……」
ルナが何度も何度も、感謝を伝えてくる。
防具を買ってもらえて、相当嬉しいようだ。
「いいよ、依頼の達成も大事だけど、それよりも傷つかない、死なないことの方が大事だ。あー、あまりスピーチは得意じゃないが、これが最善だ! ってワケ」
ガーベラも口下手で、勇者パーティをよく困惑させていた。
俺もそうだ、なんか意味の分からないことを言ってサムズアップしている。
「うん、うん、わかった!」
だけどルナは尻尾を震わせて何度も頷いてくれた。
あ、分かったのね。
「あ、プヨプヨ!」
ルナは遠くの方を指さした。
草原のど真ん中で”スライム”がプヨプヨと弾んで移動している。
愛くるしい姿をしているがモンスター。
普通に人間を襲うし、殺すことができる危険な存在だ。
目や鼻がないので、こちらに気づいているのかは分からない。
だけど、明らかに足音を立てて至近距離まで近づいても、スライムは慌てた様子を見せなかった。
こちらを脅威だと思っていないのか。
とりあえずスライムに、何か攻撃魔術を放とうと手に魔力を込めようとする。
すると突然、隣にいたルナがスライムに飛びついて、爪で引っ掻いた。
四つん這いになって、グルルと威嚇している。
(うおっ! 結構速い!?)
やはり獣人族なので移動するスピードが桁違いだ。
攻撃力も高く、スライムはその場で溶けて動けなくなってしまう。倒したのだ。
「シオン様! やったよ! 私やったよ!」
尻尾を振りながらルナが近づいてくる。
撫でてやろうと思いながら彼女に手を伸ばそうとすると―――
ルナの装備している防具が一斉に砕けるように壊れてしまう。
それを見ていた俺は固まってしまい、装備していたルナも顔を青ざめていた。
「あっ……ああ……」
ルナは目元に涙を浮かべている。
それを見た俺は、込み上げてくる感情を吐き出す。
「あのジジイィーーーーーーー!!!!」
「いや、だから二十八歳だって」
武具屋にて。
食事を取っていた店主は、誰もいない部屋で独り言のようにツッコむのだった。




