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魔王亡き世界で勇者パーティを追放された無能と呼ばれた魔術師、実は転生した冷徹非情な魔王様でした。  作者: 灰色の鼠
プロローグ 追放と覚醒

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第5話 冒険者ギルドと奴隷商人


 勇者の死から一ヶ月後。

 聖暦120年4月20日。


 魔王軍の情報を得るべく、リグレル王国の王都近くにある町にやってきた。


 あの日から明らかに肉体がゴツくなって顔の骨格が変わっている。


 どこにでもいる黒髪少年から、銀髪イケメンフェイスに成長していた。


 建物の窓にかすかに自分の姿が反射しているので、ニッと笑って歯を確認する。

 鋭い牙になっていたはずの八重歯だが、普通の歯並びに治っていた。


「まさか、俺があの無能魔術師だって誰も思わないよな……?」


 勇者パーティのメンバーなので、俺もちょっとした有名人だ。

 ”足手まといの無能な魔術師”という悪い意味でだけど。


 とりあえず冒険者ギルドへと行こう。

 勇者ガーベラが情報収取をする時は、そこが一番打って付けの場所と言っていた。


 建物の中に入ると、中にいた奴らから一斉に注目を浴びてしまう。


「誰だ、あいつ……」

「一瞬だけ恐ろしい気配がしたような」

「見ない顔だ、もしかして新人? いけ好かねぇ顔だな、イビってやろうかな」


 やはり、誰も俺に覚えがないようだ。

 この冒険者ギルドには頻繁に出入りしていたのに、寂しい奴らだな。


 入ってすぐ横から知らない冒険者に飛び蹴りされて。

 飛び蹴りしてきた冒険者を勇者パーティの戦士ギルバートがシメてくれていたけど。


 もう彼らはいない。

 これから先は、俺一人でやらなければならない。


「あのさ、ちょっといいか?」


 窓口の受付嬢に声をかける。

 掲示板に依頼が張り出されているが、こっちの方が手っ取り早い。


「は、ははい! 本日はどのようなご依頼を!?」


 受付嬢は知らない顔だった、もしや新人か?

 まあ誰でもいいけど。


「いや、依頼ってより聞きたいことがあってさ。知らないなら別にいいけど……なんか魔王軍に関係する依頼とかってない?」


 周りに聞かれないように、受付嬢に耳打ちする。

 それを聞いた受付嬢は、なんか「はわわ!」と情けない声を出した。


「ま、魔王、魔王軍の依頼ですか!? で、で、でも」

「シッ、声は小さくしてくれよ。周りに聞かれたくないんだ。なくても情報だけでもいい、頼めるか?」

「え、ええと、あるにはありますが」


 よっし!

 やはり冒険者ギルドに来るべきだな!


「受注するには制限がありまして……冒険者さんのランクと参加するメンバー数によります。冒険者ランクとパーティメンバーを教えていただけますか……?」


 受付嬢は目元に涙を浮かべながら聞いてきた。


「あ、悪ぃ。俺、まだ正式な冒険者じゃなくてさ。登録の手続きが必要ならするし、メンバーとかいらないから」

「……」


 受付嬢が黙り込んで、驚愕してきた顔で見てくる。


「そ……それなら駄目です! 絶対に駄目です!」

「え! 何で!? ルール厳しい感じ!? 冒険者登録できないの!?」

「違います! 冒険者登録をする権利は誰にだってあります! でも、魔王軍関連の依頼は駄目ですっ!」

「えっ」

「えっ!? じゃありません! 当たり前じゃないですか! こんな危険な依頼を登録したての新人に任せるなんて……そんなの有り得ませんから!?」


 なるほど、反論の余地がない正論だ。

 俺は口論がヘタなので言い返すことができない。


「ならさ、依頼は受けないから情報を教えてくれないかなぁ? それならわざわざ冒険者登録をせずに済むし、俺に報酬を出す必要もなくなる……」

「おバカなんじゃないですか!? もっと駄目ですよ! 冒険者じゃない人に情報を渡せるはずがないじゃないですか! それに、こんな危険な依頼を私一人の判断で、貴方に委ねるわけには……とにかく駄目ですから!!」

「お、おっす……」


 迫力に押し負け、黙り込んでしまう。

 てか声大きすぎて、周りの冒険者が注目しちまっている。


「おい、そこの新人。なに俺らのキララちゃんを困らせてんだよ? 調子に乗るのも大概にしろよ? ああ?」

「冒険者でもない部外者のくせに受付嬢に迷惑かけんなよ? ちょっとこっちに来い」


(やばい状況になってしまった……)


 気づけば、屈強な冒険者方に囲まれてしまった。

 キララちゃんて、もしかしてこの小動物のような受付嬢さんのこと?


「おい、なんとか言えよこの野郎」


 一番強そうな男に詰め寄られる、鍛え上げられた筋肉で素晴らしい。

 いや、そんなことよりも。


「すみません、俺のせいです。お騒がせして、すまねぇ……です」


 冒険者でもない部外者が勝手できるはずがないし。

 そこにいる受付嬢に迷惑をかけたのも事実だ。


 魔王軍の情報を得られるかもと思って、周りを見えていなかった俺に非しかない。


「あ、あの……私は大丈夫ですから」

「ぐっ、キララちゃんが大丈夫でも、俺達が許せねぇ! 来い! 調子こいてる奴には焼きを入れてやる!」


 そう言われて、男に首根っこを掴まれて引きずられる。

 あれ? 素直に謝って非を認めたのに、これって駄目なパターン……?


(何かを間違えちまったのか? ちょっと待てよ! 騒ぎは起こしたくねぇんだよ!)


 抵抗しようと掴んでいる男を睨みつける。


 すると、男は立ち止まって、冷や汗をかきだした。

 顔を震わせて、口を半開きに恐怖に染まった表情で俺を見ていた。


(あ、やべっ……)


 すぐさま威圧を止めると、男に首根っこを離される。

 解放された俺は男から距離をとって「ごめんな!」と謝罪するが、周りの取り巻きは俺が何かをしたと勘違いしたのか、各々拳を構えてきた。


 殴り合いの喧嘩が始まろうとした、その時。


「なぁにしているのかナァ〜? 君たちは〜?」


 背後から悪寒を感じて、俺含めて全員がそちらに視線を向ける。

 そこにいたのは小さな少女、茶髪の髪と赤い瞳孔。

 アホ毛を揺らしているアホっぽいが、笑顔が怖い。


「あ、アマネさん! 帰っていたのですね!」

「す、すいやせん! ちょっと遊んでいただけで!」


「そう? 問題ごとはナシにしてもらえると助かるなぁ。君たちのせいで町での冒険者ギルドのイメージを落としたくないからね。仲直り、仲直り☆」


 アマネと呼ばれた少女に、冒険者たちは恐れのような視線を向けていた。

 確かに、彼女からは異様な感覚を感じる。


「君たちも仲直り、仲直り☆」


 アマネは俺と男の手を掴んで、強引に握手させられた。

 男は笑顔を受けべて「ごめんなさい」と叱られた子供のように謝ってきた。


「俺の方こそ、すまん」


 謝罪すると男はうんうんと頷いてから、逃げるように目の前から消えた。

 俺とアマネという少女? 冒険者? 目を輝かせている受付嬢キララが残される。


「新人くん、怖い思いをさせてごめんね。血の気の多い連中ばかりでさ、そこにいるキララちゃんのことをアイドルのように拝んでいるから、接するときは注意してよ

 ね」

「あ、ああ」

「それとルールは守ってくれ。依頼を受注したいなら冒険者として登録、仲間を探せ。いいね?」


 アマネは手を振りながら、建物の奥へと行ってしまった。


(いつから話しを聞いてたんだよ……?)


 そんなことを思いながら、窓口に戻ると受付嬢キララが、まだ目を輝かせてアマネの後ろ姿を見ていた。


「あいつは、誰なんだよ?」

「あ、あの方はですね! 我らが冒険者ギルド唯一のSランク冒険者なんですよ!」

「Sランクって、つまり、一番強いってことなのか!」

「そうです! ちっさくて可愛くて! ものすごく強いんですよ!」


 へぇ、人って見た目によらずだな。

 あんな小さな体しているのに強いとか、まるで勇者ガーベラのような人だな。


「そ、それで、本日はいかがなさいますか……?」


 受付嬢キララは、緊張したように震えながら俺に質問してきた。

 まあ、ルールなら仕方ないか。


「冒険者登録をするよ。ランクを上げればいいんだろ?」

「は、はい! それはもちろんです! 魔王軍関連の依頼はBランク以上じゃないとお受けできないのです……好きで依頼したい人はいませんが」

「了解、じゃ手続きヨロシクなっ」


 近くの椅子に座って、登録の手続きを始める。





 とりあえず薬草の依頼を終わらせて、初めての報酬を得た。

 一ヶ月間、野営生活だったので、今日は宿に泊まろう。


 そう思いながら町を歩いていると、偶然通りかかった道の前に馬車が停まっていた。

 馬車の持ち主であろう男が、その前で騒がしくしている。


「貴様! 何を止まっていんだ! 立って! 歩けぇ!」


 ムチを持った太った男、商人だろうか?

 地面に膝をついている獣人の子供に怒号を浴びせて命令していた。


(奴隷商人か……)


 気の毒に思いながら、その場から離れようとしたが。


「きゃっ!」


 男がムチで叩いて、子供が悲痛な声を上げる。

 それが耳に届いて立ち止まり、無意識に奴隷商人に近づく。


「てめぇ、痛がってんだろうが。血も出てるし、やり過ぎだ」


 頭をムチで叩かれたのか、子供の額から首元まで血が流れていた。

 最近覚えた治癒魔術で治してやろうとすると、奴隷商人に腕を掴まれてしまう。


「そいつは俺の商品で、俺がどうしようと勝手であろう? そういう小汚い貴様は、人の所有物を勝手に治しちゃ困るよ」

「ああん?」

「どーせ、治した後に私に治療費を請求する気なのだろ? その手には引っかからんよ。そんな人権のない、肥溜めの中で生きてきた何も持っておらん奴隷を、ただで助けるなど誰が……」


(このクズが……!!)


 我慢できず奴隷商人の後頭部に両手を回して、額に頭突きする。

 鈍い音が響いて、奴隷商人は額から血を流しながら気絶してしまう。


「あっ……」


 大通りなので通行人に注目され、騒ぎになってしまう。


 浮浪者のような身なりをしているガラの悪い俺。

 気絶させてしまったボンボンの金持ちの格好をした商人。


 これって、俺が悪いですか……?





「あ、あのお兄さん……」


 頭を抱えていると、奴隷にされている獣人の少女が近づいてきた。

 目元から涙を浮かべ、頭から流れている血と交じっている。


「ん、ああ、大丈夫か? すぐ治してやるからな」


 治癒魔術をかけるために頭に手を置こうとしたが、獣人の少女に腕を抱かれる。


「た……助けてください……お願いします……」


 泣きそうな顔で助けを乞われる。

 ロクな物を食べさせてもらえなかったのか体はガリガリにやせ細って、痣だらけだ。


 懐から冒険者ギルドの依頼から得た報酬を取り出す。

 薬草採取をした金と、あとは。


 別のポケットから勇者パーティだった時代に、貯金していた金の入った布袋を出して、気絶している奴隷商人の場所に置いておく。



 奴隷を、しかも獣人族の少女を買ってしまった。


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