表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第1部 第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

98/358

96 連絡はなかなかこない

 カレンとペトラは翌日も、フィオナの様子を見るために病院を訪れた。

 その帰り道、歩きながら空を見上げると、水色の空にたくさんの綿のような真っ白い雲が浮かんでいた。どの雲にも動きはなく上空に(とど)まっているように見える。


 ペトラはしばらく上を向いて歩いていたが、その空に関する感想が聞こえた。


「あの上まで飛んで行けたら気持ちいいだろうなあ」

「船で?」

「ううん、このまま、飛び上がってあそこに浮かぶの」

「それって、人が飛ぶっていうこと?」

「そう、シアならできるんだろうけど。わたしもあそこに浮いてみたい」

「どうして空艇じゃないの?」

「あそこで暮らすの」


 無邪気そうな声に頭を回してペトラの目を見る。本気なの?


「空の上で生活するの?」

「そうだ、空に町を作れないかなあ」

「へえ、すごい。そんなこと考えたこともないわ」

「雲の上に行くと、どんな景色が広がっているのか知ってる?」

「下にあの白い雲が見えるだけかしら? それとも上から見ると雲は違っているのかしら。……全然わからないわ」


 そもそも空艇ではどこまで上に行けるのかしら? この前乗せてもらったときはそれほど高いところを飛ばなかった。


「でも、町ごと浮かぶなんて、そんなの無理だわ」

「できないと決めつけることはできないよ」

「ああ、そうだったわね。でも、とんでもない量の作用力が必要」

「うん、そうだね。でも、作用力に頼らない方法もあるかも」

「技術力で何とかするの?」

「フェリシアは何か知ってるかもしれない。今度、聞いてみよう」

「確かにフェリならそういったことには、すごく興味を持つかもしれないけれど……」



***



 日が昇ってからも遅くまで、カレンとペトラは並んでベッドに横になっていた。


 セインに帰ってきてからすでに三日目だった。ここ二日ほどは、午前中に病院のフィオナのところで過ごしたペトラは、午後には力軍の習練場にかよう毎日だ。ここでも、訓練にはクリスが付き合わされているらしい。

 そのクリスは昨日から休暇を取っている。今日は朝から病院にいるらしい。


 昨日聞いた話だと、インペカール軍がマイセンの近くにいるらしい。

 オリエノール軍もマイセンに部隊を派遣するらしいし、いったい大同盟はどうなったの?

 戦争が始まるんじゃないでしょうね。こんな、北からの脅威が増しているときに、国と国が牽制しあっている場合ではないのに。


 ダンは、無事許可が出たので、昨日、アッセンに向かう貨客艇に乗ってロイスに戻っていった。もう着いているだろうか。




 ペトラが沈黙を破った。


「シアは遅いね?」

「うん、もうとっくに戻ってきてもいいはずなんだけど……」

「道に迷ってるとか?」

「え? シアが? そんなことありえないから」

「じゃあ、シャルの居場所がわからない?」

「それもありえない」

「じゃあ、どうして遅くなるわけ?」

「それは、幻精は人にしたがっているわけではないし、単に、興味本位で協力してくれているだけだと思うし」


 ペトラの口調には少しいらだちを感じる。


「シャーリンのところに行くために、クリスには休暇を取ってもらったのに、むだにすると怒られるなあ」

「え? アリシアさんに?」

「いや、クリスに」

「そんなことはないと思うけれど。ほら、病院で過ごすとか」

「ああ、そうだね」


 この待ち時間のおかげで、フィオナも一緒に行けるかもしれない。


「幻精には、友人との約束とか、家族に対する愛とか、そういう概念というか、そもそも感情はあるのかなあ」

「約束のことを言うとね、約束はたぶん守ると思う」

「それじゃあ、シアはカルに愛を感じてる?」

「愛? そういう概念があるのかどうかもわからないわ。でも、どうしてそんなこと聞くの?」

「レイは、幻精をどんな姿にでも作れるんでしょ。でも、あえて人の形を選んだ。それは人に対する愛の表れなんじゃないの?」

「単に、人と接触するには人の形態を取ったほうがいいと考えただけだと思うけれど、わたしは。ティアだってシアとほとんど同じ姿だったじゃない」

「そうかなあ」

「たぶん、人と同じ五感がなければ人の体験は記録できないわ。実際、幻精は信じられないほど鋭い知覚を持っているのよ」

「ふーん」



***



 病院に行く準備をしていると、シアがやっと戻ってきた。

 まずはとにかく、シャーリンの居場所を聞き出す。

 最初は聞き間違いかと思った。


「ウルブ5に向かった? なんでそんなところに?」


 ペトラも首を(かし)げていた。


「それに、ケイトの家って、ケイトって人の名前?」


 カレンはペトラと顔を見合わせたあと聞いた。


「シア、ケイトって誰なの?」

「メイの母親」

「メイって誰のこと?」

「ミアの妹」

「ああ、そうか。思い出した。ミアは妹がいると言っていたわ。でも、ケイトがミアとメイのお母さんなら、その家はウルブ1にあるのじゃないの?」

「ケイトはこの世に存在しない」

「亡くなったということ?」


 シアがうなずくのを確認する。少し考えて結論づけた。


「つまり、ミアとメイの母親が以前に住んでいた家に向かったということね。でも、何のために?」


 シアは小さな肩をすくめる動作を見せた。これを見たペトラは立ち上がると扉に向かった。


「クリスをつかまえて話さないと。朝から病院にいると言ってたから行ってくる。昨日から休暇を取ってもらってよかった。とにかくウルブ5に行くには船が必要だし、何とかしてもらわなくちゃ」


 ペトラはあっという間に出ていった。




「シア、ウルブ5のケイトの家に何があるの?」

「四人に関係する何かが出てくると期待しているらしい」

「四人? ミアとメイとシャーリンね。もうひとりは誰?」


 シアはこちらを見つめた。


「カレン」


 え? わたし? どういうことだろう?

 そのあとしばらく、シアは部屋の中を飛び回っていたが、やっと降りてきた。


「ザナに言われなかった?」


 そうだ。ザナは、ミアとメイとシャーリンのところに行けと言っていたっけ。そうすれば記憶の扉が開かれるかもと。それを思い出すなり、なぜかドキドキしてきた。


 その家にわたしに関する何かがあるということなの? 記憶が戻るかもしれない。それなら急いで行かないと。でも、昨夜向かったのならもう着いているはず。

 すでに何か見つけたかしら?


 どうしよう、何かよくないことだったら。ああ、でも、ザナがああ言ってくれたということは別に悪いことではないはずだ。

 いつの間にか、部屋の中を歩き回っていることに気づいた。ペトラが考え事をしている時みたいに。慌てて、ベッドの上に座る。



***



 じりじりしながら待っていると、ペトラと一緒にクリスが部屋に現れた。

 状況を説明したが、彼から船はすぐには借りられないと言われる。


「でも、車ならなんとかなる」


 クリスはそう断言すると扉に向かった。


「ちょっと待って、クリス。わたしも行くから」


 クリスは扉を開いたまま待っていた。


「カル、わたしはフィンのところに行ってくる。二、三日留守にするって言っておけばいいかな。それくらいで戻ってこられるよね?」

「たぶん」

「じゃあ、急いで行ってくる」


 ペトラはクリスと一緒にばたばたと出かけていった。


 シアがもう少し早く教えてくれればいいのに。でも、シャーリンがなかなかひとりにならなかったのならしょうがないわ。

 カレンは急いで旅の準備を始めた。


◇ 第1部 第3章 おわり です ◇


◆ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ