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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第1部 第3章

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77 ザナとの出会い

 前方に(あか)りがぽつぽつと見えてきた。

 カレンは船長の隣に立ち、操舵室から急速に移ろう夕暮れの空を眺めていた。横の窓から頭を出して前方を熱心に見ていたペトラがこちらを向いた。


「あれがタリの川港?」

「そうです」


 うなずいた船長は船の進路を若干変えたあと、推進機のレバーを停止に入れた。


「町灯りが見えないのだけど。というか、そこに町があるとは思えないよ」


 操舵室の窓越しにもぼんやりと船着き場らしきものが見えてきた。船の推進音が止まると、あたりがとても静かなのに気づく。何も聞こえない。


 ここから車で数時間のところに最前線の基地があり、そこに物資を輸送するための物流基地がこの地だとは想像すらできない。まるで世界から隔離されたかのような重々しい雰囲気にゾクッとした。本当にここなの?


「ここら辺はもとはちっぽけな村だったんです。農場がいくつかあるだけの。それが、あの紫黒の海が南下してきて、ここからずっと北側に阻止線が造られるようになると、ここが物資の輸送拠点になったんでさ。それからすぐに、宿屋とか食料、いろんな雑貨を扱う店が次々とでき、それがだんだん大きくなって今の町になった」


 カレンは疑問を口にした。


「ということは、ここを利用するのは軍隊だけですか?」

「いや、そんなことはないよ。軍人とはいえ人の集まるところには、いろんな商売人がやってくるもんだ。今じゃ、そこそこの規模になってる。町は川からちょっとばかし離れてるからここからじゃあんまり見えんけど、降りてみればわかりますわ。ほれ、あそこに森が見えるじゃろ。あの向こうに町がある」

「ああ、だから灯りが見えないのか。何かすごく寂しいところでびっくりしたわ」


 そう言いながらペトラは頭を引っ込めた。


「それにやけに風が冷たい」


 船長は同意するように首を動かした。


「この時期になると夜は急に冷えるからな。さてと、他に船はなしと。中央桟橋につけますよ」




 推進機を止めてからも船はかなりの惰性で桟橋に接近していき、ぶつかるのじゃないかと思った瞬間に急に減速して、かすかにきしみながら桟橋に横付けされた。絶妙のタイミングだった。

 どうだと言わんばかりの船長の横顔を見つめる。


 外に出ると風はひんやりしているものの何となく心地よい。この小さな川艇には不釣り合いなほど大きくて立派な桟橋だ。おそらく、もっと大きい輸送艇が余裕を持って接岸できるようになっているのだろう。


 四人が桟橋に降り立ち、船員が渡してくれる荷物を順に受け取っていると、こちらに足早に歩いてくる人が目に入った。他にも船が来るのかと振り返って見たが、そのような気配はない。


 カレンは、感知を使おうかと一瞬考えたが、すでに、荷物を下に置いたクリスが客人に気づいて、少し前に進み出た。とりあえずここは様子を見ることにした。


 薄暗い中、その人の外見がしだいにはっきりしてくると、どういうわけかゾクゾクとした緊張感が増してきた。ほとんど黒に見える長い髪が印象的な女性だ。


 黒髪は西国の作用者に見られる特徴だということが頭の中に浮かび上がってきた。確か、インペカールの向こうには六つの王国がある。どの国家も作用者が大きな力を持っていると聞いた。

 あの人はそのいずれかの国からやって来たのだろうか。


 クリスがペトラの前に守るように立つのが見え、作用力の高まりを感じる。でも、向こうから歩いてくる女性からは作用力が押し寄せてくる気配がまったくない。


「クリス、落ち着いてください。それは必要ないようです」


 カレンは声をかけると、その女性がすぐ近くまで来るのをじっと待った。暗い上に灯りも乏しいためはっきりはしないが、目の色も濃いように見えた。

 この人は確かに西の生まれに違いない。そう確信した。でも、よく知らない国の人なのに、なぜか危険はないと感じた。


 どういうわけか、自分の中で作用がうねり震える。突然、体が熱くなったように錯覚する。この高揚感はなんだろう? そう言えば前にも、このつかみ所のない何かが交錯するような感覚を味わった。どこでだっけ?




 その女性はすぐ近くまで来ると、カレンをまっすぐ見てわずかな微笑を見せたが、それもたちまち消え失せた。


「カレン、早かったわね」


 意外な一言に驚いて心臓が止まりそうになった。


「ど……どなたでしょうか?」


 やっと発した声はかぜをひいたみたいにかすれ、からからの喉がひりひりした。


「ザナ。伝言はちゃんと届いたみたいね。よかった」

「あなたがザナ……さん?」


 どうして今夜タリに着くとわかったのかしら。

 ザナは下に置かれた荷物と船に目をやったあとで尋ねた。


「荷物はこれだけ?」

「はい」

「それじゃ、行こう」


 そう言ったあと、思い直したように付け加えた。


「今日はここに泊まります。宿もとってあります。タリでは一番まともなところ。迎えは明日の昼頃に来ます」


 ザナの説明は丁寧だがとても簡略だった。それから、くるっと向きを変えると歩き出した。


 ペトラの「宿?」と言う声と、「迎え?」と聞くカレンの声が重なった。

 少し遅れてクリスののんびりとした質問が聞こえた。


「こちらの方はお知り合いですか?」


 ダンだけはただ無言で立っていた。




 ザナは立ち止まると再び体の向きを変えた。

 カレンはまだ誰も紹介していないことに気づき、慌てて、ペトラの名前を告げた。あとの二人の紹介は彼女にまかせる。


 ザナはうなずくとこちらを向いて口を開いた。


「伝言を受け取ったからここまで来たのだと思っていましたが」


 こちらの疑問に対する答えにはなっていなかった。カレンはペトラと目を合わせてから事情を説明する。


「わたしたちは、この北の基地にいる混成軍の防御指揮官、カティアを訪ねるためにオリエノールから来ました。あなたの伝言は途中のセインで受け取ったのですが、実は何のことかわかりませんでした。ただ、目的地が同じ方向だったので、その伝言のことはここに着いてから考えようかと思っていました。まさかここで、あなたが待っているとは想像もしていませんでした」


 長い説明を黙って聞いていたザナは、首をやや傾げたあと答えた。


「明日、迎えが来たらその軍の基地に行きます。どうやら目的地は同じようです。カティアもそこにいますから」




 ペトラが安堵(あんど)のため息を出したあとつぶやいた。


「何たる幸運か出会いか、感謝あるのみ」


 しかし、ザナに向かってはきちんと声に出した。


「ほっとしました。ありがとうございます。その基地までわたしたちを連れていっていただけますか?」

「ああ、もちろん最初からそのつもり。さあ、行くよ。日が落ちると風向きが変わって急に冷え込む。いつまでもここに突っ立っていると凍えてしまうよ」


 ザナは一同を見回したあと、ペトラのそばにある一番大きなかばんを見て言った。


「その荷物を持ちましょう」

「え? あ、ありがとうございます」


 ペトラは先ほどからザナに見とれているように思えた。クリスとダンの名前を言うときも、いつもの持って回った紹介ではなくて、ごく普通にしゃべっていた。心なしか目に怪しい輝きが感じられる。


 もしかして、ザナに対して何か特別なものを感じているのかしら? 確かに、この人からは圧倒されるような存在感がひしひしと押し寄せてくるわ。

 いったいどういう方なのかしら?


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