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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第1部 第3章

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75 ミア、詰め寄る

 テーブルについた全員が、話もせずに黙々と食事をしていた。シャーリンも緊張してその時を待っていた。

 しばらく同じように黙って食事をしていたステファンが突然両手を机の上にドンと置くと言った。


「今日は、久しぶりに、もうひとりの我が娘とともに食事をするという記念すべき日なんだぞ。なんで、こんなにどんよりとしているんだ? 何かあったのか?」


 メイはミアを見て手のひらをぐるぐると回した。メイからミアに目をやったステファンは、ミアが目の前の飲み物を一気に飲み干すのをじっと見ていた。


 やっとミアが口を開いた。


「ステファン、あたしたちには……ほかにも姉妹がいる?」


 いきなり核心をつく質問を放った。

 ステファンはミアの顔をしばらく見つめていたが、咳払いをしたあと、しゃがれ声を出した。


「わたしの娘はおまえたちだけだ。なんで突然そんなことを聞くんだ?」


 そう言ってからメイを見た。


「どういうことだ、メイ?」


 ミアとメイが同時にこちらを見たのでうなずく。


「実は、シャーリンの家に一緒に住んでるカレンという女性がいてね、それが、ケイトにそっくりなんだ。どう考えても血のつながりがあるとしか思えないくらい似ている」

「ケイトにそっくりの女性?」

「そう」


 ステファンが何か言いかけたのをミアは手で制して続ける。


「わかってる。ただ、似てるだけだと言いたいんでしょ。世の中、たまたま似た顔の人はいるかもしれないと」

「ああ、そのとおり」

「でも、あれだけ似ているとそうじゃないって気がする。本当に何か知らないの?」




 しばらくしてステファンは口を開いた。


「おまえたちが産まれたあとも、ケイトはだいたいここに住んでいた。妹でも弟でも他に子どもがいるはずがない。そんなことになっていたら、この家の誰かが気づく。きっと、ただの空似だ」


 ミアはしばらくステファンの顔を見て考えているようだったが、最終的にはうなずいた。


「わかった」

「それで、そのカレンという女性は今どこにいるんだい? そんなにケイトに似ているのなら一度会ってみたいものだ」


 シャーリンが代わりに答えた。


「今は、オリエノールにいます。今度またこちらに来る機会がありましたら、連れてきます」

「ぜひ、そうしてくれ。メイからはすでに聞いたかね? ケイトは三年ほど前に行方がわからなくなったんだよ」

「え? 亡くなったとうかがいましたが……」

「そうか。まあ、同じことだがね」




 ステファンは思い出すように言った。


「そうだ、あの日、わたしは留守にしていた」


 ステファンをちらっと見たあとでメイがぽつりとつぶやいた。


「わたしはあの日のこと覚えているわ」


 しばらく黙ったあとメイが話を続けた。


「あの日、女の人がお母さんを訪ねてきて、それからお母さんはその人と一緒に急いで出かけたの。それっきり、戻ってこなかった……」


 ステファンはうなずいた。


「いろいろ、手をつくして調べたんだが、何の手がかりもなく、まるで、神隠しにあったように消えてしまった……それから一年たつと正式に死去と認定された」

「そうだったんですか」

「いやいや、話がしんみりしてしまった。すまない。なんたって今日はお祝いだったんだぞ。このあと特別なデザートがあるんだ。もうすぐ出てくるよ」


 メイが聞いた。


「デザート?」

「何だと思う? メリデマールのスピュールだよ」


 メリデマール、どことなく感傷的な言葉に思わず反応する。


「メリデマールのですか? そのスピュールって何ですか?」

「メリデマールの南部でしか育たないと言われている幻の果物だよ。インペカール領になってからなかなか手に入らなくなった」


 運ばれてきた果物を見て、ウィルとディードが同時に感嘆の声を上げた。


「すごい、きれいな桃色」

「食べてごらん、びっくりするよ」




 ディードの感想がすべてを代弁していた。


「すごい、甘くて、少しだけ酸っぱくて、口の中でとろける。それになんとも言えない香りが広がる。なぜか遠い昔を思い出したようななつかしい感じがする」


 皆が最上のデザートに満足し、場所を変えて食後のお茶に進む。ステファンは戸棚からお酒を取り出してきて自分のカップに注いだ。

 その間も、メイは何かを一所懸命考えているのか、ずっと無口だったが、突然こちらを向いて質問してきた。


「シャーリン、ひとつ聞いてもいいですか?」

「はい、何でしょう?」

「カレンはこれと同じものを持っていますか?」


 メイは服の中に左手を入れた。

 すぐにミアが大声を上げた。


「メイ!」


 びっくりして、ミアの顔を見つめる。どういうこと?

 メイはいったん服の中の手を止めたが、ミアに顔を向けて静かに言った。


「大丈夫よ。この方たちなら見せてもいいでしょう?」


 メイは答えを聞かずに何かを取り出した。こちらを向くとおもむろに手を開く。

 メイの手のひらに置かれた、かすかな緑の光を放つペンダントを見たとたんに胸がズキンとした。自然と息が荒くなる。


「どうして、それを……」


 声が裏返るのを感じた。


「やはり、持っているのね? お姉ちゃんもこれと同じものを持っているわ」

「ミアも?」


 ミアの顔をただ凝視する。


「はい」


 メイはミアのほうを向いて続けた。


「ね、お姉ちゃん、思ったとおりだったわ」


 ミアがぐっと身を乗り出した。


「カレンもそれと同じペンダントを持ってるのか?」


 いつもは冷静なミアの声が上ずっている。

 シャーリンは慌てて首を振る。


「いえ、そうではないんです」

「え? 違うの?」


 メイがさっとこちらを向いて大声を出した。


「でも、さっき、これを見て驚いて……」

「つまり……わたしが持ってるんです。同じようなやつを……」

「え? どういうこと?」


 自分のペンダントを服の内側から引っ張り出して手のひらにのせるとみんなに見えるように手を傾けた。

 しばらく静まり返った。




 やっとメイが声を出した。


「つまり、シャーリンも、わたしたちの姉妹なのね? わたしたち、四人姉妹なの?」


 ステファンが声を上げた。


「ちょっと待て、メイ。同じようなペンダントを持っているからといって全員が姉妹じゃあるまい」

「でも、これは特別なペンダントよ。持ち主に合わせて調整されているの。まるでレンダーのようにね」

「それがレンダーのようにそれぞれの作用者に合わせて作られたものだっていうのは知っている。だからといって、それを持っているから、全員が家族だと決まったわけではない」


 ステファンがこちらをじっと見ているのが痛いほどわかった。でも、わたしは、ミアともメイともあの写真の女性とも共通点がまるでない。




 突然、大事なことを言い忘れていたのに気づいた。


「カレンはこれと同じものは持ってないのです」

「ええーっ? どういうこと? 全然意味がわからないわ」


 メイの甲高い声が耳に突き刺さった。


 しばらくしてミアが低い声で言った。


「シャーリンはあたしたちの姉妹だ。そのペンダントが何よりの証拠だ」


 すかさず反論する。


「でも、わたしは、おふたりとも、あの写真の方ともまるで似ていないです」

「そんなの関係ない。似ても似つかない親子、姉妹はたくさんいる」


 それを言ったら、だれでも家族になってしまう。

 ウィルが横から小さな声を出した。


「それじゃ、カレンさんは?」


 ミアがこちらを向いて問いただしてきた。


「カレンは本当にそれと同じものを持ってないの?」


 首を横に振る。


「それでも、写真が証拠だ。カレンもあたしたちの妹に違いない」


 ミアはつぶやいた。

 メイは全員の顔を見回しながらきっぱりと宣言した。


「それじゃ、やっぱり四人姉妹だわ」




「おいおい、ちょっと待て。わたしの意見は全然考慮されていないような気がするんだが……」


 メイがステファンに詰め寄るように言った。


「それじゃあ聞くけど、お父さんはどう思っているの? 母にうり二つと言われているカレン、わたしたちと同じペンダントを持っているシャーリン。このふたりがわたしたちの家族じゃないと言うの?」

「そんなことは言ってない。わたしも……娘がさらに二人増えるのは大歓迎だ。女ばかりというのがちょっと立場的に不利なんだが……とにかくいいことだ。うん、間違いなく」


 ミアの冷静な声が響いた。


「異父姉妹だったとしてもそう言える?」


 ステファンは即答した。


「もちろんさ。ケイトの娘なら、それは、誰であろうとわたしの娘でもある」

「それを聞いて安心した」

「でも、いつ、シャーリンのお父さんとわたしたちのお母さんが……」


 言いかけたメイを急いで制する。


「実はまだ話してないことがあります」


 ミアがさっとこちらを見た。


「父から聞いた話だと、わたしの母はメリデマールの人だそうですけど、父だけが人工子宮を伴ってロイスに帰ってきたんです」

「人工子宮?」

「はい、だから、わたしが思うに……」


 ミアの声が大きくなった。


「それですべてわかった」

「えっ? 何が?」

「メイ、ステファンが知らないはずよ。受精卵を人工子宮に移してシャーリンの父親に託したんだとしたらね」


 メイはこくんとうなずいた。


「ちょっと待て。わたしの知らないところでわたしの血を分けた娘が生まれたと言いたいのか?」

「そうじゃない。あたしが言いたいことは……」




 ディードが口を挟んだ。


「裁定所で遺伝的検査を受ければ誰が父親かはわかると思いますが……」


 ミアはディードを少し見つめたあと言った。


「そのとおりだ、ディードはいいこと言うね」

「ちっともよくないです」


 シャーリンは大声を出したあと、ため息をついた。


「ねえ、ディード、わたしは一応オリエノールの国子(こくし)だよ」


 すぐにディードは頭をかいた。


「すいません、シャーリン。そうでした」

「何が、どうしたの?」

「メイ、オリエノールの国子として認められるには、すでにある国子との直血のつながりを裁定所で証明する必要があるんです。わたしがロイスのフランクの娘であることはすでに証明されているの」


 少しの間、シャーリンをじっと見たメイは考え深げに言う。


「それは、逆に言えば、シャーリンのお母さんについては、裁定所は関知しないということね?」

「はい、そのとおりです」

「そうすると、やはり、異父姉妹ということになるわ」


 ステファンは複雑な表情を浮かべて聞いていたが、この結論を耳にし大きくため息をつくと椅子に深く座り直した。


「完全に脱帽だ。とりあえず……三人の娘たちとまだ見ぬもうひとりの娘に乾杯だ」


 少しやけになってないか?


「ディード、君も飲むかい?」


 思わずため息が出てしまった。わたしの姉たちと本当の妹か。




 ひとり物思いにふけっていると、ステファンが隣に座って話しかけてきた。


「シャーリン、わたしは、とてもうれしいんだよ、娘ができるのは。さあ、よく顔を見せておくれ」


 顔を上げてステファンを見る。少し悲しそうなのは気のせいだろうか?


「はい、でも、まだ、はっきりと決まったわけでは……」

「いいんだよ。わたしの娘であってもなくても、あなたがオリエノールの国子であるとしても、もう、わたしの娘同然に思っている。今日からここはあなたの家でもある」

「そのお言葉にはとても感謝しています、でも……」

「もうひとりの娘にも早く会いたいものだ……」

「あのう、ケイトさんはメリデマールの出身なんでしょうか?」

「それは、微妙だな。ケイトの両親はメリデマールに住んでいたが、インペカールの侵攻でウルブに逃れたんだよ。ケイトはそこで生まれたから、厳密に言えばメリデマール人とは言えまい。それでも、心情的にはメリデマール人であったと思うよ」




 ミアがメイに話しているのが聞こえてきた。


「写真をどこかで見つけたと言ってたね。他になにか手がかりになるものはなかったの?」

「あ、そうか。でも、あれ以外には何もなかったと思うけど」

「それは、そのときは姉妹を探していたわけじゃないから。今なら別の何かが見つかるかも」

「そうね、わかった。確か、あれは下の倉庫にしまってある……と思う。記憶があやふやだけど」

「それじゃあ、明日、探してみよう」


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