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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第1部 第3章

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65 同行者への興味

ここから第1部・第3章になります。

「巨大だね。川を行く船には見えない。外洋船かと思った」


 感想を口にしたペトラに、カレンは目を向けた。岸壁を占拠している灰色の川艇に視線を戻す。カレンも同意見だった。


「でも、この平たい形は、川のための船よ」

「こんな大きい船で本当に上流まで行けるの?」


 ペトラはサラのほうを向いて尋ねた。


「この輸送艇は、内陸まで行ける船としてはオリエノールでも最大級よ。もちろん航行はできるけど、上流には川幅の狭いところや浅いところがあるから、この川を熟知している人でないと扱えない。それに、夜は動かさないし速度も遅いから、ここからセインまで二日かかるし、マイセンまではもう一日必要よ」


 確かに大勢の人を収容できそうだ。


「ずいぶんたくさん乗りますね」

「ほら、あそこ、この船の新しい乗員が来たわ」


 振り向くと、サラが、向こうから歩いてくる一団にすたすたと近づいて行った。

 その間にも、別の車が到着し、さらに多くの人が降りてくると、あたりはごった返した。




 サラの行く先を目で追っていたカレンは声を上げた。


「あら?」


 ペトラが何ごとかとこちらを見た。


「カイ指揮官だわ」

「ん? いまサラと話してる人? なるほど、あの人がカイ。そうすると、彼の後ろに整列した人たちは彼の部下?」

「あの人たちだわ。モリーもソラもいる」

「どの人?」


 腕を伸ばして、ふたりを順に指さした。


「モリーは副官、ソラは軍医なの」

「へーえ、軍医か。とっても興味あるわ」


 その強い口調にドキッとする。


「どうして?」

「ほら、習練所で医術に関する作用の使い方を学んでるでしょ。それには、実際に医療に携わっている人の話を聞くこともすごく大事だし」


 すぐにカレンは釘をさした。


「みんな、乗船したら自分の仕事で忙しいのだから、邪魔しちゃだめよ」

「ねえ、カル、わたしは子どもじゃないんだから、ちゃんと物事をわきまえているわ。その仕事の合間に少しお話を聞くだけよ」

「あのね、ペト。国子(こくし)さまが話しかけたりすると、自分の仕事を中断する羽目になるのじゃないかと心配しているの」

「わたしはそんな不そんな態度を取ったりはしないよ。しおらしく丁寧に話しかけるだけよ」




 サラと一緒にこちらにやって来たカイは、ペトラの前で立ち止まって挨拶した。


「レノ・ペトラ、カイです。セインまでお送りするように命じられました」

「カイ指揮官、どうぞよろしくお願いします」


 ペトラはとても丁重に答えていた。

 カイは後ろを向いて、部下たちに乗船するよう合図した。


「カレン、元気そうで何よりです」

「先日は、皆さまに助けていただきありがとうございました。今回もよろしくお願いします」


 すかさずペトラがこちらを見た。


「助けて? それ、どういうこと?」


 カイが何か言い出す前に、さらっと答える。


「ほら、船に乗せてもらったことよ」

「乗せてもらったって、カレンが乗ったのはミアの船でしょ。違うの?」


 ペトラの鋭い目つきを感じながらも話し続ける。


「そうそう、それ、ミアのムリンガよ。そこに、あー、この方たちが……」

「ペトラさま、わたしの船が攻撃されたときに、カレンとシャーリン国子(こくし)、それにミア船長に助けていただいたのです。そのことです」


 ペトラはきょとんとしていた。さらに何か言いかけたが、サラが声を上げた。


「さあ、さあ、みんな早く乗って。出発が遅れるよ」




 カレンはマイクに軽く頭を下げた。


「大変お世話になりました、マイク。気をつけてお帰りください」


 クリスにちらっと目をやったマイクは、カレンにやや近づくと小声で言った。


「あいつの連れ合いのことなんだが、今一度、考えておいてくだされ」


 そのあと彼は笑顔を見せた。

 すぐ隣に立っていたクリスがあきれたように言った。


「おいおい、ちゃんと聞こえてるよ。いいから、早く船を出して家に戻ってくれ」


 三人の間に体をねじ込んできたペトラがクリスのほうを向いた。

 指を立ててクリスの鼻先に突きつける。


「ねえ、クリス、そんな言い方しちゃだめだよ。たとえ仲のいい家族でも」

「ペトラさまはとても賢明なお方です。どうか、この鈍感なクリスを今後ともよろしくお願いいたします」


 マイクは深々とお辞儀をした。

 それを見てペトラはにっこりする。


「おまかせください。クリスはとても有能なのです。力軍(りきぐん)でも指折りの。あなたもおおいに自慢できるほど。それに……クリスの連れ合いはわたしが見つけてあげますから、ご安心ください」


 クリスが激しく咳き込むのが聞こえた。


「ああ、ありがたいことです。ペトラさま」


 マイクは再び頭を深く下げた。

 カレンが目をやると、クリスはマイクとペトラを交互に見ながら口をぱくぱくさせていた。言葉が出てこないらしい。


「ほら、ぼやっとしてないで行くわよ、クリス。急がないとまたサラに叱られるよ。それにもう、フィンはとっくに行っちゃったよ」



***



「へえ、ここがわたしたちの部屋? 輸送艇は部屋がたくさんあるけど……中は狭いね」

「そうね。大勢の人を乗せるのだから狭いのは我慢しないと」

「わたしはへっちゃら。それじゃ、ちょっと散歩してくる」

「え? もう行くの? ペトがうろうろするとみんなの気が散るんじゃないの?」

「大丈夫よ。わたしはちゃんと空気に溶け込むから」


 カレンは頭を横に振った。


「もしかして、ソラのところに行くの?」

「正解。この船に乗ってるのはたったの二日だから時間はむだにできないの。医療行為をする間は近くで見学させてもらいたいし」

「この船に乗ったばかりの人が、すぐに病気になるとは思えないけれど。まあ、いいわ、行ってらっしゃーい」



***



 カレンは、船室の小さな窓から外の景色を眺めていた。シアはシルに帰っているし、ペトラは自分の師匠を探しに行った。

 わたしも、感知力を発展させる方法を学びたかった。


 別の感知者と話をするのも悪くないかも。カイは感知者だけれど、指揮官は忙しいから無理だわね。それとも、カイはこの船の船長ではないのだから、少しは時間を取ってもらえるかしら?


 そうだ、今度、シャーリンに誰かを紹介してもらおう。そういえば、あの、トリルも感知者だった。確か感索者と言っていたっけ。彼ともう一度話ができたらすごく勉強になるかも。


 それに、ペトラが出入りしている資料室にはその手の指南書があるのかもしれない。また国都に行く機会があったら聞いてみよう。


 どれも、いつになるかわからないけれど……。大きなため息が漏れた。

 ベッドを引き下げて開くと、上服とスカートを脱いで毛布の中に潜り込んだ。昨日の山歩きの疲労からまだ回復していなかったためか、すぐに眠ってしまった。


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