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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第1部 第2章

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63 メイとの出会い

 しばらく前から操舵室の窓にへばりついていたウィルの声が聞こえた。


(おか)が見えてきました」


 シャーリンはいつもの場所で壁に寄りかかっていたが、よっこらしょと立ち上がるとウィルの隣に行き窓からの景色を眺めた。霞のかかった地平線に灰色の人工建造物がちらちらと見える。


「この正面がウルブ1?」


 振り返ってミアに確かめる。

 じっと見つめていると、夜明け後の海面がキラキラと反射してまぶしい。今までの眠気が一度に飛びそうだ。


「そうだよ。やれやれ、やっと見えてきたな。ここまでくれば何とかたどり着けそうだ。もう一つの推進機がどうにかもってくれたよ」


 扉の開く音がして、ディードが入ってきた。

 振り返って聞く。


「あの強制者の空艇は?」

「あれ以来、見えない。どこかに行ったきりだ」

「結局、幸いなことにやつらは船では来なかったな。そうすると、ウルブ1で待ち構えている可能性が高い。いつ現れるかわからない。接岸するまでは、もうこの部屋から出ないように。わかった?」

「はい、ミア。今度は大丈夫です。たとえ船が沈没したとしても、ここから一歩も動きませんから、ご安心ください」


 ミアはあきれたような顔を見せた。


「縁起でもないこと言うなよ。あたしの大事なムリンガが沈むなどあってたまるか」



***



 進む速度は遅くても、少し時間がたつと、町並みがみるみるはっきりと見えてきた。

 ウィルから何度もため息が聞こえる。


「すごい、こんな大きな町、見たことないです。ミンよりも、ずっと、なんていうか、高い建物がかなり多いです。これを都市と言うんですか? こんなに多くの建物が立ち並んでるなんて、想像もできませんでした」

「ウルブ1は、町もそうだけど、海港はすごく大きいんだよ、ウィル。たぶんウルブで一番じゃないかな。この先の一帯は、ほとんどが造船業を営んでいる人たちのドックなんだ」

「あの、大きな建物が全部ドックなの?」

「ああ、中で船を造ってるんだよ」

「ずいぶん高い建物ですよね」

「外洋船の建造が多いから。川艇や海艇とかではなく、もっと大型の船を造っているんだよ」


 ディードがうなずいた。


「どの国も、移住先の確保と国内の全住民を輸送する手段の調達に躍起になってるからな」




 すでに、港の中に入っていたが、両側に林立するドックを見ながら、ミアはムリンガをひたすら奥に向かって進めた。


「ミアさん、どこに向かってるんですか?」

「ロメルの港だ。そこに妹が住んでる」


 思わず声が出る。


「え? 妹さんがいたんですか?」


 ミアはこちらを見た。


「言ってなかったっけ? ロメルのメイ。この奥にロメル専用の海港を持っている」

「専用の港があるんですか? すごいです」


 ウィルの感嘆の声が聞こえた。

 シャーリンは念のために聞いた。


「ということは、ミアのこともロメルのミアと呼べばいいのですか?」

「そいつは微妙だな。ロメルと名乗っても許されるかもしれないが、今は、ウルブ7に住んでるからな、あたしは。向こうでは、カダルのミアってことになってる」

「カダル……」


 どこの地氏なのだろう?



***



「さて、着いたぞ」


 ミアは、減速するにしたがって再びガタガタと騒音を立て始めたムリンガを慎重に岸壁のそばに進めた。

 頭を捻って見上げると、上には大きく張り出た屋根があって雨風が当たらないようになっているようだ。あたりを見回すと右の奥に、ムリンガと同じような海艇があるのが見えた。


 かなりの衝撃があったあと、推進機の音が一瞬高くなってから止まって静かになった。

 全員が外に出た。一番に走り出したミアが舷側からロープを投げると、岸壁側の装置に吸い込まれていく。自動的に船が岸壁に引き寄せられぴったりとついた。


「あれ、ムリンガとそっくりですね」


 ウィルも気づいたらしい。

 ミアはウィルが指している手を追ってから言った。


「ああ、あれか。どうやら完成したらしいな。ムリンガはこの型の一番艇、あっちのは二番艇になる」


 ミアは急かすように手を振った。


「さあ、降りるぞ。持ち物はないと思うから先に行って。あたしは部屋に戻って荷物をとってくる。降りたらそこら辺で待っててくれ」




 建物の奥の扉が開き、男と女が現れてこちらに歩いてくるのが見えた。男性はかなりの年配のようだ。女性はムリンガを指差しながら、男性に対して何か話している。彼女がミアの妹メイなのだろうか。


 後ろからミアがかばんを持って現れると、くだんの女性がこちらに向かって両手を頭上で激しく振った。


「お姉ちゃん、お帰りー」


 ミアは右手を振り返すと周りの人に説明した。


「彼女がメイ。隣の男はフレイ、ロメルの内事(ないじ)


 近くまで来ると、メイはミアと同じ薄青色の目に、長い茶色の髪の持ち主であることがわかった。ミアと顔つきはよく似ているが、穏やかな表情なのが印象的。


「ムリンガはいったいどうしちゃったの? すごいありさまだけど」

「まあ、いろいろあってね。ステファンはいる?」

「お父さんは、午後に少しだけ戻るかもしれないけど、今日はよそで泊まることになってる」


 ミアは三人の乗客を紹介したあと、フレイと並んで船に沿って歩きながら話し始めた。


「ムリンガの修理をしたいんだけど。推進機が一台大破した。もう一台もかなり調子が悪いんだ。それに、前後の甲板も取り替える必要があるし、前の補助発電機も被弾した」




 メイが話しかけてきた。


「シャーリン、あとで、オリエノールについて聞かせてくださいね。わたしはまだ行ったことがないのです。なかなか町から出る機会がなくて」

「はい。オリエノールを訪問される際は、ぜひロイスにもお立ち寄りください。すごい田舎で何もないところですけど」

「ぜひにも、お願いします。こんなごみごみした都会に住んでいると、どう言えばいいかしら、大自然に憧れを感じます。灯りなんかまったくないところで横になって、星空を見たいなんて言ったらおかしいと思います?」

「いいえ、とんでもない。それに、ロイスなら、毎日飽きるほどそんな生活ができますよ」

「すてき」


 メイは両方の手のひらをぴったりと合わせた。

 船の中を見に行っていたミアとフレイが戻ってきた。


「どれくらいかかるかな?」

「大至急、技師長に検討させましょう」


 フレイの眉間にはしわが寄っていた。


「それにしましても、ミアさまは戦争でも始められたのでしょうか?」

「まあ、そんなとこかもしれない」


 ミアが肩をすくめるのが見えた。




 メイが顔をしかめた。


「戦争? いったい誰と?」

「うーん。説明はステファンが来たときにする。何度も同じことをしゃべるのは面倒だから。まずは、この三人に着替えがいるんだが……みんな着の身着のままでね」

「なんか、大変なことになっているようだけど、どうやらあとで興味深い話が聞けそうね?」


 メイは首を振り振り答えた。

 それから、こちらを見てさっと目を走らせた。


「ついてきてくださいな。まず、湯浴みと着替え、それから部屋ね。そのうち父も帰ってくると思いますので。それで、こちらには長くご滞在ですか?」

「お世話になります。実はまだ、どうするか何も考えてないのです」


 そう答えるにとどめた。




 メイの後ろについて、建物の奥まで進み、フレイとメイが現れた扉が開かれた。その先にはすごく長い階段が続いている。そこを登り切ると、大きな庭園が広がる予想外の光景に驚いた。ほとんど花は見られなかったが、春にはきっと美しい景色が楽しめるに違いない。


 すでに全部の葉が落ちた木が何本も植えられ、その周りにはベンチや石像が置かれている。木々の間を曲がりくねった小道が続いており、ふわふわとした感触の土を踏みしめながら進むと、今度は建物が見えてきた。


 メイが静かに言った。


「ここが主屋です。中へどうぞ」


 すごいお屋敷だ。でも、ミアはどうしてここに住んでいないのだろう? ウルブ7に住居があると話していたけれど。やはり仕事の関係なのかな?


「あら、リン」


 メイの声に下を見ると、彼女が開いた扉からリンがすばやく中に入るのが見えた。

 いつの間に来たのだろう?


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