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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第1部 第2章

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48 レンダーを取り戻すには

 走りながらミアがこちらを向いた。


「ちゃんと遮へいしてるから安心しな」

「ありがとう、ミア。いつも迷惑ばかりかけてすみません」

「いいってことよ。こいつはいよいよ腐れ縁だな」


 カレンはミアに続いて階段を駆け下りると、再び一階の出口から様子をうかがう。

 道路を突っ走って本棟の入り口に達した。前と同じように中に入ると、ミアが先を進みカレンが後ろに続く。


 シア、お願い。シャーリンのレンダー、貴重品保管室。

 次の瞬間、シアがカレンの前に現れた。先をどんどん行くミアには見られていない。シアは小さくうなずくとさっと消えた。


 大階段までは難なく進んだが、そこで、ミアがカレンの手を引っ張って壁に張りついた。

 向こう側が騒がしいことにやっと気づく。なぜか正軍の人たちが大勢いる。遠くから爆発音らしきものが聞こえ、かすかな揺れが伝わってきた。この建物が誰かの攻撃を受けている。


 ミアが後ろに向かって手を振ったので、背中を壁につけたまま後退した。曲がり角まで来ると、ミアは脇に見えていた別の小さな階段を手で示した。

 カレンはうなずくと、ミアに続いてその階段に向かう。そのまま、三階まで一気に駆け上がる。




「どっちだい?」


 ミアがささやいた。

 左側から騒がしい音が聞こえる。カレンは地図を思い浮かべ、右側を指した。こっちでよかった。

 ミアは曲がり角から慎重に顔を出して、誰もいないことを確認すると急いで進んだ。しばらく走ると、貴重品保管室と表示された扉の前に立った。


「ここだな。それで、たぶん、鍵がかかってるだろうね」


 ミアは言いながら取っ手を引いた。動かない。


「やっぱり。で、もちろん、鍵は持ってないのだろう?」


 カレンが小さくうなずくと、ミアは肩をすくめた。


「鍵がなければ、力ずくでいくしかない」

「ごめんなさい。鍵が必要なこと、みんな忘れていた」


 声が小さくなった。


「そうだろうとも。ところで、中に誰かいるかい?」


 突然の質問に戸惑う。


「え? ちょっと待って」


 感知力を働かせたあと首を小さく横に振った。


「よし、じゃ、こいつをやっつけよう」


 ミアはあたりを見回して誰もいないことを確認すると、右手を扉と壁の間のすき間に当てた。一瞬だけ白く光り、熱気を帯びてきたと思ったら、すぐに手を引っ込めた。


「さて、開いたよ」


 カレンは目を丸くして見ていた。なんて鮮やかなの。

 力をとてもうまく制御している。熟練するとこんなふうにできるのか。はでにやる必要はない。シャーリンにも、あとで教えてあげなくちゃ。


 ドアをあけて中にすばやく入っていく、ミアの頼もしい後ろ姿を見つめた。すごい。首を振りながら続いた。




 カレンは、中に入るとたくさんの棚がある広い部屋を見回した。すぐに、遠くで、薄い青色にぼーっと光っている棚を発見する。


「それで、この中から、いったいどうやって探すんだい?」


 ミアはものすごい数の棚を見渡した。


 カレンは、発見した棚に向かってすたすたと歩く。近づいてくるのを察したのか、すぐにシアが消えるのがわかった。問題の場所にたどり着くと、小箱が積み上げられた棚があった。

 あのとき、女の人が持っていた箱はどれだっけ? 記憶を(よみがえ)らせる。


「確か銀色のこれくらいの……」


 そうつぶやきながら手で形作る。


「あったわ、これよ、たぶん」


 カレンは金属製の小さな箱を取り出して近くの机の上に置くと、蓋をぱちんとあける。

 見覚えのある小さな袋が入っていた。中を(のぞ)くと全部そろっている。袋を閉じるとそのまま服にしまう。そこで初めて、ミアがじっと見ているのに気づいた。


「探し物がカレンの得意科目かい?」

「ええ? これは単なる偶然よ」


 まるで説得力のない言い訳に、カレンは自分の顔が赤らむのを感じた。


「ふーん、なるほど。今度、何か無くしたときには、カレンに捜索を依頼することにするか」


 ミアはニヤッとした。


「さて、早くここを出たほうがいい。いつまでもこの建物にはいられない」

「はい、急ぎましょう」



***



 ミアとカレンは、昨日も来た南港が見下ろせる丘に立っていた。

 左の方向を眺めると、心なしか東の空が白んできたような気がする。それに、ここから見える空艇場がこうこうと照らされて、遠目にも少し騒がしいのがわかる。そのうち船が動き出すだろう。


「さ、急ごう。明るくなる前に、ほかの人たちと合流したほうがいい」

「はい」


 ふたりは坂を急いで下り、港街に入り込んだ。この時間だと、昼間と違って、ここも静かで人通りもまったくない。例の倉庫に近づくとあたりを見回し、すばやく路地に曲がり奥まで進んだ。


 まだ来ていないようだ。てっきり先にたどり着いていると思ったのに。

 ねえ、シア、シャーリンとペトラはどこ? 返事がない。




 ふたりは、積み上げられた木箱のかげに隠れた。


「それで、この一連の騒動はいったいどういうことだい? あたしにはさっぱりわからないよ」


 ミアがまじめな顔をした。

 カレンはミアと向かい合って座り、立ててそろえた膝に顎を乗せると話し始めた。


「わたしが思うには、強制者が何らかの方法で待機室に侵入して、シャーリンをかどわかし、ウィルも連れ出した。そして強制力でシャーリンを国主の殺害犯にしようとしたってとこじゃないかしら? 国主が撃たれてからの動きがやたら早かった。たぶん、警備隊の責任者とかも意思が操作されているに違いないわ。国主を自室から呼び出したのも、同じやり方を使ったのじゃないかしら?」


 もう一度よく考える。


「わたし、てっきり、リセンで出会った彼、名前は自分で名乗ったのが本当だとするとレオンっていうんだけど、あの人がこの一件の裏にいるかと思っていたの。でも違った」

「あ、ああ、その話は聞いた」




「で、今になって考えると、ダン、つまりウィルの父親だけど、リセンできっとさっきの人たちにさらわれたに違いないわ。そして、アリシアの殺害犯に仕立て上げられた。というか、実際に爆弾を持たされて、アリシアを訪問させたんだと思うの」

「ん? 第二国子は殺されたのかい?」


 ミアの顔に驚きが見えた。


「いえ、大丈夫、生きているわ。たぶん、わたしたちがリセンの近くで捕らわれの身になっている間に、アッセンで襲われたの。幸い、アリシアは大怪我はしたけど命に別状はないらしいの」

「なるほど、そいつは不幸中の幸いだったな。よかった。でもさ、そのダンの話はわかるけど、なんでシャーリンを暗殺者にでっち上げるなんて回りくどいことをするんだ? そんなことしなくても、あそこまで来るんだったら、自分で国主に貫通弾を撃ち込めばいいじゃん。わざわざシャーリンに撃たせる意味がまるでわからない」

「うーん、確かにそうなのよね。それじゃ、わたしの推理、間違っていると思う?」


 カレンは急に自信がなくなってきた。


「そうだな、少なくとも理屈に合わないことは、あたしには納得できないな」


 その時、ミアの頭越しに青い光が横切った。シアが戻ってきた。


「みんなが来たわ」

「おお、そうか。よかった」


 ミアは立ち上がると木箱のかげから慎重に(のぞ)き見た。


「まだよ、ミア。もうちょっとかかる」

「そういえば執政館自体も攻撃されたようだが?」

「爆発音が何度も聞こえたし、一昨日(おととい)、国都を攻撃してきた者たちの仕業かも」


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