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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第1部 第2章

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47 展開が早すぎる

 通路の先はまだカレンには見えないが、間違いなく国主の声だ。

 すぐにシャーリンの姿が廊下の端に現れた。


 この非常に強い圧迫感。

 さらに進むとシャーリンの後ろ、少し離れて何人か立っているのが見えた。その中にウィルもいた。反対側には国主とその護衛らしき何人かの人。お互いに向き合って手を構えている。


 あたり中に作用力が急激に満ち溢れ、頂点に達しようとしていた。シャーリンの手には銃があり、それは国主に向けられている。

 着ているのは、あの汚れた服ではなくて、短い灰色の服。ちゃんと用意してもらえたんだ。まったく関係ないことが脳裏を一瞬よぎった。


 シャーリンの持っているものに気づいたのか、クリスが大声を出した。


「貫通弾!」


 その言葉が瞬時に知らない記憶を呼び覚ます。どんなものも貫く弾。普通の防御者には防げない、このような近距離では。

 だめ。シャーリンに銃を使わせてはいけない。


 シャーリンの後ろに立つ人たちのひとり、黒いフードをかぶった人物がさっとこちらを向いた。

 えっ? この人なの? 若い女性。レオンではなかった。

 予想外のことに、カレンは一瞬戸惑う。


 あっという間に、女性から強制力の波が襲ってきた。カレンのそばにいた全員がその場に凍りつく。この前とはまるで違う。とんでもなく強い。

 カレンは必死に抵抗したが、すぐにも潰れそうだ。負けるのも時間の問題と感じる。早くどうにかしないと。


 強制力の重みにかろうじて耐えながら、すぐ隣にいたディードに手を伸ばす。何とか銃をもぎ取り、くるりと強制者に向けると、よく狙いもつけずに発射した。


 強制者の隣にいた男が、振り向きざまに手を伸ばしてきた。防御者。


 しかし、その前にカレンの放った一撃が、強制者の伸ばしていた腕をかすめるのが見え、その女性はさっと後ろに飛びのいた。体勢を立て直す間、一瞬、すっと力が弱まった。

 その瞬間、別の作用をかすかに感じる。同時に、シャーリンの背後にいる男が少し動いた。この違和感は何だろう。




 シャーリンの手が動くのを目にした。


「シャル! だめよ!」


 カレンの悲痛の叫び声に、銃を持ち上げたシャーリンの手が止まった。

 同時にどこからか鋭い声が響き渡った。シャーリンの後ろにいた男がひとっ飛びで近づくと、シャーリンの左手をぐいっとつかむ。

 強制者が手を伸ばし叫び声を上げるのが聞こえたが、次の瞬間、もっと大きな音にかき消される。


 鋭い爆裂音に襲われて激しい耳鳴りがした。狭い通路にわんわんと反響し、頭の中がしびれる。

 反対側に目を向けたとたん、なんということか、国主がよろめくのがスローモーションのように脳裏に映った。


 その瞬間から、強制者側の作用者も国主の護衛も、力を解き放ち始めた。飛び交う攻撃の射線が、双方の防御者との間に爆発的な光の渦をほとばしらせる。周囲から怒号が飛び交う。

 目がくらんで何も見えなくなった中、国主の声だけは妙にはっきり聞こえた。


「なぜだ、シャーリン?」


 光が薄れたときには、護衛たちが国主を守りながら通路を後退していくのがちらっと見え、すぐに壁のかげになってわからなくなった。


 繰り返しカレンは銃を発射したが、すべて防御者に遮られた。

 強制者と隣の女性がともに腕を押さえているのが一瞬だけ見えた。

 ミアが攻撃をしかけながら猛然と飛び出す。襲撃者たちは、茫然と立ち尽くすシャーリンをそのままに、なぜか通路の反対側にすばやく後退していった。


 最終的に、凍りついたように立っているシャーリンと床に倒れたウィルだけが残された。

 カレンが、走って廊下の角を曲がると、すでに国主たちの姿はなく、反対側を見ても、強制者たちはすでに遠ざかっていた。




 カレンが手をシャーリンの肩に置くと、シャーリンはビクッと身震いをした。


「カル……わたしが国主を撃った」

「違うわ。シャルは撃っていない。撃ったのはあの人たちのひとりよ」

「でも、国主はわたしに撃たれたと思ったに違いない。あのわたしを見る目つき、あの非難するような声。ああ、すぐに国主に会いにいかないと」


 その時、遠くからかすかな叫び声と何かの物音が聞こえてきた。続いて足元がかすかに震動するのを感じる。

 振り向くと、クリスが真っ青になっていた。


「通信では、シャーリン国子(こくし)が国主を殺害したと言っている」

「殺害? 亡くなったということ?」


 ペトラの驚いた声が響き渡った。


「だって、さっき、衛事に抱きかかえられていたじゃない。亡くなってなんかいなかった」

「シャーリンとその一味を探せとの命令が出た」


 クリスが手の中の通信装置を見つめながら付け加えた。


「一味? それってわたしたちのこと?」


 ペトラはあ然とした顔を見せたが、すぐに気を取り直したように言う。


「そんなこと……。わたしが行って説明する。国主はきっと自分の住居に入ったのよね」


 進んでいこうとするペトラの手をクリスがさっとつかんで引き戻した。


「そのまま部屋に入ったら、まず撃たれます。ここでお待ちください。護衛に連絡を取ってからでないと」




 クリスは通信装置と格闘していたが、声を荒らげた。


「くそ、応答がない。どういうことだ?」

「クリス、シャーリンとその一味を拘束せよとの命令が正軍に対して出てます!」


 ディードが後ろで怒鳴ると、クリスはますます怒った。


「いったいどうなってるんだ?」


 近くの窓から外を見ると本棟のほうが騒がしく少し明るくなっていた。向こうでも何かが始まっている。

 ペトラが声を張り上げる。


「クリス、このままじゃ、シャルが襲撃犯にされてしまう」

「もうそうなってる! どうして誰も応答しない? 通信チャンネルを変更したに違いない。どうしてだ? なんで知らされてない?」


 国主が撃たれてからの展開があまりに早すぎる。

 これが、彼らの狙いだったのか。大きな強制力を使えば、あらかじめ既成事実を作るのがいかに簡単なことか。おそらく、多くの人があらかじめ動機づけされていたに違いない。

 でも、大勢にそのようなことが本当に可能なのだろうか。




 カレンはペトラの手をつかんで振り向かせた。


「ペト、これは彼らが仕組んだわなよ。シャーリンは最初から、襲撃犯に仕立て上げられていたに違いないわ」

「どうして? なんで、シャルを暗殺者にする必要があるわけ?」

「それはわからない。でも、早くここからシャーリンを脱出させないと」


 シャーリンがぼそっと口にした。


「わたしのレンダーを取り返さないと」

「どこにあるの?」

「預かったレンダーは保管室に置かれるはずです」

「クリス、その部屋はどこにあるの?」

「本棟の三階の貴重品保管室です」


 カレンは寝る前に見た見取り図を思い浮かべるとうなずいた。


「場所はわかった。わたしが取りに行く」

「わたしも行く」


 シャーリンの声に、ペトラとカレンが同時に叫んだ。


「だめ!」

「あたしが一緒に行こう。カレンだけじゃ、敵と遭遇したときに困るだろ?」


 ミアの申し出に、今度は、ペトラとカレンもうなずいた。




「ほかの人たちはこの建物から急いで出て。どこかで落ち合いましょう」


 早口で言うカレンに、ペトラはうなずいた。


「わたしたちは、脱出路を使って外に出ることにする」

「よし、じゃあ、昨日(きのう)、出会った倉庫の裏で落ち合おう」


 ミアの言葉に全員がうなずく。

 クリスがディードから鍵を受け取ると、それをカレンに渡した。


「さっきと同じように一階から回ったほうが、少しは警備隊との遭遇を避けられます。そこの通路はすぐに人でいっぱいになる」


 カレンは鍵を受け取るなり、ミアに続いて階段へと走った。


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