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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第1部 第2章

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46 待機室に向かう

 一同は、ぞろぞろ階段を下りると、居住棟の表玄関から外に出た。

 ディードは、閉まっていた門をあけると、すばやく道路を渡っていく。ほかの人たちは路の手前で待つ。


 本棟の裏口にたどり着いたディードが、腰から鍵を取り出した。わずかにあけた扉のすき間から中を(のぞ)き込む。

 こちらを振り向いて合図をしてきた。それを見ると、残りの四人は道路を走って横切り、ディードのそばにたどり着く。


 ディードが扉を左右に押しあけると、全員がすばやく内側に入った。そこは、天井にほのかな明かりがついた広間で、誰もいなくひっそりとしている。

 クリスは手を振ってディードに前進の合図をした。


「油断するなよ」


 ディードはうなずくと腰から銃を引き抜いて、右手にぶら下げた状態で歩き出した。




 ペトラとカレンはディードのすぐ後ろを歩き、ミアはクリスと並んでしんがりをつとめた。いくつかの角を曲がって進むと、前方にほのかな照明に照らされた部屋が見えてくる。


 カレンはふと立ち止まった。

 なぜか強制者の気配が消えていた。遮へい者が全力を出しているのかな? それとも、ここでの仕事はもう終わって移動したのかしら?


 明かりのついている小さな部屋を手で示した。


「あそこが待機室の詰め所ですか?」

「そうですが、誰も出てこない。おかしい」


 クリスの言葉に、カレンが付け加えた。


「強制者もいなくなったわ」


 これを聞くなり、ミアは、クリスが止める間もなく、すたすたと進んで詰め所の窓から中を(のぞ)いた。


「からっぽだ……」


 ミアは誰にともなく言うと、中にずかずかと入っていった。

 ディードが慌ててミアのあとを追ったが、すぐに訝る声が聞こえた。


「みんなどこに行ったんだ?」




 カレンは、詰め所の奥、待機室があると思われる方向を見てから、クリスに尋ねる。


「あそこが待機室の入り口ですか?」

「そうです。あの扉をあけると、前室があって、待機室自体はさらにその奥にある」

「よくわかりませんが、あの向こうには、普通の人が何人かいるようです。四人、いえ、五人かしら」


 クリスから驚いたような声が上がった。


「えっ、中が()えるのですか? それに五人も? しかし、前室に詰めるのは通常はふたりだ」

「そのさらに奥はよく視えません」

「前室の奥にはもう一枚壁があります。たぶん……そのせいでしょう」

「どうやって中に入るのですか?」

「その扉は中からしかあけられない。ここの装置で前室と通話できるはずだ」


 クリスは壁にはまった通話機を操作して呼びかけた。何の返事も返ってこない。


「中の人たちは寝ているみたい。動きがまったくないです」

「寝てたって、これだけ呼べば目を覚ますだろ?」


 ディードが外の廊下を見張りながら口にした。


「たぶん、眠らされているのだと思う」




 ミアはずっしりとした金属製の扉に手を押し当てた。


「なあ、中に入る別の手段があるだろ? それとも中の人が熟睡しちゃったら、この扉を破壊するしかないのかい?」

「外から開けないようにしているわけで、どうしても中に入りたければ、こいつを破壊するしかないな」


 クリスは何の手がかりもない扉を見つめた。


「まったく、ろくでもないもんを作るね、あんたたちは」


 ミアはそう言うと、カレンのほうを向く。


「で、どうする? こいつを破壊しちまうか?」


 それまで黙っていたペトラが声を出す。


「カル、シャルはこの奥にまだいると思う?」

「強制者がここに来て、今はもういない。それに、中にここの人たちが閉じ込められていることを考えると……」


 カレンはペトラに向かって首を横に振った。


「じゃ、どこに? その強制者たちの今の場所はわかる?」

「しっかり遮へいされているの。この人、すごいわ。たまに感じられることがあるんだけど。なんかさっきまでとは、まるで違うような気もする……。どっちにしても、おそらく上のほうね」


 天井を見上げた。

 ペトラはうなずくと早口で言う。


「シャルは連れていかれたわね。追いかけましょう」




 通信装置で誰かと話していたクリスの背中をペトラがポンポンと叩いた。


「クリス、ここにはいないわ。上の階に行くわよ」

「そういえば、ウィルはどこに入れられているの?」


 思い出したようにカレンが聞いた。

 クリスは扉から顔を出すと右側に手を振る。


「この通路を行った先、警備室の奥です」


 彼は、ちょうど偵察から戻ってきたディードに聞いた。


「ディード、ウィルは大丈夫だったか?」

「え? 警備室には入りませんでしたけど」

「そこに案内して」


 ペトラが命じた。

 カレンとペトラは、ディードに続いて走る。

 空っぽの部屋とあきっぱなしの扉を見つけると、ディードがその扉を指差した。


「ここに入れられていました」




 後ろからミアの声が聞こえた。


「ウィルもいなくなったんかい? こりゃただごとじゃないな」

「カル?」


 ペトラが助けを求めるようにカレンを振り返った。


「ふたりともさらわれた。でも急げば追いつけるわ」


 その答えに、ディードが反論する。


「なんで、ふたりともさらう必要があるんです? それに上に行ったって、出口はないけど」

「空艇場があるでしょ。そっちかもしれないわ」


 カレンはそう答えたものの、違うような気がした。

 後ろからペトラが叫んだ。


「いいから、急いで」




 全員が走って大階段まで戻り、クリスを先頭に駆け上がった。

 二階で階段から離れようとしたクリスに、カレンが後ろから声をかけ、居住棟の方向を指差す。


「待って、あっちに向かっている」

「向こうに渡るには、三階まで行かないと」


 そうペトラが指摘した。

 ああ、間違っていた、何もかも。

 部屋から動かずに待っていれば、向こうから近づいてきたのに。カレンは唇をかみしめた。


 初めから国主が狙いなら、どうしてシャーリンとウィルをさらう必要があるの? これは、ただの陽動作戦? それとも……ああ、わたしはなんて間抜けだったのだろう。


 シャーリンと国主、ダンとアリシア、そして強制者、全部つながっているんだ。

 思わずカレンは叫んだ。


「急いで、国主が危ないわ!」

「国主には腕の立つ護衛が何人もついているから大丈夫のはず」


 そう言いつつも、クリスは階段をものすごい勢いで駆け上がっていった。

 カレンは走りながら叫んだ。


「この強制者の力は非常に強い。誰でもいいなりになってしまう」


 ミアがカレンを大股で追い越していく。


 やっと全員が居住棟へ通じる連絡通路にたどり着いたとき、通路の奥から叫び声が上がった。

 クリスが前に出て猛然と進んだ。残りの人たちも追いつこうと必死に走る。


 通路を渡ったクリスは、その先の角を曲がったところで、突然立ち止まった。腰から銃を抜いたものの、構えずにだらりと持っている。ほかの人たちがクリスに追いついたとき、重々しい声が耳に届いた。


「シャーリン、これはどういうことだ?」


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