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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第2部 第5章

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335 母にできること

 ふたりの医術者からようやく解放された。


 早い晩食を()ったあとカレンは自分の部屋に戻る。習練を終えたジェンナとマリアンの助けを借りて湯浴みをし、三人並んでたわいもない話をしながら過ごした。

 明るく振る舞うふたりの顔を見ているうちに、また後悔の念が湧き上がってくる。


「ねえ、ジン、本当にごめんなさい。わたしはあなたのお姉さんの命を奪ってしまった。わたしは……」

「カレンさま、何度も謝らないでください。この前も申し上げましたように、姉は為すべきことをしたまでです。そんな姉をあたしは誇りに思います」

「でも、わたしがもっとしっかりしていればフィオナは……」

「カレンさまはいつでも皆のことを考えてくださいます。今回もそうです。あんなになりながら、限界を超えて力の限りを尽くしてくださいました。誰もがカレンさまに感謝しています」

「それでも……」


 ジェンナがこちらに顔を向けると、灯りを映す瞳が髪と同じ炎をまとった。


「カレンさま、ご自分を責めるのはもうおやめください。これはカレンさまの内事(ないじ)としてのお願いです」

「どちらかというと、命令のように聞こえるわ」

「はい」

「わかりました。努力します」

「それに、あたしのほうこそお礼を申し上げなければなりません。姉と引き合わせてくださったことに。あたしは姉からたくさんのものをもらいました。いまでも……」


「それを聞いて安心したわ。彼女はわたしの、わたしたちの恩人。フィオナには何度も助けられたことを知ったわ。彼女がいなければ今のわたしはなかった」

「姉もお母さまにとても感謝しています……あたしもそう思います」


 ジェンナの差し出してきた手を取り、彼女の根源の声を聞く。ああ、やはり彼女も特別だ……。


「気がかりなのはペトラのこと……」

「お母さまが眠っている間、ペトラさまは毎日おそばに付いていて、役に立たないあたしに姉についてたくさん話してくださいました。今では、小さいころからずっと一緒だったかのように感じています。ペトラさまはとてもしっかりした方です」


 ジェンナは胸に両手を当てて続けた。


「あたしに姉の代わりは務まりませんが、ペトラさまのお役に立てるように努力します」

「ああ、ジン、あなたはやっぱりわたしの支えだわ。ありがとう。これからも負担にならない程度にたまに、ペトラのこと、よろしくお願いね」



***



 早めにベッドに潜り込んだものの、ずっと寝て過ごしていたためかまったく眠くならない。

 読書をしながら暇つぶしをする。少し時間がたったころ、近づく人の気配を感じた。

 何しに来たのかしら。


 この時間ともなればもう、ジェンナもマリアンも自室に引き上げたあと。ベッドから滑り出て次の間に向かう。前室に続く扉を開くと、ちょうどミアとメイが入り口に現れた。

 さっとこちらを向いて挨拶する衛事たちに手を振って言う。


「ああ、いいのよ。さあ、入ってちょうだい」

「すまない、カレン。こんな時間に迷惑だったよな」

「そんなことないわ。ずっと暇で時間を持て余していたところ。あの人もメイジーと一緒にミルドガに出かけているし」

「それを聞いて安心したよ」

「そっちの奥の部屋に入って。シャーリンやペトラたちも一緒に行っちゃったのよ」


 カレンは開きっぱなしの扉のほうに手を振った。


「エムとディードにフェリシアもだっけ? みんなで観光にでも行ったのかな」

「まあ、それもあるかもしれないけど。あそこはすごいところらしいから。でも、お姉ちゃん、今回の主目的はグウェンアイのお仕事だと聞いたわ。国王の家族になったとは言え、イジーは大商会の統括が仕事だったんだから。とてもそうは見えないけど」

「わたしも行ってみたかったわ、ミルドガに」

「お母さんは隣国にいるのだから、これからいくらでも訪問する機会があるわ」

「そうね。じゃあ、今度あなたたちと一緒に行きましょ」

「ああ、それはいいな、うん。それで、体は大丈夫なのか? 病室から出たばかりなのにごめん」

「もう、なんでそんなに謝るの? 意識を取り戻したときにはだいたい治っていたのよ。でもなかなか解放してくれなくて。やっと今日ここで寝る許可が出たわけ。なんか、いろいろな医術の実験台にされた感じがするわ。それでどうしたの?」

「いや、その、マヤから聞いたんだよ。以前のことを。ああ、家族のつながりを……それで……」




「はい?」


 あの話かしら……。


「ああ、変なことを言ってごめん。つまりね……」

「お姉ちゃん! それじゃお母さんもわからないわ。あ、つまり、マヤにね、お母さんとしっかりつながるとすごいことが起きるのよって言われて。わたしたちもとても興味があって。それでいつの間にか押しかけて来てしまったの。都合も聞かずにいきなりごめんなさい……」


 ああ、やっぱり……。


「病室に顔を出してくれても、皆すぐ帰っちゃうから寂しかったの。だからふたりに会えてとってもうれしい。いつでも来ていいのよ。今夜はここで寝るでしょ? ちょうどよかったわ。わたしたちからも話したいことがあるの」

「え?」


 メイがキョロキョロした。


「あなたたちとの約束は果たせなかったけれど、それでも受け取ってほしいものがあるの」

「えっ?」

「さあ、そこに横になってのんびりしてちょうだい。冬の夜はまだ長いから」


 ベッドの上で体を伸ばしたミアとメイの間に座り、ふたりの手を握る。ゆったりとした作用の流れを感じてひとつうなずく。


「ちょっとこのまま待っていてね」


 さあ、いいわ。お願い。



***



「……ふたりとも、すっかりおとなになったなー」

「えっ?」


 きょとんとした目でミアとメイがこちらを見上げる。


「また会えてよかった。まだ務めを果たせてなかった。それだけが心残りだったから……」


 しばらくして、メイがおずおずと尋ねてくる。


「……お、お母さんなの?」


 握った手に震えが伝わってくる。

 ゆっくりとうなずく。


「ええっ!? どうして……」


 いきなりふたりが飛び起きて座り込んだ。

 少しの間、言葉を失った娘たちを眺める。とても元気そう。


「……レンに救い出されたのよ」

「でも、おか……カレンさんはさっき……」

「わたしたちは一体。今夜はレンが頑張って自分を抑えて引っ込んでくれてる。だから、あたしはあなたたちと話ができる」


 ふたりの顔に理解が浮かぶまでかなりの間があった。


「……お母さんにまた会えるなんて思ってもみなかった」

「あたしもよ」

「本当にケイトなのか?」


 ミアの両肩に手をかけて言う。


「いつぶりかしらね」

「……ケイト……ああ、そうだ、ちゃんとお礼を言ってなかった。あたしを自由にさせてくれてありがとう。メイにはさんざん迷惑かけちゃったが、ふたりにはすごく感謝してる」

「エレインの望みだったから。あなたも立派になったじゃない。また髪を伸ばしたのね。そのほうが落ち着いて見えるし似合っているよ。それにしても、こうやって並ぶふたりを再び見られるなんて……」

「双子ってのが何となく嫌で髪を切ったけど、今は似てると言われるとうれしいんだ。なんたってあたしの自慢の妹だから」




 何度もうなずく。成長したふたりに会うなど、もうあり得ないと思っていた。胸が高まり熱くなる。


 これはランの感情よね。自分のことではないのに、自分の体が反応している。ランが目を向けているものを見て、彼女が聞いたことを理解できる。

 それでも、まるで他人を遠くから眺めているよう。とても不思議な感じ。

 しかしこうしている間はわたしの声は届いていないみたい。やはり夢の中でしかランと対話はできないのかしら。


「それじゃあ、マヤがいろいろ言ってくれたのは……このためなの?」

「それはどうかなあ。マヤはたぶんレンと同じ。とても賢いし敏感だから、もしかしたらあたしの存在に気づいていたのかも」


 ランの存在を感知する。そんなことができるのかしら。


「お母さんの、ああ、つまりカレンさんのだけど、力髄とじかにつながると夢のような感覚を体験できると聞かされてから、お姉ちゃんは居ても立ってもいられなくなって……」

「こら、メイ」


 湧き上がる温かくも不思議な感覚に包まれる。本当にこんな日が来るとは思ってもみなかった。


「ああ、それならたぶん知ってる。同調を使って家族をひとつにつなげるやつ。でも、ちょっと待って。マヤはケタリになったのよね。彼女なら同じことができるんじゃないの?」

「マヤはできないと言っていたわ。お母さんとでないと無理みたいって」

「ふーん、やってみたんだ……。でも、どうしてかしらね。まあ、いいわ。あたしも試してみたかったからちょうどよかった」




 見慣れない服にしばし見入る。薄くて柔らかくて上品。それに上下に分かれた内服は久しぶり。上だけするりと脱ぎ捨てる。


 知っていると思うけれど、ラン、わたしの内事ならきっとこう言うわね。

 何をなさるのですか、って。

 あれっ? 今の言葉は聞いた覚えがないわ。初めて。ということは、今はランの記憶とつながっているのかしら。彼女が覚えている内容を自分の記憶のように感じる?

 突然、安堵の感情が押し寄せてくる。


「この体はレンのだけど、借りている間は自由にしていいよね。レンも許し……」


 しばらく目の前のものを見つめた。


「双子なのにこの違いはどういうこと? ねえ、知ってた? こうだって……。まあ、これでもふつうの子に負けるけど」


 ねえ、ラン、わたしは以前のわたしを何も知らないから……。


「だけど、レンはこんなに痩せてたっけ? 体が信じられないほど細いし、ちゃんと食べているのかしら。ああ、これはきっと、みんなして苦労をかけたせいなのね。あたしもレンに助けられた……」


 記憶は全部なくなったけれど、今のわたしは元気だし、これが普通だと思うのよ。それにわたしのほうこそ、みんなに助けられたのはわかっている。


 両手で触ってみる。


「自分に対して生成が使えれば、あたしのだって、これくらいには……」


 ラン、いったい生成でどうするつもりなの?


「……わかってる、それが無理なことは。ああ、そういえば、あたしの体はもうないのだった……。それにしても、すっごく柔らかい。こんなの初めて……ほら、見て……ありゃりゃ?」


 そんなに揉まないで。今のわたしに感覚はないけれど、それはきっと……。


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