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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第2部 第5章

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327 輪術式 ―形成― (カレン)

 カレンはため息をついた。


「ねえ、ジン、違うでしょ。ほら、スカートは穿()いているし、ちゃんと下衣も身につけ……」

「その透け透けのちっぽけなものを肌衣とは言いません!」


 確かに、このレンダーはもはや体の一部と言ってもいいわね。

 また、ため息が出た。


「そんなに怒らないでちょうだい」


 シルのレンダーはとても薄いけれど、ぴたりと吸い付く肌衣はこの寒さを多少なりとも和らげてくれる。


「言わなかったかしら。あなたたちの回復力でマリアンを支えるのよ。それにはわたしとつながる必要があるのはもうわかっているでしょ」

「でも、カレンさまは今やイリマーンの王なのですよ。それなのにこのようなことを……」

「ああ、そうだったわね。わたし、最近よくもの忘れをするから」


 ふたりの目つきが刺すように鋭くなり慌てて続ける。


「あのね、今のわたしは輪術式(りんじゅつしき)に臨むひとりの作用者なの。この術式はとても難しいわ。それは昨日の失敗でわかったでしょ? わたしは……わたしたちはこの輪術式に漫然と臨んでしまった。間違っていたわ。もっといろいろと考え全力で立ち向かうべきだったのに。今度はできることは全部するつもりよ。マリアンが全力を出せるように支えるのはあなたたちにしかできないこと。わたしたちはあなたたちの間にしっかりとつながりを作り上げひとつになるの。どんなことがあってもわたしの役目を貫くつもりよ。わかった?」


 一気にしゃべったので息が上がってしまった。


「ノアさまのときと同じことをされるのですか?」

「もちろんよ、ジン。この前は人の命がかかっていた。けれど今回は世界が……わたしたち全員の為すことにかかっているのよ」


 少し考える。昨日は体力の消耗のほうが激しかった。たぶん月の回復者が近いほうがマリアンにとっていいはず。


「さあ、あなたからよ。こっち側に立って」

「両手はマリアンとつなぐから、ここを使うしかないのよ。手を出して」


 背中しか見えないミランを見ながら考える。もちろんフィオナとジェンナは知っている。覚えていないけれど、どうやらクリスと手をつないで同じようにしたこともあったらしい。しかし、何となく手こずる予感がした。やはり、ミランとクリスは置いてくるべきだったかしら。


 でも、さっき自分でも言ったばかりじゃない。全員が全力を出すべきだと。ふたりもその一員だし、彼らの意志をないがしろにしてはならない。




 まだ承服しがたいといった顔つきのジェンナの両手を引っ張り右側に当てる。すぐに作用のうねりを感じる。


「ほら、こうすれば、あなたと強くつながるわ。この前よりもずっと強くね。結果的にマリアンを支えるのも楽になる」


 顔を上げてミランを探す。


「ミラン、何をしているの? こっちを向いて手を出して」

「で、でも……カ、カレンさま……」


 しどろもどろな答えが返ってくるだけだった。


「わたしがあなたたちをつなぐから。さあ、早く……」


 その時、大きな揺れに襲われた。

 倒れそうになりマリアンが後ろからしっかりと抱きかかえてくれた。また地震だ、しかも前より強い。こちらに来てから何回目だろう? 頻繁になってきたような気がする。


 すぐに揺れは収まったが、ジェンナは手を離し体を(かが)めてミランに(つか)まっていた。


「やはり、ちゃんとつかんでもらわないとだめだわ。ねえ……」




「姫さま?」


 突然聞こえたマリアンの声に振り向く。


「どうしたの?」

「そのう、もしかして、あたしも同じようにすればもっとお役に立てますか?」


 思わずマリアンを見つめると、その(あめ)色の瞳に不安が広がった。

 彼女の言うとおりだ。このような大事なことをどうして考えなかったのだろう。マヤにはそうしてもらったのに。


「ああ、マリン、ありがとう」


 思わず両手でギュッと抱きしめる。


「あなたの言うとおりよ。わたしはとんでもない間抜けだわ、本当にもう」

「お役に立てました?」

「ええ、ええ、とても」


 体を引けば(はじ)ける笑顔と対面した。


「あなたはこの輪術式の要なのよ。わたしと強くつながるほど力を発揮できるし、何よりつながりが太くなることでふたりとも楽になるわ。さあ、手を出してちょうだい」


 前に向き直るとマリアンが両側から手を伸ばしてきた。

 彼女の右腕を胸の下側に沿わせる。


「右手はここ」


 マリアンの手のひらを力髄のそばにあてがう。


「左手は反対側に。そうそう。ここから離れないようにするのよ」


 背中がマリアンと密着し、まるで服を着たようにぽかぽかになり、首筋には温かい息を感じた。これなら間違っても離れないし、ふたり一緒なら転ばないよう頑張れる。ついでに寒さも和らぐ。願ったり(かな)ったり。




 さて、どうしようかしら。両手があいたから前のようにジェンナに手首を握ってもらえば回復力だけなら流せるはず。

 しかしミランをジェンナにつなぐのが難しくなる。わたしの中の幻精自身に手はないからここにできるだけ近くないと。手首は遠すぎる。やはりここしかない。


 ジェンナの両手をつかんで引き寄せる。


「しっかり押さえてちょうだい。そうね……ペトラがやっていたようにするのがいいわ」


 彼女は手をスッと引っ込め少し考えたあと、カレンの前で腰を落とし両膝を開いて地面につけた。


 とても賢いわ。このほうがぐらつかず安定するし、わたしたち全員が一緒にひっくり返る心配もなくなる。


 彼女は指をそろえて上に伸ばし、丘を挟んで向かい合わせに置いたものの、すぐに申し訳なさそうな声を出した。


「カレンさま、やはりこんなこと、あたしにはとてもできません。また前のように……」


 こちらを見上げるジェンナと目を合わせる。


「いい? ジン、あなたとフィオナだけがマリアンが倒れないように支えられるの。途中で手が離れたら困るわ。また地震が来たらどうするの? さあ、ギュッとつかんでちょうだい。わたしは平気だから」


 わずかに感知力を開いてあたりを確認しながら待つ。

 しだいにサワサワとした感覚が湧き上がってくる。温かいものがどんどん流れ込み、応えるかのように胸が高まる。


 ようやく決意を固めた声が聞こえた。


「わかりました。失礼いたします」


 肩を引いて待ち構える。手が動くのに合わせておなかに力を入れた。ぐんと押し返されたが後ろからマリアンが難なく支えてくれる。




 気づけばジェンナの顔が当惑に満ちていた。

 これが単に刺激による結果だというの? 信じがたい……。


 それにしても、ペトラは必死だったけれど、ジェンナは涼しい顔をしている。ジェンナとマリアンが腕力に自信を持っているのをすっかり忘れていた。


「い、いいわ」


 これだけしっかりと押さえれば間違っても外れることはないわね。


 やれやれ、次はミランね。

 後ろを向いたままのミランに声をかける。


「ミラン、こっちに来て。ジンの隣に並んで手を出して。あっ、その前に、指のレンダーは外すのよ。作用はちゃんと流れるから大丈夫」

「無理です……」


 喉を詰まらせたような声が漏れた。


「別に初めてじゃないでしょ。あなたのジェンナと……」

「カ、カレンさま!」


 そう言うジェンナをちらっと見た。


「ふたりの手が近くないとお互いをつなげない。ただつかむだけよ。ほら」


 相変わらずミランは首を振るばかり。ジェンナ以外の人に触れるのは嫌なのだろうか。思わずため息が出てしまう。


「ねえ、ミラン。あなた、ジェンナを支えるためにここに来たのでしょう。だったらシャキッとしなさい。あなたたちの間にはしっかりとしたきずなができているわ。だから、わたしを通してふたりをつなげば、あなたの力を流せて、それが回復力を支えることになる。あなただけがジェンナを助けられるのよ。わかった?」


 脇からスッとマリアンが顔を(のぞ)かせた。


「姫さま、そんなに責め立てるのはちょっとかわいそうです」

「別に責めているわけじゃないのよ。ふたりのために……」


 マリアンが頭を傾げて上目づかいでこちらを見た。


「あのですね、あねさまのは姫さまより控え目なのです」

「なにが?」


 ジェンナに目を向ければ、どういうわけか彼女の手に力が入る。

 あらら……。


「ミランは戸惑っているのです」

「どうして?」

「いつもと全然違うから」

「マリン!」


 ジェンナの息が荒くなり、おなかに力を入れて踏ん張るはめになった。


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