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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第2部 第5章

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326 輪術式 ―全力―

 翌朝、全員の疲れがとれ完全に回復したところで集まる。

 カレンは居並ぶ顔を順に見回した。皆にまた力がみなぎっていることを確かめた。


 前日の輪術式(りんじゅつしき)に参加しなかった人たち、残って船を守る面々も見守っていた。


「昨日の輪術式で何が悪かったのかはわかっています。ここ、原初の力が以前より格段に増していたためです。それに対抗できずに失敗した。だから今度はわたしたちの持てるものをすべてつぎ込んで総力で臨みます」


 すかさずペトラが言う。


「それって人を増やすという意味だよね。全員が参加するの?」

「ええ、今度はわたしとつながりを持つ者みんなに加わってもらいます。前回の弱点は二つです」


 ここで一息つくと、エメラインの声がした。


「問題はわたしですよね。イジーとクレアに一緒になってもらったのに力不足で……」

「いいえ、それは違うわ。あなたがケタリでもケタリの(たね)の保持者でもないのに無理させたわたしの責任なの。だから今度は、ザナとイオナにもエメラインの手助けに回ってもらいます。エムとメイジー、ザナ、それにイオナの四人で流れを分担する。さらに、補助者として、ディード、ダレン、アレックス、クレアに加わってもらいます。それぞれきずなを持つ相手とペアを組んで支えてあげてください」


 ほかの人たちに目を向ける。


「ミアとメイとペトラは問題ないから、それぞれがきずなを持つ者とペアでお願いします。ミアはレオンと、メイはティムと、ペトラはノアと組んでちょうだい」




 ニコラの声が聞こえた。


「わたしはどうすれば?」

「ニコラにはもう一つの問題点であるわたしのところに加わってほしい。トランサーの圧力が思ったより強すぎてマリアンの負担が大きかった。体力と気力の消耗を防ぐのが課題。だから、癒者(いしゃ)であるフィオナとジェンナにマリアンを支えてもらいます。わたしが間に入れば可能です。でもそうするとわたしは遮へいに手が回らないから、ニコラにお願いしたいの」

「わかったわ、お姉さま」

「申し訳ないけれど、新しく加わってもらう人たちにシルのレンダーはないの。昨日より寒いから、暖かい服を着てきてちょうだい」


 あらためて全員の顔を見回す。


「準備ができたら出発しましょう」




「ちょっと待ってください」


 ジェンナがぱっと振り向いた。


「どうしたの? ミラン」

「ぼくにも手伝わせてください。何もしないでここで待っているのはいやです。ぼくも作用者です。何かできるはずです。それに、ジンの手助けをしたい」

「ねえ、ミラン。ジェンナは普通の作用者ではないから、あなたでは作用を注ぐのは難しいわ。だから来てもらってもやることがないの」

「ぼくもジンの役に立ちたいです」

「だめよ。あなたはここで待っていなさい」

「いやです! ぼくだけ何もせずにただ待っているなんて」


 ミランの気迫にたじたじとなる。こんな態度は今までに見た覚えがない。

 それでもミランは輪術式では使えない。彼がきずなを結んでいるのはジェンナだけだ。その彼女に直接作用力を流せないのでは意味がない。

 直接? そうだわ……。




 突然クリスの声がした。


「わたしもできることならフィオナの力になりたいのだが、無理だろうか」


 真剣な眼差しのクリスをしばらく見つめ、ミランの紅潮した顔に視線を移す。

 直接は無理だけれどわたしが間に入れば……。

 カレンはため息をついた。


「わかったわ。クリスとミランも加わってちょうだい。でも、わたしの指示に従ってね」

「わかりました!」


 元気よく返事をするミランにジェンナが反論した。


「ねえ、ミラン、本当に付いてくるの? カレンさまが言ったでしょ。あたしとミランは作用のやり取りをうまくできないって」

「だけど、カレンさまが……」

「いいのよ、ジン。ミランがあなたのことを大切に思っているからこそじゃない。わたしが何とかするから心配しないで」

「は、はい。それじゃ、頼んだわよ」


 ミランはジェンナに背中をドンと叩かれよろめいた。

 本当に大丈夫かしら。


「では、行ってきます、チャック」

「なあ、カレン、むちゃするなよ。君はいつでもとことんやらないと気がすまないたちだから」


 カレンは口元をほころばせた。チャックに隠し事はできない。


「わかりました。できるだけ努力します」


 大きなため息がはっきり聞こえた。



***



「シャル、そろそろ遮へいして」


 最初にシャーリンとマヤの場所に行きふたりを下ろす。用意した木箱を持って続いた。

 所定の位置に立ったシャーリンのすぐ後ろに箱を置く。


「シャル、今度はマヤとのつながりを強くするために、第三の手を使ってもらうわ」


 マヤが箱に触って言う。


「これに上るの?」

「ええ、そうよ」


 シャーリンの前に回って上服の打ち合わせを少し引っ張り隙間を作る。


「マヤ、手を出して」


 両側から延びてきた手を交差させて服の隙間から差し込む。


「マヤ、覚えている? 力髄の場所」

「うん」

「じゃあ、右手をお姉ちゃんの力髄のところに当てるの。そうよ。そして、お姉ちゃんをギュッと抱きしめて」

「うっ……」

「大丈夫?」

「ああ、いま思い出した。前にお母さんにもこうやったことがあった」

「えっ? そうだったかしら」

「ほら、ウルブ7の防衛戦のとき。あの丘の上でみんなと一緒にトランサーを撃退した。防御フィールドを維持するために、お母さんはメイとクリスと手をつなぎ、わたしはこうやってマヤのように……」


 シャーリンの話を聞いている間に、すぐ後ろまで闇が迫っているのを感じ、背筋に冷たいものが走った。

 あと少しで追いつかれる。


「……お母さんはものすごくがんば……お母さん、ねえ、大丈夫?」

「あ、ええ、平気よ。でも、その話、忘れちゃったかも……」

「ごめん……」

「気にすることないわ。それより今やることに集中しないと」

「うん」


 服の上からマヤの手の位置を少しずらして修正する。


「どお?」


 ふたりの間で作用が流れるのを確かめる。


「うん、昨日よりしっくりしてる。近く感じてすごくいいかも」

「よかった。じゃあ、このまま全員の準備ができるまで待っていてね」



***



「ニコラ、お願い」


 空艇で所定の位置まで運ばれ降り立つ。着陸する前からトランサーが一斉に動き出して赤茶けた地面が現れた。しかし、何となく昨日より広がりが小さく感じられる。

 わたしよりニコラのほうが遮へいの力は強いはずだけれど。昨日より原初の勢いがさらに増したのだろうか。


 ライアの指示に従って前と同じ場所に立つ。

 すぐに飛び立ち次の場所へと向かった空艇を皆が見上げていた。


「さてと、マリアンは昨日(きのう)と同じようにわたしの後ろよ」


 そう言いながら上服を脱ぐ。

 押し殺した悲鳴が聞こえて顔を上げると、ジェンナに背中を押されたミランが後ろを向き、クリスの顔も背けられていた。

 フィオナとジェンナの顔がいやに険しい。


「ふたりともどうしたの?」


 ここが地上より暖かい大地だったとしても、この季節ともなれば寒さはそれなり。少し体が震えてきた。


「カレンさま! いったい何をなさるのです?」


 厳しい顔つきのジェンナに答える。


「ああ、確かにこれは寒いわね。凍えそう」

「何をのんきなことをおっしゃるのですか。そうじゃありません。どうして裸になるのかと聞いているんです」


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