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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第2部 第5章

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325 輪術式 ―対峙―

「ここに、第60代イリマーン王レイチェルが姪孫(てっそん)たる、カムランのカレンが第67代イリマーン王として即位したことを布告する。ただいまより……」


 ダレンを指名したらさんざん愚痴をこぼされた。本当に変な人。まあ、その彼もメイジーにかかればメロメロだから人の心はまったく知れない。そういえば、この人も家族になるのだった……。


 演壇に進みながらまた考える。

 皆はわたしに何を期待しているの? 壁の守り? 人々の安全?

 いったい何をどう話すのが正解なの? これからの生活? 移住のこと、そして新しい島しょについて? それとも……。


「……わたしの成すべきことは、北から押し寄せる破壊者からイリマーンの民を守り……」


 何を偉そうに話しているのだろう……。


「……すべての国民をトランサーの脅威から解放し、皆が誰ひとり欠けることなく新天地に移り住み、そこで……」


 このような漠然とした話で納得してもらえるのかしら……。


「……そういうわけで、イリマーンに住まうすべての方たちに協力をお願いしたい……」


 美辞麗句で話をまとめて終わりにすると向きを変えた。途中で(つまず)いて転びそうになったが、何とかチャックの隣の席にたどり着き腰を降ろす。

 彼はほとんどわからないほどかすかにうなずいた。


 先ほどの情けない姿も映されたのだろうか。たぶん、全国民があきれているだろうな。遅まきながら背筋を伸ばして真っ直ぐ前を向く。




 チャックが手を動かしてカレンの膝をポンと叩いた。とたんに気が抜けて楽になる。

 視線だけ横に動かして反対側をちらっと見る。もうこちらは映されていない。安心して声を出す。


「ふうー、疲れたわ」


 公の場での正しい振る舞いを求められるのはとても緊張する。つくづく向いていないわ。


「大丈夫ですか? カレンさま」


 後ろからの声が震えている。

 顔はそのままで口だけ動かす。


「笑うことないでしょ。わたしはこういうの苦手なのよ」

「そうでもないですよ。堂々としていらしてとてもすてきでした」

「どこが? 自分でも何を話したかさっぱり……」

「すばらしいお話で感動しました。ちゃんと覚えていますのでご安心ください」


 近いうちに彼女の特技のひとつに頼ることになるのはわかっているけれど、これは記憶しなくてもいいのよ。


 別の声が聞こえた。


「それに、はっきり言えば内容はどうでもいいのです。国民にとっては新しい王のお姿を拝見するのが目的だから。そして新しい皇女(こうじょ)を見るのがお目当て。これでどちらも十分に満たされた。ああ、もちろんすばらしい演説は間違いなく皆の心に響いたでしょう」

「ミランの言うとおりならいいけれど……」




 ダレンが娘たちの紹介をしていた。


 誰を王女にするかを決めるように言われたがまだだった。

 考えただけで面倒。どうしようか。反対側に並ぶ公の娘たちを眺める。


 メイジーはイサベラの友人だったらしいし、ゴタゴタがあったにせよグウェンタという由緒ある地氏を持っている。彼女の地位を回復するのは王の権限でどうにでもなる……はず。

 イリマーンの生まれだしこちらのしきたりにも通じているから、一番王女に相応(ふさわ)しいと思うけれど、残念ながら資格がない。

 まったく、この国の変な慣習はどうにかならないのかしら。


 シャーリンは……ケタリだという一点で適任なのだけれど、彼女が抱えているすぐには解決できない問題がある。しばらくは無理。

 ペトラは……問題外だわね。


 メイ……ミアが拒否した後継者になるべく育てられてきた賢くて完璧な彼女を遠い他国の王女に指名したら、ステファンにいったい何を言われることか。それにティムがいる。だめだめ。


 そうするとやはりミアにお願いするしかないか。

 彼女はわたしよりよっぽど指導者の風格があるし、同境のレオンと一緒になったのだから安心して任せられる。

 ケタリにして偉大な王レイチェルの弟の子ランス。ミアもレオンもケタリであるランスの直系という好適に何人も異議を唱えることはできまい。


 問題はひとつだけ。それは……あとで考えよう。

 とりあえず王女問題は先送りするしかない。



***



 前王の国葬は粛々と行われ、イサベラのなきがらは先王ディランと母グレースのそばに埋葬された。その向こうにケイトたち四人の墓があると知ったのはこの時だった。

 皆わたしを置いて逝ってしまった。


 しかし今は悲しみに暮れている場合ではない。前線の活動はますます活発になっていたし、急がなければセプテントリアが陥落してしまう。


 協約の遂行のための準備にまる一日要した。

 空艇はオリエノールとハルマンからの二隻を加えて三隻。昼夜休みなく飛行して原初に到着する。遮へいが張られ大きなテントがいくつも準備された。


 日が昇ると集まった全員の前で話す。

 輪術式(りんじゅつしき)に関してライアが伝えてくる説明をそのまま口にする。


「原初はとても大きい。直径が三百メトレもある。前より格段に大きくなっている。それを取り囲むように同調力で流れを作り、原初に打ち勝てるまで成長させ強くする必要がある……」


 そんなに大きいとは知らなかった。


 わたしもよ。そしてこれを破壊しなければならない。そうライアが言う。




「……ミア、メイ、ペトラ、シャーリン、エメライン、そしてわたしの六人で輪を作る。本来なら、お互いに手をつないで大きな輪を作るのだけれど、それには数百人が必要。その代わりに、六人を互いにつなぐのは幻精たちがやってくれる。手をこうすればあとはつないでもらえる」


 両方の手のひらを広げて立てると腕を左右にピンと伸ばして見せる。


「シャーリンはケタリだからひとりで大丈夫。ほかの四人には補助者についてもらい、流れの一部を分担してもらう」

「ペトラ、こっちに来て。手を左右に伸ばしてみて」

「ニコラ、あなたがペトラを助けてあげてちょうだい。ペトラの後ろに立って。ペトラの両方の手首を握るの。そう、それでいいわ。これで作用と流れの一部を分担できる」

「ミアにはイオナ、メイはザナと組んでちょうだい」


 不安そうなエメラインを見る。


「エム、メイジー、あなたたちとは家族になってひとつにつながり融合したから、あなたたちも力が増しているはずよ。それでも、エム、あなたの負担が大きいのはわかっているの。だから、メイジーとクレアと三人で流れを受け持ってちょうだい。これで、だいぶ軽くなると思うの」

「はい、わかりました」




「シャーリンとわたしは要の役割がある。メデイシャのマリアンはわたしと。マヤはイグナイシャだからシャーリンと一緒よ」

「うん。シャーリンお姉ちゃんと一緒」


 そう言ったものの、その顔は不安そう。


「どうしたの?」

「あのね、あたし届かないよ。小さいもん。それに手も短いし」

「大丈夫よ。シャルがしゃがんでくれるから。それから手は心配しないで。両手でシャーリンの左の手首を握りなさい。そう、そこよ。前にもやったでしょ。ひとつにつながるやり方」

「うん。覚えてるよ」

「シルが輪術式用の特別な服を用意してくれました。作用者が使うレンダーと同じように、力を補強します。皆さんにこれを着てもらいます。肌に触れることで強化する。だから、肌衣の代わりにこれを身につけてちょうだい。ああ、人の体型に合わせて伸び縮みするからどれも同じよ」


 全員の着替えが終わり集まると十二人の顔を順番に見る。全員から決意が溢れている。気力も十分。


「それじゃあ、出かけましょう。空艇で運んでもらうから、降下する前に遮へいを張って。そうしないとトランサーの大群の中に降りることになるわ」



***



 原初の周囲を飛びながら、順番に下ろしていく。

 最後にカレンとマリアンが降りた。エアに頼んで遮へいを張ってもらう。見ればほかの人たちはとても小さく点のように見える。全員が取り囲んだ真ん中にくすんだ白いものたちに覆われた巨大な窪地(くぼち)があった。これを取り除かなければならない。


 突然マリアンがハッとしたように言った。


「どうしてこの景色に違和感があるのかやっとわかった。地平線がちょっと変。こんなにはっきりと見えるなんて。すべての方向に、遥か彼方まで広がり雲に届いている。ちょっと頭がクラクラする」

「ええっ? そうかしら。わたしには違いがあまりわからないわ。でも、よく考えてみれば、大きな窪地の真ん中にいるようなものなのよね、わたしたち。そう言われれば、地上より遠くがはっきりしているかも」


 その時、地面が激しく揺れた。地震だ。最近はワン・チェトラでもたまに揺れるがこれほどではなかった。足を踏ん張らないと立っていられない。

 すぐに揺れは収まったが、これもトランサーがこの大陸を破壊しているせいに違いない。


 マリアンが後ろに立ったので両腕を伸ばす。彼女が手首を握れば準備完了。ひとつ深呼吸するとライアに話しかける。


「ほかの人たちはどう?」

「準備できている。始めましょうか」

「お願いします」



***



「まず全員をひとつにつなぐ。第一の要はわたし、シルの風使いライアとカレナリア・フォンダ=アリエンが空を守る」


 そのあと、残る五人と五体が順に呼ばれて輪に組み込まれていく。


 レイの恵み手ニアとアメリアーナ・フォンダ=アリエンは光を(つかさど)る。レイの導き手ティアとメリッサラ・フォンダ=アリエンは気を制す。


 伸ばした腕が両側に引っ張られ、ミアとメイがつながったことを知る。


 レイの癒やし手シアとペトラルカ・フォンダ=アリエンは水を治む。レイの守り手リアとエメラリーダ・グラム=アンドルは森を支う。

 そして、第二の要はシルの髄使いユアラとシャーロッタ・フォンダ=アリエンが地を統べる。


 エメラインだけ継氏(けいし)が違うことにあらためて気づいた。


「これで輪ができた。では少しずつ同調力を使って作用を流して」


 カレンは同調を開き作用を注ぎ始める。左手から送り出された作用は隣のミアに向かって進み、やがて、ぐるっと回って右側のメイから戻ってきた。


「その調子。徐々に力を強めて」


 ぐるぐる回る作用がしだいに強くなり凝縮してくる。


「マリン、始めてちょうだい」


 マリアンから精分が流れ込み始めそれを流れに載せて送り出す。しばらくすると、精気の流れが加わってきた。作用と精分と精気、三つの流れが融合してどんどん強くなる。


 あらためて見回すと、トランサーの海は遥か彼方まで続いている。皆で取り囲む原初は少しへこんだ谷のようになっているだけで、ここがトランサーの意識の中心であるなどまったくわからない。

 本当にここを破壊すれば解決するのだろうか。


「カレン、大丈夫。協約が停廃されるは、すなわち原初の消滅。大地を刻むものの発生もなくなる」


 流れはどんどん強くなり、引っ張られるようにマリアンから力が吸い出されていく。

 ここ不毛の大地に精気は少ない。シルの力がなければこの輪術式は成立しない。

 しだいに時間感覚が失われていった。




 突然、戻ってくる作用に振動が走った。流れがうねるように揺らぎ、後ろからかすかにうめくような声がした。


「マリン、大丈夫?」

「はい……姫さま、あたしは大丈夫です」


 ライア、マリアンの負担が大きいようだけれど、もしかしてほかの人も?


「カレン、よくない。リアが崩れそうだと伝えてきた」


 それって、エメラインとメイジーとクレアの負担が大きいってこと?


「そう。大地を刻むものたちの圧力が強すぎて、カレンのメデイシャも疲れているように見える」


 このまま続けても原初を消滅させられるほどの力をため込めないという意味ね?


「正しい」


 これは失敗だ。予想以上に原初の力が増大している。どうやらシルも把握できていなかった事態のようだ。

 このままだと達成前にエメラインが限界に達してしまう。もちろん、マリアンもだ。彼女の体力も気力も続かない。後ろからまたあえぎが聞こえた瞬間、決意が固まった。


 中止しましょう。ライア、いいわね?


「わかった。皆に伝える」

「マリン。今日はこれまでよ。中止するから作用を止めてちょうだい」


 カレンは力を徐々に弱めた。注ぎ込む作用を落とし循環をゆっくりにする。


 エメラインのところが弱点なのはわかっていた。それでも三人なら大丈夫と思った自分の考えが浅はかだった。

 それにマリアンとの間の経路も実はそれほど太くなかった。ここも弱いかもしれない。しかも、マリアンは遠くから精分を集めなければならず時間がたつにつれてきつくなる。このままでは体力も失われ作用も長時間維持できない。


 基地に連絡して迎えに来てもらう。

 もう一度よく考えなければ。これほど負担が大きくなるとは思ってもみなかった。

 協約の停廃がとても難しいと思い知らされる結果となった。


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