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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第2部 第5章

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320 どうしてこうなるの? (カレン)

 カレンの脳裏では少ない記憶が渦巻いていた。これまでに聞かされたさまざまな話。

 ああ、レオンの父シモンの兄弟。でも、死んだはず。レオンはそう言っていた。あの、インペカールとの戦争のさなかで。


「おれの父、シャノンはユアンの子だ。インペカールがメリデマールに侵攻した日。攻撃で家が崩壊して瓦礫(がれき)に埋もれた。シモンは助け出されウルブに逃れられたが、シャノンは取り残された。彼はインペカールから来たおれの祖父に発見された。彼は祖父に保護され手当てされたあとインペカールに連れていかれた。そこで祖父の娘と一緒になった。そして生まれたのがおれだ」


 サイラスはカレンの目をじっと見た。


「シャノンはシモンと同じくケタリの種を持っていた可能性が高い。ケタリになり損ねたシャノンの子であるおれに当然ケタリの種はなかった。だから男のケタリを産める女が必要。これだけ言えば十分だろう。わかったか? それもこれも、あいつのせいだ。同調力を行使するさなかにユアンを支配しようとするなど、狂気の沙汰ではない。とにかくそれがすべての元凶だ」


 彼は怒りを静めるかのように大きく息をついた。


「まあ、いい。こいつがいれば今度こそ何とかなる。だが、もう必要ないおまえには死んでもらう」


 イサベラが突如攻撃をかけてきた。即座にシャーリンは防御に切り替えたが、今度はサイラスの強制力が全員を襲ってきた。

 ペトラが破壊をサイラスに向けたが、すぐに防御フィールドに阻まれる。両方なの?




 タリアとエドナからの攻撃を防いでいたシャーリンが突然両手で頭を押さえた。


「シャル、どうしたの? 大丈夫?」


 目の前に現れたペトラが、いきなりシャーリンのスライダをむしり取った。

 次の瞬間、シャーリンが大きく息をつき目を見開いた。


「どうして……」

「たぶんこれよ。ほら、イサベラも似たようなものを付けてる」


 ペトラはイサベラを見ていた。

 (つい)の木。……あの話は本当のことだったの? (いにしえ)の技。お互いを結びつけ守るだけでなく相手の支配も可能……。それが古の装具。


 シャーリンが声を絞り出した。


「ということは、あれを取ればイサベラも正気に戻る?」

「その可能性はあると思うけど、彼女に近づくのはとても無理」

「ペトラさま、あたしがやります。たぶん平気だから」


 ジェンナが身を屈めて後ろに下がっていった。すぐに視界から消える。

 カレンはペトラ、シャーリンと手をつなぎ、ふたりが防御と破壊を最大にするもすべての攻撃が()ね返される。




 突然、サイラスの背後にフィオナが現れたかと思うと目にも留まらぬ速さで彼に襲いかかった。しかし、切っ先が胸に届く前に彼女の手からディステインがはたき落とされ、次の瞬間フィオナは地面に伸びていた。

 彼がこちらをちらっと見て言った。


「どうして誰も理解しないのだ。こんなことはむだだと」


 サイラスの手にカイルを殺した銃が現れた。


「こいつは携帯するには小さくて便利だ。そして、これでもおれの力を加えれば、貫通弾を上回る威力を発揮し、どんな防御フィールドも役に立たない」


 サイラスは銃をカレンに向けた。


「そいつを殺されたくなかったら、こっちに来るんだ。おまえを殺すのはもったいない。すぐに使えるからな。さあ、こっちに来い」


 シャーリンは首を横に振った。


「誰があんたと一緒になんか……」


 アセシグが跳ね上がった。




 首を何度も振ったサイラスは言った。


「それじゃあ、もう一つ見せてやろう」


 彼の後ろに控えていたギルの隣に数人の作用者が現れ手をつなぐ。

 何をするつもり?

 ギルが差し出した手をつかんだサイラスはもう一方の手でイサベラの手を持ち上げ耳元で何ごとかささやいた。


 突然、イサベラからものすごい作用が沸き起こり、サイラスに向かって流れ込むのが()えた。

 すぐに(すさ)まじい強制力に襲われる。頭がしびれるような感覚に膝がへなへなとなり立っていられなくなった。


 これは……同調力なの? とてつもない力……わたしが今まで経験してきたのは何だったのかしら。

 圧倒的な作用に引き込まれる感覚が強くなっていく。

 何かにしきりに引っ張られる。これは……覚えがある。ケイトを引き戻そうとした時と同じ。


 シャーリンが叫んだ。


「イサベラ、暴走させちゃだめ!」


 彼女の顔が青ざめていた。そうか、彼女も同じものを経験したことがある……。

 突然、答えが浮かび上がってきた。わたしもケイトもトランサーの出現時にその影響を受けている。あの時取り込んだ異物もトランサーと関係しているに違いない。


 あの時、毒とともに忌まわしきものがイサベラにも入り込み致命的な病を引き起こした。彼女が力を振るうほどに変調をきたし、同調力の中で強い作用を使えばあそことつながってしまう。わたしたちと同じ……。




「イサベラ! 同調を使っちゃだめ。引き込まれる。ケイトと同じになってしまう。すぐに止めるのよ!」


 サイラスはイサベラを完全に支配した。彼の言いなりで危険な同調力を全開にしている。何とかしなければ。どうすれば……。


「シャル! このままだとイサベラが原初に引き込まれてしまうわ。サイラスが彼女にやらせていることをやめさせないと、あそこに飲み込まれる」


 すぐそばまで来ていたジェンナがイサベラにつかみかかったが、途中で凍り付いたように動かなくなる。何とか振り向いてサイラスに手を伸ばしたものの、すぐに腕がだらりとなり両膝をついてうずくまった。


 その間にシャーリンがイサベラに飛びかかる。次の瞬間には手にスライダが握られていた。

 すぐにイサベラから大きなあえぎが漏れる。その視線が地面に横たわるカイルに向けられ、ついで(つか)まれている手に注がれる。それからゆっくりと頭を上げサイラスを見た。

 彼の顔に驚愕が浮かびたちまち怒りに取って代わる。


 シャーリンはイサベラの腕を引っ張ってサイラスから引き()がそうとした。


「何をする!?」


 サイラスがシャーリンに銃を向け、ジャシグが膨れ上がった。

 イサベラが自由なほうの手でシャーリンをつかんで引っ張るのと、サイラスからの作用が頂点に達するのが同時だった。


 イサベラの同調力が膨れ上がり防御フィールドが光を放った。

 銃の発射音は聞こえなかったが、イサベラが後ろにのけ反るのは目に入った。


 引きずられるように倒れるサイラスの顔に愕然(がくぜん)としたような表情が見え、次の瞬間には何かにもがき苦しむようにゆがんでいく。




 シャーリンの叫び声で我に返る。何が起こっているかを瞬時に悟った。

 イサベラがサイラスの銃に撃たれた。にもかかわらず同調力が止まらない。あの時のように力が暴走している。まだ彼女とつながったままの全員が引き込まれていく。


 イサベラをサイラスから引き剥がそうとしたが、硬直した手はビクともしない。諦めてカレンはシャーリンとイサベラのそばに座りふたりの手をつかむ。


「だめ! ふたりとも頑張って。引き込まれてはだめ。今度は絶対に行かせない」


 原初に捕らわれたケイトを引き戻そうとしたときと同じ。同じようにものすごい力で引っ張られている。どうして? 突然周りの状況が見えてきた。


 サイラスを通して暴走する同調力。彼は周囲の人たちとつながったまま。全員の作用が膨れ上がり、あそこに引き込まれていく。

 ああ、彼はオベイシャの主、これが他者とつながる技なの?


 カレンは顔を上げた。

 体が引き裂かれそうなほどに強く引っ張られている。

 シャーリンが繰り返し叫ぶ。


「イサベラ! しっかりして!!」




 彼女が抱きしめるイサベラは目を閉じたまま体を激しく痙攣(けいれん)させている。

 ああ、どうしよう。原初に抵抗している間は何もできない。エアに委ねることも(かな)わない。

 お願い、ユアラ、助けて、あなたのイサベラが死んでしまう。ライア、エア……どうかお願い、助けて。


 もう(こら)えきれないと思った時、周囲にいた大勢の人たちの感触がぷつりと切れた。

 サイラス、それに彼とつながっていた人たちはみな地面に倒れていた。全員の命が消滅した。もう誰からも何も感じない。


 突然イサベラの振り絞るような声が聞こえた。


「お母さま……ありがとう」


 彼女の意識を引き戻すことには成功したものの、彼女の顔は服と同じく真っ白で、その服は深紅に染まっていた。彼女の力髄のあった場所にはぽっかりと大穴があいている。

 イサベラはシャーリンの腕を引っ張り耳元でささやいた。


「お姉さま、お願い……」


 シャーリンはただ繰り返し首を振っていた。

 イサベラの握る手がどんどん弱くなり、あっという間に彼女の作用が失われていった。


 次の瞬間、イサベラがフッと息を吐き動かなくなる。つないだ手にもう何も感じない。

 シャーリンが驚いたように目を見開き何度か震えたかと思うと叫び出した。


「だめだ、イサベラ、そんなこと……それはないよ……だめ……」


 シャーリンの目から涙が溢れ出た。

 カレンはイサベラを見下ろしたまま動けずにいた。体の中に震えと寒気がどんどん広がっていく。

 ああ、なぜこうなるの? 何を間違ったの? どうして……。


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