317 感謝の嵐
オリビアには何度も抱きしめられ、会うたびに何かできることはないかと尋ねられた。
ジェンナとミラン、それにマリアンの去就について話すと、あっさりと言われた。
「まあ、最初からそのつもりよ。ジェンナはどういうわけかあなたの来訪を聞いた瞬間から決めていたし、マリアンはジェンナの妹同然だから。それに今では二人の姉がいるのでしょう?」
フィオナとジェンナがノアの回復を助けていることにも感謝された。
「それはふたりに言ってください」
「癒者としての力をあなたが目覚めさせたと聞いたけれど」
誰が彼女に話したかは想像がつく。ダレンのおしゃべり……。
どうやら彼女に何か頼み事をしないといつまでたっても解放されないらしい。
「それでは、フェリシアのことで一つお願いがあるのですが……」
「ああ、何でも言ってちょうだい」
フェリシアの将来に備えての勉強について話をしたら、二つ返事で引き受けてもらえた。
「ペトラもノアのために力を尽くしてくれているし、彼女にも感謝の印に何かしてあげたいわ」
彼女は単にノアに興味津々だからべったりしているだけだと思う。
「ミアとレオンが歩行訓練をしてくださるそうね。きっとすぐに歩けるようになるわ。本当に皆さんのおかげ。とても感謝しているのよ」
「あのふたりには同じような経験がありますから。それに、皆でアデルに滞在させてもらっているだけでもう十分です。ペトラなんか書庫に入り浸っているようですし」
「あら、ここはもうあなたたちの住まいなのよ。だからいくらでも居ていいの。あなたはわたしの娘なのだし、彼女たちも……」
あなたの孫よ、全員が。
「……娘のように思っている。それに、ノアもペトラのことが気になっているようだし」
「えっ?」
彼女は何か感づいたのかしら。
「つまりね、ノアは何年も眠っていたわけだから、彼女に構ってもらえればものすごく刺激になると思うの。オリエノールに行くときには一緒に連れていってもらっていいのよ」
「はあ?」
「あの子はああいう性格だから、はっきりした娘がいいのよね。ペトラは見かけよりすごくおとなびているし」
「えっ?」
何でもずけずけ言う彼女の性格は少し直してほしいのだけれど。
「ああ、カレン、今のは独り言だから気にしなくていいのよ」
ペトラとノアの間にはすでにきずなができていることを話すべきか迷ったが、しばらく黙っていたほうがよさそう。
「ノアとペトラ、あのふたり、何となく気が合っているように見えてならないわ。そう思わない?」
「わたしには何とも……」
「そうなの? わたしにははっきりわかりませんけど、あなたなら視えているのではなくて?」
心臓の早鐘が聞こえてしまいそう。
「いいえ。わかりません、お母さま」
彼女はしばらくこちらを見つめていたが、ため息とともに続けた。
「じゃあ、期待して待っているわ」
やれやれ、どっと冷や汗が出てきた。
***
ジェンナからザナが目を覚ましたと聞き一緒に病室に行く。
フィオナと話をしていたザナが顔を上げた。
「カレン、迷惑をかけてしまった」
「何を言っているのですか。こちらこそ謝らなければ。カムランで意識を失うなんて不注意でした。たぶん何か薬を打たれたのだと思います」
前にも同じような目に遭ったというのに、本当にだめね。わたしは学習能力に欠けている。
「エルナンのことで忙しいのにイリマーンまで来てもらって、わたしを正気に戻してくれたとフィオナから聞きました。おまけに身を挺して守ってもらい本当に感謝あるのみです」
「カレンが何ともなくてよかった。わたしは義務を果たしただけだから。それに、ティアから聞いたわ。カレンがレイの長に掛け合ってくれ、そのおかげで死を免れたのだと。わたしのほうこそお礼を言いたい。本当に感謝している」
「あなたがいなくなったら、わたし、途方に暮れちゃうから……」
扉が開く音とともにイオナとペトラが現れた。
「ザナ、命がけで姉さまを守っていただきありがとうございます。エルナンが気がかりでしょうが、ゆっくり静養して体を治してくださいね」
「ありがとう。しかし、オネも変わったね。以前はもっと……」
「ああ、それは言わないで。お願い。さんざん酷い仕打ちをしたのに、姉さまはノアを救ってくれたのだから……。ときに、それのことで話があるの」
彼女の視線はサイドテーブルに置かれたディステインに向けられていた。
「姉さまから全部聞いたわ。姉さまにも賛成してもらったのだけれど、それはフィオナが持っていたほうがいいと思うのよ」
すぐにザナはうなずいた。
「わたしもそう思っていた。カレンに異存がないのなら……」
「ええ、わたしは構わないわ」
「ということで、これはフィオナが身につけておいて。きっと役に立つときが来る……」
イオナはそう言いながら、ディステインをフィオナの髪に挿した。
フィオナが退出するのを見届けたあとペトラに尋ねる。
「ところで、毎日、ノアのところに入り浸っているようだけどどうなの?」
「うん、すごい回復力で、もう少しすれば普通になるんじゃないかなあ」
「それはよかった」
「フィンとジンの力のおかげ。そうでなければこんなに早く回復しなかったと思うよ」
イオナがジェンナの手を取った。
「わたしも、フィオナとジェンナには感謝しかない。あらためてお礼を言わせて」
「恐れ入ります、イオナさま」
「思ったんだけどさ、フィンが怪我したとき」
「ええ」
「すごく回復が早かったよね」
「それはあなたの医術がよかったからでしょ。セインの医術者たちも感心していたじゃない」
「でもさ、今は、あれはフィン自身の力じゃないかと思う。ねえ、カルもそう考えてるでしょ」
「癒者は自分を癒やせない……」
「それはわかっているけど、あのときはお母さんとつながっていたんだよ。だから、ある意味お母さんが……」
「ペトラ、そうだとしても、結局自分の力に変わりはないわ。そうでしょ?」
「そういえば、イサベラから返事はあったの?」
「ええ。いつでも来てちょうだいと。協約についてもわかっていると思う。たぶんね……」
「イサベラと会ったユアラがシアに話したのを聞いたんでしょ? 本当に大丈夫かなあ。幻精って肝心なところをはしょったり勘違いしたりすることがあるように思う。信じられないほど長く人と付き合っているにもかかわらず、時々おかしいと感じるのはわたしだけじゃないよね」
「うーん、シルの力の衰退と関係しているのかしら」
「いや、違うと思うな。彼女たちの、というかレイの考え方、時間感覚もそうだけど、わたしたちとは異なる。そのせいじゃないかなー」
「とにかく、準備ができしだいカムランを訪問するつもりよ」
ペトラが真剣な眼差しを向けてきた。
「誰と一緒に行く?」
「そうね……アレックスはもちろんザナと居残り。ニコラとクリスはずっとローエンよね。マリアンはまだ本調子でないから連れていかない。フィオナとジェンナは絶対に行くと言い張っているし、これは公式の訪問だから一応体裁は整えたほうがいいと思う。フェリシアにはここで本来の勉強をしてもらうわ。オリビアさまが直々に指導してくださるとか」
「うわっ、それは……大変そう」
「彼女はフィオナのような内事になるのを目指しているのでしょ。オリビアさまに見てもらえるなんて二度とないわ」




