292 初めての戦い
「セット出力最大、単射で撃ちます」
軽い響きを残して白い光が走った。音は小さいもののこの明るさではすぐに気づかれそう。
ジェンナから声が飛んだ。
「ちょい左! あおりはそのまま」
再びキーンという音とともに光が伸びたが空に消えていった。もう旋回する空艇がはっきり見える。
「連射!」
「はい、連射します」
続いて光の帯が何度も空に伸びた。
上から声が響く。
「だいぶ遅れてる。もっと速く回して!」
マリアンから唸るような声が聞こえ、砲身が震える。
ついに光が空艇をかすめた。続いて、爆発音を耳にし、白い煙が上がるのが見えた。
「おお、初めてとは思えん。いい腕をしている」
ダレンの感心するような声が耳に届いた。
「だが、勝負はこれからだ。もう一隻がこっちに向かってくる。場所を特定されたな。防御も強化されたぞ。あとはこいつが連続でどれくらいいけるかだ」
カレンにもアセシグが跳ね上がったのがわかった。あれを貫かないといけない。
「フィールド展開! 空艇の動きに連動!」
すぐに動力車からの音が高まる。
「真っ直ぐ来る。方向このまま、もっとあおって」
「はい、連射、いきます」
先ほどより甲高い音とともに光が空に向かって伸びる。
「右に回して、撃ち続けて!」
ものすごい熱気が充満する。これはどれだけ連続して攻撃できるのだろうか。
マリアンから唸り声がした。
「追いつかない。もっと速く動いて。そうだ、これ……」
「またこっちに向かってくる。マリン、急いで!」
「そう急かさないでください、あねさま。いま調整してますから……」
空艇がぐんぐん大きくなってきた。銀色の表面に光が反射する。
次の瞬間、アシグの高まりを感じた。
ダレンが怒鳴る。
「攻撃くる!」
正面に光が見えたと思ったら、フィールドが真っ白に輝いた。
とりあえず一撃目は防げたが、後ろから轟音が聞こえた。明らかに過負荷のようだ。あとどれくらい耐えられるのだろうか。
「連続でいきます!」
グリーンという音とともに空が眩しくなり、目がしばしばするような光の明滅が繰り返された。
砲身が跳ね上がり固定されているにもかかわらず車体が上下に震える。空艇のそばで次々と光が炸裂するのを目にした。防御フィールドには当たっているようだ。
次の瞬間、光輝が広がり何も見えなくなった。攻撃力が跳ね上がり、すぐそばで爆発音が響き車が揺れた。
見上げるとジェンナは何ごともなかったかのように立ったまま告げた。
「外した。惜しい。……いまよ。旋回している間に撃って!」
フィールドが光り輝き目が眩んだ。後ろから途切れ途切れの轟音が聞こえてくる。
攻撃の甲高い弾けるような音がまた響き渡る。
「限界……これ以上もたないです」
フェリシアから動揺が伝わってきた。
騒音の中、ジェンナの声がかすかに届いた。
「目標は降下中」
ディードが確認する大声を聞いたとたん、足がへなへなとなりその場にしゃがみ込む。
マリアンが壁に背中をつけてズルッと腰を落とした。見上げる顔は真っ青。
「偉い、マリン。よくやったわ」
見下ろすジェンナに向かってマリアンが引きつった笑顔を見せた。
光が薄らぐと、草原を疾走してくる車列が見えてきた。
遮へいは解除されていた。みんないる。ザナも視えた。
いつの間にかジェンナの隣に立っていたダレンが腕を伸ばし遠くを指さした。
「敵さんのお出ましだ。森の出口」
ディードも屋根に上っていった。
「マリン! 今度は地上だ」
「は、はい、お待ちください」
彼女は飛び起きた。すぐに砲身が下がって反対側の森を狙う。
こちらの動きに気づいたらしく疾走してくる車がパッと左右に分かれた。
「何も見えないです。暗すぎて」
上から声が聞こえた。
「ちょい右、そう、この方向でいい!」
「森しか見えません……」
「このまま、単射、撃て!」
光の帯が伸びていき炸裂した。反対側の森に火の手が上がる。
単眼鏡で覗いていたダレンが言う。
「やつら、森の奥に後退していく。もう一発撃ち込んでおいたほうがいいんじゃないか」
ディードもそう考えたらしく、彼の指示でもう一度光が炸裂した。
***
車が止まると飛び出してきたのはザナ。その顔は複雑だった。
「ああ、ザナ、無事でよかった……」
「心配をかけたみたいですまない」
その後ろからぞろぞろと顔見知りが集まってきた
ミアの声がする。
「なあ、言ったとおりだろ。カレンは絶対に来るって」
「しかしどうしてここに……」
「ああ、レオン、ほら、あそこで呼んでる。手伝いが必要みたいだ」
「カレン……あなたには来てほしくなかった。でも……危ないところを助けられた」
「お役に立ててよかったです、ザナ」
「こんな危険な場所に来るなんて。ほかのみんなもだけど……」
「たまにはわたしにも手伝わせてください。いつも助けてもらってばかりですから」
「それがわたしの役目だから」
「すまない、カレン。こんなことになるとは思っていなかった」
「アレックスはどうしてここに? 混成軍はどうしたのです?」
「わたしと一緒で辞めたのよ。今は一応メリデマール領主ということになっている。まあ、名目だけらしいわ」
ペトラが横から口を出した。
「なので、ザナの将来のために尽くしているわけ」
「そういう言い方は誤解を……」
「あら、それじゃあ、おふたりは……」
「うん、そういうこと」
「何をふたりで納得しているのよ」
「ということは、ここに来たのもおふたりでエルナンを……」
「それは違う。どうしてこうなったのかは正直自分にもわからない。わたしは何も聞いていなかった……そもそも、わたしがハルマンに来ていることだって誰も知らなかったはずなのに」
「そうとは思えないな。ほら、フェルンで合流した大勢の人たち、彼らは明らかにザナを待って……」
「ペトラ、想像を膨らませないで」
そうザナは言ったが、これまでに聞いた話を思い出せば、ペトラの考えはたぶん正しい。
ローエンからメリデマールに渡ったエルナンの人々、彼らとその子孫はメリデマールに根付く間もなくウルブに逃れることになった。その人たちがローエンでザナと合流した。
しかしそれならエルナンの人たちはどうして援軍を待たずに進軍したのかしら。五十七年だったかしら。そんなにたつのに今さらなぜ急いだのかしら。
疑問が渦巻いているのを見透かされたようにザナがため息をついた。
「おそらくウルブを出た部隊の情報がトランに漏れた。トランが先手を打ってきて慌てたエルナンは増援を待たずに反撃して罠にはまったのよ。もう少し連携がとれていればあるいは……。今さらそんなことを言ってもしょうがないけど」
アレックスがうなずいた。
「ああ、そうだな。大きな部隊を移動させれば察知される可能性も高い。どの国もあちこちに諜報網を張っているだろうし」
「その中には、ナタリアも入っている……」
ペトラがナタリアを見た。
そう言われた彼女が慌てた。
「え、ええ。でも、今回の蜂起の件は……きちんと把握していませんでした」
「リアナ……母から聞いているわね?」
「えーと、はっきりとは……」
ザナはナタリアの顔をしばらく見つめたが、結局、鼻を鳴らしただけだった。
いろいろ経験したおかげで今ならわかる。
ザナのお母さんが今回の件を把握していたのは間違いない。名ばかりだとしても、彼女が今でも正統な当主のはず。
ああ、きっと、ザナが混成軍から抜けたのも今回のことが理由の一つ。
それでも律儀なザナがわたしのケタリシャだという理由で最後まで知らせなかったのだろう。代わりにナタリアが裏でかいがいしく動いていた、といったところかしら。
当主もその娘も現場にいなければ、連携がうまくいかずに失敗するのも納得できてしまう。
今回の敗戦の後遺症は大きいような気がしてきた。こうなるとエルナンが主家に次ぐ準家の地位を保つのすら難しいかも。
淡々と野営の準備をしている人々を見るほどにそう思えてきた。




