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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第2部 第4章

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291 戦いの予兆

 ダレンが顔を上げてジェンナを見ている。ああ、もしかして彼女も……。

 彼が口を出す前にカレンは声をかけた。


「ジン、こちらに来てくれる? あなたのも確認させてね」


 緊張した様子の彼女の手を取る。

 あれ? 思わず目を上げてダレンを見る。


「ジェンナからはフィオナと同じ作用は感じないです」

「どれ……」


 ジェンナの手を取ってしばらくじっとしていたが、しまいにダレンは首を傾げた。


「おかしいな。この娘からも何か流れは感じるのだが」


 もう一度彼女の手を取る。


「手に意識を集中してくれる?」


 かすかに震えるのは感じたが、フィオナと同じ作用の流れは起こらない。

 ダレンを見上げる。


「勘違いなのかしら?」

「うーん、おかしいな。おれの感覚が間違っているのか。癒者(いしゃ)に会うのは今日が初めてだからな」

「いいわ、ジン、ありがとう」

「あたしは姉さまとは違う?」

「あなたにも力と流れを感じるけどよくわからない。まだ、癒者として初動していないだけかもしれない。フィオナのほうが年上だからかしらね? その彼女も完全ではないようだし」

「もう少し様子を見るしかないな」



***



 特に怪我(けが)の深刻なもう二人にフィオナと回復を施す。

 そのあとペトラが、「あとは大丈夫」と言う。


 生死の淵をさまよっていた三人ともが何とかなりそうだと聞いて安堵(あんど)する。

 ペトラとフィオナは残りの人たちの手当てに移ったので、カレンはジェンナと外に出た。ダレンはペトラの医術を見学すると言って残った。


「カレンさま、わたしも姉さまのようになれるでしょうか?」

「大丈夫よ。あなたにもちゃんと力があるわ。それは視えているの。そのうち使えるようになるから安心して」

「そうですか。なんか役に立たない力があるような気がして……」

「心配しないで。フィオナは一度大怪我(けが)しているの。その時に癒者として目覚めたのかもしれない。ジンも時期が来れば必ず作用を使えるようになる。わたしが保証するわ」

「ありがとうございます。そう言ってもらって肩の荷が下りたような気がします」

「それならいいけれど」


 ふたりは振り返ってテントのほうを見た。


「ペトラさまはすごい医術者ですね。作用のことはよくわかりませんが、ダレンさまが感心していました」

「そうね。彼女は最初のころよりずいぶん進歩したと思う。すごく勉強熱心なの」

「あたしにもわかります。何ごとにも熱意があって尊敬します」

「でも時々暴走するから気をつけてね」

「カレンさまは一年前までの十数年眠っていたと言っていましたね。だとするとペトラさまは……」

「ああ、そうよね。不思議に思うのも無理ないわ。あなたにはきちんと話しておいたほうがいいわね」


 カレンはジェンナに三人の娘のこと、それから、エメラインが瀕死の状態になった訳を説明した。黙って聞いていたジェンナは最後にこくりとうなずいた。


「カレンさまは大変な目に遭われたのですね。今も……」

「ねえ、ジン。わたしは自分で子育てしたことはない。パメラとグレースとフランクにすべて押しつけた。それでも娘たちは皆わたしを慕ってくれる……なんて恵まれているのかしら。いつかこの代償を払わなければならないような気がするの」

「そんなことありません、絶対に。あたしがそうならないようにお守りします」

「頼もしいわ。でもね、あなたに守ってほしいのはわたしの記憶だから……お願いね」

「もちろんです。あたしももの覚えはいいほうだと思っていますから」

「ああ、ペトラたちが出てきたわ。みんなのところに戻って食事にしましょう。わたしたちも今のうちに体力を回復させなければ。今夜は大変になりそうだから」

「はい、では準備します」

「お願いね」



***



 本隊はなかなか現れなかった。

 予定よりかなり遅れていた。夜も深まり空に星が輝いて見える。

 遠く反対側の森の出口に近づいているかもしれないが、感知でも視えない。遮へいされればさらにわかりにくい。

 ディードがぽつりと口にする。


「十分暗くなるまで待っていたのかもしれない」

「そのほうが安全ですよね」


 ジェンナが落ち着いた声を出した。


「夜になれば攻撃されないのかしら?」

「相手が見えなければ攻撃されない」

「もう真夜中よ」

「あまりよくないな」

「なにが?」

「天気がいい。そして、月が明るい。満月に近いな……」


 突然、空気がピリピリ震えるような感触があった。

 ディードと顔を見合わせる。


「本隊が攻撃されているかも」

「どうしてわかるの? 攻撃はこんな遠くまで伝わる?」


 ディードが指さしたところに視線を向けるがしばらくたっても何も見えない。


「あそこが一瞬わずかに明るくなった。攻撃時の光かも」


 月に照らされた草原に動きはなく、絵に描かれた風景のように幻想的だった。空からもよく見えるはず。


「ディード、急いであれの準備をしてくれる?」


 彼と言葉を交わしたジェンナが走っていった。




 しばらくたつと急に作用がはっきりしてきた。確かに向こう側にいる。


「あそこ、森の出口の近くまで来ているわ」

「敵は?」

「区別はつかない」


 突然、動く点のようなものが視界に入ってきた。

 その数が増えてくる。


「やっと来たか……でも、敵が心配だな」


 まもなく多くの車が森を出て草原を走ってくる。

 突如、他の作用を感じた。慌てて空を見回すが、何も見えない。


「別の何かが来るわ」


 向かってくる車を見ていたダレンが単眼鏡を空に向けた。

 あちこち動かしたあと言う。


「おれにはわからん。どっちだ?」


 カレンは目を閉じて集中した。しばらく我慢して先ほど感知したレシグを探す。……いた。

 そちらを向いて真っ直ぐに腕を伸ばす。


「この方向」


 そのまま目をあけると手は森よりかなり左のほうを指していた。

 しばらくしてダレンが叫んだ。


「いた! 間違いなく空艇だ」


 同じように遠視装置を空に向けていたディードも確認した。


「見えた。まだ距離はあるが、間に合いそうもないな」

「ああ、二隻だけだ」

「まずいな。あれでは丸見えだ」

「隊長、展開完了です」


 マリアンの声に振り返れば、連結車はすでに地面に固定されていた。ほかの人たちも所定の場所にいる。


「ねえ、マリン、ここから本当にあの空艇を落とせる?」

「月が明るいので何とかなるかも。でも、やってみないとわかりません」

「こいつを動かせば遮へいでも完全には隠れられない」

「そうね、ディード、二つともすばやく沈めないと反撃される。でも、このまま見ているわけにはいかない。あれでは身を隠すことはできないし、森に引き返すつもりもないようね」

「追撃されているに違いない」


 フェリシアの声が聞こえる。


「隊長、フィールドを展開しますか?」

「あとにする。展開したとたんに向こうにここが特定されてしまうからな。メイは穿車(せんしゃ)で、ティムは庇車(ひしゃ)で遮へいを目一杯。あまり時間はかからないと思うから全力で頼む」

「なあ、ケタリならもっと強い遮へいが張れそうなものだが……」

「無理言わないでちょうだい、ダレン。わたしは……」

「そうだったな。でも、まあ、一隻落とせばあとは何とかなるだろ」


 マリアンは雷撃砲を前方に向けたあと、ダレンに目を転じた。


「空がよく見えて助かりました。もっと高度が低ければ無理かも」

「間合いを詰めないほうが一方的に攻撃できる」

「フィールドを張る前にまず一隻を確実に沈める、ですよね」

「こっちのほうが射程が長い。近づけなければいい」

「あねさま、上で観測をお願いできますか。このモニターは暗くてはっきりしないの。直接のほうがよくわかると思うので」


 うなずいたジェンナははしごを登って砲身の脇に立った。




 その時、森の出口に光が上がった。

 ディードが(うな)るように言う。


「攻撃された。さすがに早いな」


 目を閉じて意識を集中する。強いレセシグを感じる。これはたぶん……ニコラ。

 ジェンナから声が上がった。


「肉眼でも見えました。空艇が二隻。また攻撃されます」


 空から明るい筋が伸びると地上で光を放った。すでに車列は崩れ大きく広がっている。

 心配そうな声が上から聞こえた。


「防御は大丈夫でしょうか?」

「全車に防御が張られているかわからないわ」


 このままでは、一方的に攻撃されるだけだ。時折、走り回る車からも反撃の光が伸びるがすばやく移動する空艇に効果があるように見えない。


 マリアンが深呼吸したあと報告する。


「隊長、すべて異常なし。いつでもいけます」

「よし、マリン、手前の船を追尾。出力最大、単射」


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