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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第2部 第4章

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287 動作試験

 大きな分岐点を曲がって北に進路を取る。途中で小さな町に立ち寄った。いくつかの店を訪れ食料などの必要物資を買い込む。これから何が必要になるかわからない。もう見落としがないようにしなければ。


 三人が大量の荷物を車内に運び入れている間に、カレンは少し離れた場所に移動する。

 すぐにシアが現れた。


「それで、どこ?」


 小さな腕が伸ばされた。


「この方向、森の中を北に向かっている」

「距離は?」

「……説明はできない。その大きな森はあの山を越えた向こうにある」


 急いで車に戻ると地図を広げて南北に広がる大きな森を探す。

 ……あった。予想した道が正しかったことにひとまず胸をなでおろした。この距離ならさほど時間がかからずに合流できるはず。

 気がつくとジェンナも地図を(のぞ)き込んでいた。

 カレンは南東に位置する森を指さす。


「ここ」

「そこまで行くには夜遅くまでかかりそうです。その前にもう一度どこかで休まないと」


 指を少し上にずらした。


「向こうもこちらに向かって移動しているから、このあたりで落ち合えると思う。だから最初の予定どおりにここまで進んで待つことにします。こっちは森が途切れているでしょ。万一行き違ったら大変だし」


 ジェンナはうなずいた。


「でも、この道から外れたところを走っていたら通り過ぎる可能性もありますね」

「それは……大丈夫。近づけばどこを移動しているかわかるから」

「こっちは空から丸見えになりますね。確かにこの森まで行き出口で待つのがよさそうです」

「では出発しましょう」


 交代したジェンナが車を始動すると、ゆっくりと進み始めた。町を抜けたところで速度を上げてひたすら走る。

 遠くに山々が連なっており、その間に街道は延びていた。たまにすれ違う車のほとんどは列をなして走る大型輸送車だった。どれもものすごい勢いで走り去っていく。




 次の森が近づきほどなく中に入りどんどん進む。だんだん薄暗くなってきた。

 しばらく走ったところでまた明るくなる。視線を上げれば、まばらな木々も低く空が見える。

 日が傾く前のほうが目立たないし、ちょうどいい具合に少し先が空き地になっている。


「あそこにしましょう」


 車が止まると外に出て空をぐるりと確認する。感知を目一杯広げたが何も()えない。


「大丈夫よ。誰もいないわ」


 一緒に降りてきたマリアンはひとつうなずくと後ろに向かった。すぐにジェンナも現れてカレンの隣に立つ。

 突然、(うな)るような音とともに車の側面に出現した多数の支柱が下がってくる。地面にめり込むのが見える。連結部を軽やかに渡って隣の車に駆け込んだと思ったら、そちらの車体からも支柱が伸びた。

 すぐにマリアンが顔を出した。


「固定完了です」


 また、前の車に移動した彼女はいくつか操作した。


「展開します」

「真上よ。木に当てないように」


 天井が開き、雷撃砲がせり上がる。続いて先端がギューンという音とともに動いて直立する。

 いつの間にかダレンがそばで眺めていた。


「結構長いな……」


 こちらに目を向けたマリアンが静かに告げる。


「単射、いきます」


 想像していたより小さな音だった。空気を引き裂くパリーンという音とともに短い光が真っ直ぐに上った。続いて生暖かい風を感じる。

 から撃ちで威力のほどはまったく不明だが、とにかく撃てることはわかった。




 気づくとダレンがマリアンの隣で話しかけていた。


「今のが最小か?」

「はい、そうです。ここに目盛りがあります。それから、こっちで単射、連射、連続を切り替えられます」


 いくつも並ぶハンドルを指さした。


「これを使って目標を狙うのですが、コツをつかむのに時間がかかりそうです」

「空艇を落とせると思うか?」

「どうでしょう。動きはそれなりに速いですけど、高速で移動するものをちゃんと追いかけられるか……やってみないとわかりません。それに当たったとしても防御を貫けるのか……」

「そうか」


 ダレンは振り返って後ろの車両を見た。


庇車(ひしゃ)穿車(せんしゃ)は独立しているのか?」

「えっ?」

「防御と攻撃は同時にできるのかという意味だ」

「はい、もちろんです。でも、動力は共通なので、こちらを連続にすれば防御は弱くなるかもしれません。庇車のほうも一緒に動かしてみますか?」

「ああ、たのむ」




 いつの間にかダレンが試射の指図をしていた。

 何も知らないわたしよりよっぽど詳しいらしい。もしかしてこれを見たことがあるのかしら。ちょっぴり悔しいけれど、ここはふたりに任せるべきなのは理解している。


 庇車の屋根も開きいくつかの投射板がせり上がった。

 じっと見つめるジェンナの肩を叩いて注意を引く。


「明るいうちに着きそう?」

「はい。思っていたより走りやすいですから、森の中も。道がきちんと整備されています」

「そうね。国境越えのときは(ひど)かったものね」


 気づけば前方に防御フィールドが展開されていた。


「思ったより広いな。このままもう一度撃ってみてくれ」

「連射します」


 何度か続けて光が立ち上り、巻き上がった風で服の裾があおられた。

 ダレンとマリアンの間で何か話されたあと、今度は連続動作が行われた。


 試射が終わるとふたりそろって後ろに移動し、投射板の可動範囲を確認し始めた。

 投射板はそれぞれ独立して動かせるようだった。前線で見た巨大な庇車のような威力を望むべくもないが、これですばやく動き回る空艇の攻撃をかわせるのだろうか。


 カレンはジェンナと並んでただ見守るだけだった。

 試験が終わったあとは、マリアンだけでなくダレンも満足した顔つきになっていた。

 とにかく、いざという時に対抗できるのはわかった。それでもこれの出番が来ないのを祈っている。


「カレンさま、走行中に充填(じゅうてん)します。まだ日があるので少しは補充できると思います」

「わかったわ。お願い」


 全員が乗り込むと再び前進する。すぐに両側の木々が高くなりしだいに薄暗くなってくる。しばらく前からほかの車と一度もすれ違わない。



***



「カレンさま、着きました」


 耳元で声がしてパッと目をあける。寝てしまったらしい。

 すでに車は停止していた。見回せば少し離れたところに道路が見え、ここがやや開けた空き地であることがわかる。


 立ち上がって眺めればかなり先に森の切れ目がある。

 前方の木々の間から空も見える。まだ日は残っていた。


「意外に早く着いたわね」


 すぐに感知の手を伸ばす。はっきりはしないがかなり遠くで集団が移動している。


「向こうから来るわ」

「どちらでしょう?」

「距離があり過ぎてもう少し近づかないとわからない」

「ここで待ちますか?」


 早足で歩くダレンを指さす。


「わたしたちも行きましょう」


 ジェンナとマリアンに続いてカレンも降りた。

 どうやら遮へいは張られていないようだ。先ほどより強くなってきたにもかかわらず、それほど大勢の人は感じなかった。胸騒ぎがしてくる。


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