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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第2部 第3章

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261 脱出と告白

 なかなかメイジーは戻ってこなかった。

 エメラインの様子を見て、時々力を使いながらひたすら待つ。

 無理に動いたために残された力を使い果たしたのか、また具合が悪くなってきた。わたしのやっている方法ではさらなる悪化を食い止めることもできない。


 何かあったのではないかと心配になったころ、ようやくメイジーが帰ってきた。

 持っていた服を床に置いて言う。


「大変なことが起きている」

「えっ?」

「戦闘が始まっている」

「戦闘って、どこで?」

「ここよ、この建物の中」

「どういうこと?」

「わからない。聞こえてきた話からすると、王と王女が争っているとか」

「何ですって? どういうことよ?」

「あたしもどうなっているのか知りたいよ。王女派のカイルが、帰ってきた国王一行を襲撃したらしい。ちなみにカレンは王女派? それとも国王派?」

「ええっ? 何をふざけたことを言っているの、イジー。それに、どうしてそんな……」

「まあ、流れからして王女派だな」




 メイジーの顔を見ているうちに思い出した。


「そういえば、カイルはイサベラの連れ合いになるんだとか言っていた。あの最後に会った時、イサベラはカイルに強制されているようにも見えたのよ。ほとんど作用は感じなかったのだけど。でも、イサベラはケタリよ。カイルごときに支配されるなんてこと、あり得ないんだけど」


 そう言いながら考え込んでいるとメイジーに聞かれた。


「イサベラはケタリになったの?」

「ええ」


 上の空で答えた。どうしてイサベラとディランが争うわけ?


「お母さんがイサベラを力覚した……」

「そういうことになっちゃうわね。全然覚えてないのだけれど」

「ああ、わかった。それよ」


 思わずメイジーを見つめる。


「えっ?」

「イリマーンではケタリが王の座を継ぐ。少なくともレイチェル王のころまでは。つまり、イサベラがケタリになったのなら、すなわち王たる資格があるのよ」




「そんな……。わたしのやったことで……。エムもそのせいで……」


 あまりの衝撃に気を失いそうになる。


「カレン、しっかりして。国王がやられたという声も聞こえた。だから……」

「イサベラに限って、父親を襲うなんて絶対にあり得ないわ」

「うん、あたしもそれには賛成。イサベラはとってもいい子だから……」

「それじゃあ……」

「うん、きっとそのカイルってやつに何かされたのよ」

「何を?」

「わからない。カレンが言うように強制じゃないとすると、あとは……薬かな」


 薬……。そうだろうか? あれは薬というより強制作用のような感じだったけれど。それに、薬といえば、サイラスがわたしにした方法だ。もしかして、この一件はすべてサイラスが裏で画策した結果なのだろうか。

 サイラスがここに現れてからだ、こんなことになったのは……。


「カレン、エムに服を着せるのを手伝って」

「あ、はい」

「失神したままでよかったよ……」


 できるだけそっと着せたつもりだが、目が覚めていたら耐えられない激痛に違いない。


「カレンのだけど、これしかなかった」

「何でもいいわ。ここから出られさえすれば……」


 渡されただぶだぶの服を着込む。

 とにかく急がなければ。



***



「ここはどこ?」


 エメラインを背負ったメイジーの声はしゃがれていた。


「二階で北の回廊の外れよ」


 館の中の配置を思い出そうとするが、このあたりに来た記憶はなく見当もつかない。


「一階は通れそうもないから、地下にまで降りられる階段を見つけて、まっすぐ通用門に行くしかない」


 ゆっくりと廊下を進み階段を発見する。

 下から喧噪(けんそう)が聞こえるが、かまわず階段を下りる。地下にたどり着いたところで、メイジーが大きく息をついた。あたりを見回した彼女はしばらく考えるそぶりを見せた。


「たぶんこっち」


 メイジーの呼吸がますます荒くなってきた。


「少し休んだほうが……」

「大丈夫。この建物からさっさと出るのが先」


 曲がり角から一歩足を出したところで、いきなりメイジーが後ずさりしてきて押し戻された。




 メイジーの耳元でささやく。


「どうしたの? この先に作用者はいないわ。あなたなら大丈夫よ」


 こちらを向いたメイジーが首を横に振った。


「ここは通れない。人が多すぎる。あたしでも全員を一瞬で支配するのは無理」

「じゃあ、どうするの?」


 その時、先ほど降りてきた階段のほうに人の気配を感じた。


「後ろから誰か来る」


 メイジーは周りを見回した。進むか戻るか、それ以外の選択肢はない。


「どんなやつ?」

「えーと、作用は感じないけど……」

「えっ? なら、どうしてわかる……」

「あら、これはたぶんディランだわ」

「ディラン……王?」

「ええ」

「まだ、生きていたのか」

「戻りましょう。彼なら助けてくれるかも」


 メイジーは大きなため息を吐いた。


「ここにきて国王派に(くら)替えか……。でも選択の余地はなさそうだな」




 ゆっくりと引き返し、階段の下でディランと対面する。

 ディランはさっと手を上げたがすぐに降ろした。


「……カレン」

「はい」

「そうか、ああ、そういうことか……」


 ディランの様子がおかしい。すばやく近寄って見れば怪我(けが)をしている。


「大丈夫ですか?」

「何ともないと言いたいところだが、どうかな。だいぶやられた」

「こんな場所でお目にかかるとは。どこに行くつもりだったのですか?」


 ディランは口を開きかけたところで、後ろにいたメイジーに目を留めた。


「やあ、エスタメイジー」

「ディランさま……イジーです」

「そうだったな。ぼんやりしていた。君が当主の座を追われて以来その(あざな)は禁句だった。すまん」

「いえ。お体は?」

「は、は、まだ死ぬわけにはいかないからな。今はまだ」


 ディランはひとりだった。ほかに人の気配はない。


「ほかの人たちは?」

「ああ、ブランとエイデンもやられたが、ほかの者たちに連れられ何とか脱出した。無事だといいが……。あいつらも妹と戦うなど本望ではなかっただろうに……」

「では、あなたは……」

「狙いはわしだ。というか王の地位だ……。アイゼアを手中に収めればもう手に入れたも同然だ。さあ、ついてきなさい、ふたりとも。外に出たいのだろう?」

「はい」


 ディランの後ろを歩いていく。

 廊下は行き止まりになっていた。ディランは壁を探っていたが、突然、目の前に扉が出現する。押して開くと、ほかの人も続いた。

 扉の先はほとんど灯りがなく薄暗い通路だけが見えていた。


「この先に小さな出口がある。でも、外に出るのは夜になってからのほうがいい。明るいとここは通用門から丸見えになる。だから日が沈むまで、そこで休むことにしよう」


 ディランは扉の近くの部屋を指さした。



***



 相変わらずエメラインの体はとても熱い。苦しそうな短い息を繰り返している。


「イジー、水があるといいのだけど。エムに飲ませたいの」

「戻って探してくる」


 壁際に腰を降ろしだらりとしているディランのそばに行く。


「傷を見せてください」

「いや、いい」


 いきなりディランは引きつるような笑いを漏らした。

 どうしてしまったの?


「カイルめ、余計なことをしおって」

「どういう意味ですか?」

「わしはケタリではない。それに、元はといえば、前の国王と王子の死で急きょ王になった身だ。イサベラがケタリの種を持つと知ったときに決めたことがある。あの子がケタリになったら、わしはすぐに彼女を王につけると。だから、こんな争いを起こす必要はなかったんだ。まったく……」

「では、カイルが……」

「それはわからん。あいつだけでこんなことができるものか。それに、イサベラが許すはずがない。イサベラはカイルに操られているようにも見えたが、今ひとつはっきりしない。どうして、あの()がカイルの言いなりになっているのか。わしらの強制力なんぞ問題にならないはずだ……」

「何か別の方法があるのでしょうか?」

「たぶんな。ほかの手段か、あるいは、別のやつの仕業か」




「わたしはまともな手当てはできませんけど、あの子から作用を引き出して少し手助けするくらいは可能です」


 閉じていた目をあけたディランは言った。


「変わらないな、ケイト。いや、カレンだったな。あの時もそうやって助けてくれた……」


 こちらを見る目は心なしか焦点が合っていないように思えた。


「わしは運命など信じなかったが、こんな場所で再会できたのはやはり偶然じゃないな。君に話さなければならないことが残っているからだろう」


 急にディランの目がしっかりとしてきた。


「聞いてもらえるか?」

「はい」

「……あの日、グレースとわしはウルブ6に滞在していた。わしの友人アレンも一緒だった」


 ディランの声は時々聞き取りにくくなった。


「そこでかの主家から招待されて、晩食のもてなしを受けた。あんなご馳走は初めてだった。酒も振る舞われ楽しい思いをしたのだが、最後の時間、あの最中に突然気分が悪くなり席を離れた。そこまでの記憶はあるが、そのあとどうなったのかまるで覚えていない……」




 ディランは手を伸ばした。カレンがその手を取った瞬間、ちょっとした衝撃を感じた。

 目の前の人とつながったことがある……。

 かすかに(うな)るような音がだんだん大きくなる。これは……この前と同じ。記憶の扉が開かれる、夢が目の前に再現される前触れ。

 ディランの声を聞きながらも、頭の中の(うな)りがどんどん大きくなっていった。


「……意識が戻った時には、わしの前に……女の子がいた。君じゃない。もっと小さい……あれはまだ子どもだった。その時は、何が起こっているのかまるでわからなかった……。自分が何をしているかは全部見えるのに、自分の意志では何もできない。拒絶することも自分の意識を失わせることも(かな)わなかった。体が焼かれるように熱く何かしないと爆発しそうだった。自分の意志とは無関係に力を使い、体が勝手に動き、目の前の子の……」


 いつの間にかひとり薄暗がりに立っていた。

 次の瞬間、床が消え失せ下に引っ張られ落ちていく。ディランの声が遠のき何も見えなくなった時には記憶が飛ぶのを感じた。


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