255 やっかいなもの
カレンは話し終わると目の前のふたりの顔色をうかがった。
「お話は飲み込めました」
「やっぱり、ローエンが関わっていたんだね」
したり顔でメイジーがうなずく。
「しかし、こっそり入るといっても、表門からがだめだとすると、あとは下働き用の通用門しかないな」
「そうだな。でもそれには……」
「うん、あたしが一緒に行くよ。ちょいと手を……」
「あそこでも感知者による点検があるぞ」
「大丈夫。何とかなるよ、あたしの力を持ってすれば」
「ああ、確かにそれしかないな」
「それで、入るのはカレンだけ? その捜索というのはカレンだけでは心許ない気がするけど」
実によくわかっていらっしゃること。
残りの三人の声が同時に聞こえ、体がピクッとする。
「もちろん一緒に行きます」
「ああ、だめよ。危険すぎる。相手は強制者なのよ」
「でも、カレンさまも」
「カイルくらい平気よ、わたしはね」
あのサイラスが相手だと不安だけれど……。
「カレン、わたしは一緒に行きますよ。わたしはあなたの衛事ですから」
「あたしは側事ですからご同行……」
「絶対にだめ。少なくともジンとマリンはここで待っていてちょうだい」
それから決意が固そうなエメラインを見てため息をつく。
「それじゃあ、エムにはお願いするわ。でも、どんなことになるか誰にもわからないわ。もし……」
「何を言っているのですか、カレン。わたしはあなたの……信頼に応えたいのです」
「……わかりました」
「よしと、それじゃあ、下働きの服を着て、あたしの力で通用門をすり抜ける。そこからは、まあ出たとこ勝負だね」
「ねえ、イジー、あなた、とても楽しそうね」
「もちろん。エムと一緒に仕事ができるなんてまたとない機会だからね。姉妹になり損ねた仲だし」
チャックが目をぐるりと回して首を振った。
「いいこと、イジー、エム。もしも、何か悪い状況になったらすぐに逃げること。わかった? これだけは約束して。絶対よ」
「はい」
キラキラした瞳を見せるふたりを前にすれば、嫌でも不安が募る。やめたほうがいいかしら。しかし、ノアのためにはあれを取り返さないと。
まだ不満そうな顔のジェンナを見る。
「ジンとマリンにはあの……積み荷のほうを何とかしてもらいたいの。たぶん、チャックが協力してくれると思うのだけど……」
そう言いながらチャックに目を向けると、肩をすくめるのが見えた。
「積み荷? ローエンから何か運んできたんですか?」
「えーと、逃げるときに使った車に……兵器らしきものが積まれていて……」
「何だと!?」
「サイラスが探しているに違いないわ。あれが発見されるとここに来たのがばれてしまう。その前に……」
「それの……積み荷の大きさは?」
エメラインが代わりに答えた。
「三連結車の全部を占拠しています」
メイジーからあきれたような声が聞こえた。
「あんたたち、三連結でトランからここまで来たの? どうして、もっと目立たない小さな車を選ばないのよ」
「途中で変えようかと思ったのですが、エムが、インペカールのものかもしれないと言うので……」
「インペカールだと!?」
怒鳴ったきり黙り込んだチャックを横目で見ながらメイジーがため息をついた。
「知ってはいたけど、あんたたち全員ちょっといかれてるね」
「……インペカールの兵器がどうしてトランにあるのかが知りたいだけですから」
エメラインが言い訳すると、チャックは彼女をじっと見てかぶりを振った。
「わかった、わかった。エムの立場ならそうだろうな」
チャックは手を振ったあと黙り込んだ。
以前にシャーリンから聞かされたことを思い出した。
エメラインの参謀部における本職が情報専任であることを。あれを発見したときは、きっと居ても立っても居られなかったに違いない。
平静を装っているようにも見える彼女の顔色をそっとうかがう。本当ならあれを……。
突然チャックの口調が変わった。
「それで、そのしろものは今どこにあるんだい?」
「えーと、この前にも行った操車場です」
「ああ、そこの港のすぐそばだな」
チャックはすくっと立ち上がった。
「そいつは早いとこ人目に触れないところに移動させたほうがよさそうだ。これから、うちの者に連絡して人を集めよう」
「今からですか?」
「そうだ。夜の間に、うちの大型輸送艇にでも積んでしまえば、しばらくはごまかせるだろう」
「あれを船にですか?」
「ああ、それしかないだろう。地上にさらしておいたらすぐに発見される。すまんが、そこまで一緒に来てくれないか、エム」
「はい、おじさま」
「あたしたちも一緒に行きます」
ジェンナとマリアンが宣言した。
「少し待っていてくれ。まず連絡を取るから」
そう言い残してチャックは部屋を出ていった。
「ねえ、エム、あなたもここに残ってあれを調査したほうがいいのではないかしら」
驚いたようにエメラインがこちらを見た。
「カレン、わたしの本務はロイスの衛事です。それ以外は、あれのことも含めて、今はどうでもいいのです」
予想外の強い口調にドキッとする。
「……はい、でしゃばったことを言いました。ごめんなさい」
そう口にしたとたんに、エメラインの慌てふためいた声が聞こえて戸惑う。
「あ、あの、そんなつもりではなかったんです。すみません、せっかく気にかけてくださったのに、ついムキになって……」
見れば一転して、彼女の目は陰り沈んだ顔つきになっている。
「いいえ、エムが謝る必要はこれっぽっちもない。あなたのお仕事の大変さを理解していなかったわたしが悪いの。あなたの言ったことが正しいわ」
ジェンナが遠慮深げに口を出した。
「差し出がましいことを言いますが、あたしたちで少し調べましょうか?」
エメラインの顔がぱっと明るくなった。
「ええ、ぜひお願いします。カレンにはあんなふうに言ったけど、本当はものすごく気になっているんです。わたしって、とても……ずるいですよね、本当に……」
「とんでもないです。あなたは自分に正直なだけ。あたしはそういうの好きですから。では、調査のほうはおまかせください。ここに、ああいった機械をいじりたくてウズウズしているのがいますから」
ジェンナは隣のマリアンの頭に手を載せぐりぐりと動かした。
なぜか、マリアンは気持ちよさそうに片目を閉じている。ジェンナが手を離すと、マリアンはエメラインと目を合わせうなずいた。そのあと三人そろってこちらを向くと柔らかな笑みを見せた。
この三人、姉妹のよう。とてもすてきな関係だわ。
ずっと静かに見ていたメイジーがやおら口を開いた。
「すごくうらやましい……。思ったことをまっすぐに言えるのが。そうやって素直にわかり合えるところが。あたしは……みんなに惚れ込んじゃった」
エメラインが感慨深げな声を出した。
「イジーはとても……はっきり言いますね」
「いまごろ気がついた?」
ああ、四人かしら。ひょっとして、この人たちが……。
扉の開く音がしてチャックが顔を見せた。
「それじゃあ、行こうか」
立ち上がるメイジーに続いて三人がさっと腰を上げた。
「わたしは……行かないほうがいいわね」
ジェンナからあきれたような眼差しを向けられる。
「当然です。その前にまともに歩けるようにならないと」
「はい。みんなが出かけている間にひとりで練習します。エムの足手まといになるのは困るわ」




