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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第2部 第3章

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253 見つけたもの

 車内にはほの暗い(あか)りが(とも)っていて、亡霊のような顔のマリアンが待っていた。

 その前には何の用途かわからない制御盤のようなものがあった。てっきり物資が積まれていると思っていたが違ったようだ。


「それで、これは何なの?」


 エメラインは制御盤の向こう側を指さした。目が慣れてくるにつれて奥に収納されている装置が見えてきた。


「あれは……」

庇車(ひしゃ)をご存じですよね?」


 首を横に振る。庇車が何かは知っているが実際に中に入って見たことはない。


「あれは庇車の投射板と同じようなものです。すごく小さいですが。たぶん天井が開くようになっていて、この全体がせりあがるんです」


 エメラインが太い台座を指さした。

 投射板……。つまり、これは庇車と同じように防御フィールドを発生する装置。そうだとすると……。

 振り返って後ろに連結されている車のほうを見た。たくさんのケーブルで隣の車両と接続されているのが見える。




「後ろの車両は人員室ではないです」

「えっ? でも、庇車なら……」

「最初に調べました。動力車です」

「でも、それではどうやって作用を……」

「カレンは、インペカールが開発した、作用者が必要ない防御フィールド車についてご存じですか?」


 カレンは首を横に振った。


「混成軍のすぐ西側に多数配備されたんですが、元はと言えば、その壁が崩壊してウルブ7があんな危険にさらされたんですよ」


 動力車と庇車。そうだとすると……。


「この前にもう一両あるわね」

「ええ、中を通れば前に行けます」


 エメラインが歩き出し、カレンは再びジェンナに抱き上げられて壁づたいを進む。エメラインが前方の扉を開くと、(まぶ)しい光が差し込んできて目を閉じた。

 目が慣れると、先に前の車両へ通じる通路があるのが見えた。エメラインは二、三歩進んで別の扉を引いた。ジェンナも続いて中に入りカレンは滑り降りた。




「これは……何なの?」

「庇車は防御フィールドを発生させるものですが、これにはその投射板がありません。代わりにあるのがこれです。見たところ大型の雷撃砲に似ています」

「まさか……」

「ええ、たぶん、攻撃のためのものかと思います」

「つまり、これは庇車と同じように攻撃力を増幅する設備なの?」

「おそらく。間違いなく兵器です」

「何のために……。だいたいどこがこのような装置を……」

「そうですね、ローエンのトランのところになぜあるのか。このようなものを見るのは初めてです。もちろんオリエノールにはありません」

「わたしたち、これを、トランの領地から持ち出したわけよね」

「そうなります」

「どうしましょう? これで、トランサーをどうにかするつもりだったのかしら。それにしてはこんな場所にあるのは変ね」

「違う用途も考えられます」




「困ったわ。今さら返すわけにもいかないし」

「何をのんきなことを言っているんですか」


 マリアンがつぶやく。


「この砲の長さからして、トランサー用とは思えませんね」


 エメラインが同意するようにうなずいた。


「トランサーならもっと、広範囲の掃討を狙うでしょう。これはどう見ても一点集中型です。おそらく防御フィールドを破るためのものかと。それに、あの可動範囲を考えれば、この砲で垂直方向まで撃てるようになっています」

「垂直って、つまり……」

「はい、空艇を撃ち落とすための兵器かもしれません」

「そんなものがどうしてトランに?」

「見当もつきませんが、きっと取り戻そうと追いかけてくるでしょうね」

「車を乗り換える?」

「わたしたちがこれに乗って逃げたのは、あそこの人たちに見られている。それに、これを見つけてしまった以上、今さら捨てるわけにはいかないです」




 それからは、数時間走るごとにエメラインとマリアンが交替し、少し休憩する時にはジェンナに手伝ってもらいリハビリに励んだ。運動のあとは車内で固くなった足の筋肉をほぐしてもらう。


 ジェンナも交替要員に入ると言ったらしいが、マリアンに半病人扱いされ却下されたらしい。彼女もずっと眠らされていたわけだし。カレンがリハビリで疲れて休んでいる間にさかんに体を動かしていた。


「だいぶよくなってますよ」


 ジェンナには言われたが、ちっとも改善しているように見えない。不満が顔に出たのか彼女が諭すように話す。


「カレンさま、焦ってはだめです。毎日続ければ数日で普通に歩けるようになりますから。これは病気じゃないのだから大丈夫です」

「ええ、わかってはいるのだけれど……みんなに迷惑をかけているのが……」

「何を言っているんですか。これはあたしたちの仕事ですから、カレンさまは何も気にする必要はないのです」

「もう一往復してくるわ」


 そう言い残し、車の出っ張りを伝いながら後ろに向かってゆっくり歩く。




「カレン」


 いきなり聞こえた声にパッと顔を上げれば、目の前にシアが浮かんでいた。

 振り返るとほかの人たちは何か話し込んでいる。


「久しぶりね」

「それはあたしが言う台詞(せりふ)。今までどこにいたの?」

「えーと、夢の中かしら。ずっと、眠らされていて」

「なるほど」

「シャーリンは?」

「所在不明」

「シアにもわからないの?」

「あたしは万能じゃない。遠く離れていれば視えないし、深く眠っていれば感じられない。カレンのときと同じ。でも存在はしている」


 やはり幻精と信人はつながっているのね。


「居場所が判明したら教えてね」

「わかった」




 戻るとエメラインに聞かれる。


「カレン、カムランの館に行ってどうやって入るんですか? そのベッドを探すには中に潜り込む必要がありますよね」


 カレンは左手の符環に触れた。反応するかのようにかすかに光るのが見える。これがあればたぶんあの表門から入れるだろうけれど。そのあとはどうしたらいい? あそこにカイルがいればすぐに伝わってしまう。


 いや、それはだめだわ。こっそり侵入して探さないと。どうすればいいかしら。見られずに入るには……。


「ワン・チェトラに知り合いがいるのだけど……その方にお願いして助けてもらおうかしら」

「もしかして、前回の時も……」

「やはり、ちょっと図々しいわね。何度も……」

「どっちにしても、今のカレンの状態では館に潜入するのもままならないでしょう。まともに歩けないのですから」

「そうね、エムの言うとおりだわ。それじゃあ、その家に行って泊めてもらうことにするわ。あとは……それから考えましょう」



***



 ワン・チェトラの町中に入ると運転しているマリアンに聞かれる。


「その方の家はどこらへんですか?」

「第二川港のそばに広場があってそこからは近いわ」


 グウェンタの館の場所を聞いておいてよかった。

 しばらく進んだのちに車を止めたマリアンは地図を調べた。


「これによれば……あの向こうだけど、連結車でここに乗り入れるのは無理だわ。どこかに置いてそこからは歩くしかないでしょう」

「川港の近くに積み替え場があったわ。前もそこに輸送車を止めたの」

「それはどっち?」


 記憶をまさぐり、周りの景色と比べる。

 エメラインの声が聞こえた。


「地図によれば、ここが積み替え場ですね」

「あっ、あの塔に見覚えがあるわ。えーと、あそこの左側ね」


 マリアンは大きな道から外れないようにゆっくりと車を進めた。

 まもなく、同じような大型輸送車がたくさん止められているだだっ広い場所が見えてくる。似たような連結車が並んでいる間に入って停車する。




 車から降りて見回せば、すぐにはっきりした。


「あそこよ。あの白い建物の裏側だわ」


 そう言う間にジェンナに抱き上げられる。


「何をするの?」

「このほうがすばやく移動できます。なるべく目立たないように急ぎましょう」


 いや、こんなふうに抱いてもらうほうが目立つような気がするけれど。


 カレンが道案内し、前後にエメラインとマリアンが体を寄せて歩き、できるだけ注目を浴びないように頑張った。

 それでもすれ違う人たちがこちらをチラチラと見ているのがわかる。ハルマンの炎の色はいやが上にも注意を引く。三人もいればなおさら。


 何とか白い建物の近くにたどり着いた。急いでささやく。


「そこを曲がって」


 建物の裏に回ると広い道の割には人通りがまばらになりホッとする。

 ジェンナの手から滑り出る。閉じられた大きな門につかまって立ち、目の前の立派な建物を眺める。


 問題は今ここにいるかどうかだわ。

 いつも旅をしているみたいだし。不在だったらどうしよう。

 それは考えていなかった。




「カレン!」


 突然の声に飛び上がる。ゆっくりと振り返った。


「ああ、イジー、よかった。いたのね」


 油断していた。相変わらずメイジーの遮へいは上手だ。


「ご挨拶だね。あたしを探していた?」


 メイジーは明らかに不審の目を向けてきた。別の質問が出る前にすばやく答える。


「そうよ。ああ、突然で悪いけど一晩わたしたちを泊めてくれないかしら」

「そりゃ、大歓迎だけど……」


 そう口にしながらも、こちらを見る目は()らさない。


「あっ、イジー、こちらは、ジェンナ、マリアン、それからエメライン」


 三人の無表情の顔に気づき訂正する。


「つまり、ジン、マリン、エムよ」


 次に三人に向き合って紹介する。


「こちらは……」

「イジーよ。よろしく」


 メイジーはすばやく名乗ると腰に手を当て、再びこちらを見てから何度か首を振った。


「まずは入りなよ。こんなところに突っ立ってないほうがいい」


 そう言いながら周りを見回す。

 通行人がこちらを見ているのに気づく。




「悩み多し母親の顔といったとこだけど、きっとまた訳ありなんでしょ?」

「どうしてわかるの?」


 メイジーはあきれたと言わんばかりの顔をして頭を振った。


「あのね、また、そんなすごい豪華で灯台のように目立つ服を着て、いかにも付き人って感じのお仕着せをまとった二人。もうひとりは見た感じ護衛かな。しかも徒歩で現れたりすれば、誰だっておかしいと思うでしょ。なぜか髪がえらく長くなっているし、そこが変化したのはドレスのせいじゃないよね。それに、それ、今度はどこの皇女になったの?」


 しゃべりまくる彼女が見ているものに気づき慌てて隠すがすでに遅い。


「ねえ、カレン、町をお忍びで歩くなら、まず普段着で、それから符環のような人目に付くものは外さないと……」

「そうね。すっかり忘れていたわ」




 メイジーは大きなため息をついた。


「それよりどこから歩いてきたの? その格好で町中をここまで突っ切ってきたんじゃないでしょうね」

「歩いてはいないわよ」


 一瞬きょとんとしたメイジーは門を両手で押しあけた。

 止める間もなくまたジェンナに抱きかかえられたが、それを見たメイジーは少しだけ眉をひそめた。

 しかし何も言わずに肩をすくめると玄関に向かって歩き出した。


「こんな町中なのにすごいお屋敷だわ」


 マリアンが感心したように見上げる。

 玄関に着く前に家事(かじ)が出てきた。


「サリー、お客さまよ。応接間にお通しして。それからお茶をお願いね」

「かしこまりました、お嬢さま」

「あたしはちょっと用事を済ませたら行くから、お茶でも飲みながら待っていてくれる?」

「ありがとう、イジー」


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