表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第2部 第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

262/358

251 ここには居られない

 マリアンが戻ってきてテーブルの上にたくさんの食べ物を広げた。


(ひど)いものですけど、食料庫にはこんなのしかなかったです。一応温めて付け合わせも用意してはみましたけど。今ひとつね」

「そんなことないわ。これが一年半ぶりの食事だとしたら……ものすごく贅沢(ぜいたく)なご馳走だわ」


 あの服の山、そして食料と水。あれはきっとほかの人たちのものだ。

 わたしはほとんど眠らされていたのだから点滴とか他の手段で生かされてきたのだろう。

 ジェンナが最初の日に戸棚にしまったカレンの巾着を見つけてきた。

 これが無事でよかった。


「毎日何度か少しずつリハビリしましょう。少しは歩けるようにならないと、カムランに行っても何もできないですから」

「はい。ふたりと一緒でよかった。ひとりだったらどうしようもなかった」




 マリアンに渡された甘いけれど硬くて食べにくいお菓子をゆっくり味わっている間に、ずっと引っかかっていたことを思い出した。


「ジン、大変だわ」

「これ以上悪くなりっこありません」

「あのふたり、誰かにわたしが目覚めたことを報告に行こうとしていたの」


 すかさずマリアンが言う。


「でも、いつも午後から夜の始めまでは誰もこの部屋に入りませんでしたよ」

「ねえ、マリン、そんなにずっと見張っていたの?」

「ああ、ちょうどこの部屋の向かいに小さな部屋があるんです。いつもそこに隠れていましたから」


 あきれて口が開きっぱなしになる。そんな近くにずっといたなんて。まったくただの幸運としか思えない。それとも、隠れ(みの)でも持っているのかしら、マリアンは。




 非常食としか思えないお菓子をもう一つ差し出してきたマリアンの手首をつかみ、すばやく探りを入れる。もちろん彼女は作用者ではない。でも、ひょっとして……。


 やにわに反対側の手を伸ばし、怪訝(けげん)の表情でこちらを見ているマリアンの胸に近づける。触れるまでもなくわかった。どうして今まで気づかなかったのかしら。しかし、これは……。


 確かめるために力髄がある場所に手を押し当てると、彼女が驚いたようにピクンと震えるのが手を通して伝わってきた。


「いきなりごめんなさい。……でも、よく聞いて。感知者は普通の人の気配もわかるのよ。見えないところに隠れていてもわかっちゃうの」

「ええっ? そうなんですか?」


 そう言う彼女の頬が赤らんでいる。


「今度から気をつけてね」

「はい、はい。わかりました」


 腕を伸ばしたまま固まっているマリアンの手からお菓子を取り上げた。

 もぐもぐと口を動かしながら考える。ジェンナと同じような力髄が視えた。しかし、彼女はオベイシャではない。……作用者でもない……隠れ蓑……精分……遮断……。


 ひょっとすると、マリアンは精分を制御できるのかしら。だから感知にも……。ということは、メデイシャ……なの?




 気づくとジェンナがしゃべっていた。


「……つまり、カレンさまが目覚めるのを待っているやつがいるのね。あいつら?」

「思うんだけど、第五作用をわたしにかけ、自分にもかけ、たぶんわたしの世話をしていた人にも、そして、子どもたちにも使ったわけでしょ。いくらサイラスの力が絶大でも限度があるわ。力を使用するたびに大量の食事と長い休息が必要なはずよ。きっと、わたしが目覚めるまでは寝ているのかも」

「とにかく、急いでここを出ましょう。まずは外服に着替えないと……」


 マリアンはさっと立ち上がり戸棚を開いた。


「……持ってきたかばんがないです」

「なんで? そこにしまったと思うけど」


 ジェンナはほかの部屋を確認に行ったがすぐに戻ってきた。


「どこにも見当たらない」

「姫さまの服ならここにありますけど」

「しかたないわ。それで我慢する。それに、イオナの服をこんなところに置いていくわけにもいかないし」

「マリン、あたしは自分の服を部屋まで取りに行くから、カレンさまのほうをお願い」


 マリアンはベッドの上にドレスを広げ、肌衣から詰め物を取り外した。

 ひとりで立っていられないので、ベッドに座ったまま着替えさせてもらう。

 おなか周りを押さえて口にする。


「服が大きくなったみたい」

「姫さまはもともとお体が細いのに、さらにお痩せになりましたから……あちこちが」


 見下ろして思わず苦笑を漏らす。


「でも、上品でとてもすてきです」


 マリアンが慌てたように付け加えた。


「この前は違うことを言っていたような気がするけど」


 右側に目を向けたマリアンは首をぶんぶんと振った。


「いいえ、そんなことありません。カレンさまは華奢(きゃしゃ)ですけど……そこだけは以前よりもしっかりとしてらして……今のほうがずっと姫さまらしいです」


 それは違う理由だと思うわ。



***



「マリン、車寄せの場所はわかる?」

「はい。ちゃんと調べてあります」


 いつの間に、と考えていると、マリアンはこちらを向いていたずらっぽい笑いを浮かべる。


「ずっとひとりで暇でしたから」

「あたしはカレンさまを連れていくから、マリンはそのかばんを持って」


 ジェンナは扉を開き様子をうかがったあと前進の合図をした。

 マリアンは食料と水が詰まったかばんを背負い、カレンを抱きかかえたジェンナが続く。


 静かに階段を下り、玄関ホールとは反対方向に向かう。

 離れた場所にサイラスがいるのを感じた。まだ眠っている。いま行動を起こしたのは間違っていなかった。ようやく運が向いてきたかしら……。


 途中で曲がると大きな扉にたどり着いた。いったん降ろしてもらう。

 扉を少しずらして(のぞ)いたジェンナからポツリと声が漏れた。


「車がない」

「えっ?」


 マリアンも隙間に目をしばらく当てていた。


「向こうに輸送車があります」




 もう一度(のぞ)いたジェンナは小声を出した。


「あれ、三連結よ。あんな長くて巨大な輸送車を動かせる?」

「大丈夫です。逆にあれならいつでも起動できるようになっているはず。動き出すのに時間がかかるのが難点ですけど……」

「それは何とかする。問題は反対側にある詰め所ね。きっとあそこには誰かいる」

「ねえ、ジン、大勢いる。十人……いいえ、もっと多いわ」


 ジェンナはうなずくと、マリアンの持っていたかばんを引き寄せた。中を探って銃を取り出し、ひとつをマリアンに渡す。もうひとつを少し見てからかばんに戻した。


「ジン、それ、わたしに貸して」


 こちらを振り向いたジェンナの顔にかすかな驚きが見えた。手を伸ばして受け取った銃を調べ裏側のつまみを回して変更する。

 ジェンナはこくんとうなずくと、再びカレンを抱きかかえた。


「マリン、先頭まで一気に走るよ。何があっても絶対に立ち止まらないように。いい?」

「はい」




 かばんを背負ったマリアンが扉を開くなりジェンナが走り出した。たちまち彼女の息が荒くなる。


 カレンは銃を持ち上げ詰め所のほうに向ける。

 体が激しく揺れて狙いが定まらないが、拡散なら効果は弱くても誰かには当たるはず。

 時間さえ稼げれば十分。

 追い抜いていったマリアンが銃を手にした腕を伸ばすのが見えた。


 すぐに人がわらわらと出てくる。

 前を走るマリアンが振り向いて何か言ったがかまわず何度も銃を撃つ。

 輸送車までもう少しというところで、彼女の叫び声が聞こえた。


 慌てて頭をのけぞらせると、すぐそばに銃を前方に向けた男が見えた。どこから現れたの、この人。

 一度転んだマリアンはパッと立ち上がるとこちらに走ってきた。


 次の瞬間、体当たりしてきた男に弾き飛ばされて地面にたたきつけられる。急いで体を回して何とか起き上がる。

 巾着は無事だったが、銃をなくした。

 あたりを見回すが発見できない。どこかに飛んでいったに違いない。


 顔を上げると向こうでジェンナと男がにらみ合うのが見えた。

 詰め所から走ってくる人も視界の隅に入った。まだいたのか……。もう一度周囲を探す。


「マリン、先に行って!」


 そばまで来ていたマリアンは背負っていたかばんを投げ捨てた。

 すぐに体がすくい上げられる。後ろに目を向ければ、男がジェンナにつかみかかり押し倒すのが見える。


「ジン!」

「あねさまなら大丈夫です」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ