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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第2部 第3章

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244 これから何をするの?

 カレンは部屋の中をぐるりと見回した。

 すべてが元どおりに片付けられていて、ここで襲われた形跡など微塵(みじん)もない。


「早めの晩食にしますね」

「ええ、お願い」

「でも、その前に」


 そう言いながらジェンナは浴室のほうに目を向けた。


「あっ、今日はひとりで湯浴みしますからね」

「はい、それはかまいませんが、その前にお体の具合を拝見させてもらいます」

「えっ、何のこと?」


 まっすぐに指を突きつけられた。


「そこです。怪我(けが)をされたのですか?」

「あら、気がついた?」

「カレンさまの仕草を見れば見当がつきます。あたしの目は節穴じゃありませんから」


 ジェンナの手が首元に伸びてきた。

 ため息をつく。


「はい……」


 彼女は医療の心得があるから、ここで確かめてもらうのも悪くはない。




 無言で患部を調べたジェンナが顔を上げた。


「医術者は何と?」

「ひと月くらいでもとに戻ると言われたの。数日したらもう一度診てもらうことになっていたけど、ここまで来ちゃったからもう無理ね」

「腫れは(ひど)くなってはいないようだし、熱も持っていない。こういった場合、色が濃くなるのは当然なのでそれも問題ないです。トランから戻ったら、アデルの医術者に診てもらいましょう。だいぶ痛みがあるでしょう?」

「全然」


 首を振ったものの、ジェンナの眉がぐいっと上がったのを見て訂正する。


「そんなに痛くはないの。ぶつかったり強く触ったりしなければ大丈夫。夜もちゃんと眠れるし、だから問題ないわ」

「どうしてこうなったのかはお聞きしませんけど、自分のお体にもう少し気を遣ってください」


 ほとんど消えかかっているたくさんの(あざ)を指さして言う。


「お出かけするたびに傷をこしらえては困ります」

「そんなことないです。これは……」


 ジェンナはパッと手を上げて制した。


「はい。では、浴室の操作方法を説明しますね」


 彼女に続いて浴室に入った。


「中から操作するには、ここを押して開くと操作盤が現れます……」


 一とおり使い方を覚えたあと、ひとりでのんびりと湯浴みを楽しむ。

 やはりこれはすごいわ。もちろん浴槽は捨てがたいけれどこっちもあったらいいわね。

 レタニカンにしようか、それともロイスに取り入れてもらおうか。……いっそのこと両方に作ってしまおうかしら。


 長々と過ごしてから浴室を出ると、タオルを持ったジェンナが待ち構えていた。

 手は機敏に動かしながらも、カレンがいなくなってからのことをとうとうと話すジェンナに耳を傾ける。

 身支度が終わると晩食をいただき早々にベッドに潜り込んだ。



***



 目覚めるとすでに朝食(あさしょく)が用意されていた。

 少し寝坊してしまったようだ。急いで食卓につき食べ始める。


 まもなくジェンナが現れたが、いつもと違う服装だった。

 黒が入った橙の、艶のあるスカートはふわりとして長め。細腰に切り替えがあるぴったりとした上服は炎のような緋色。

 驚いて眺めているとやや心許(こころもと)ない声がした。


「どうですか? 初めてなんです、この服を着られるのは」


 くるっと回って後ろも見せてくれた。背中も明るく燃えさかる燎火の色。

 上半身と同じような色合いの髪には、しっとりとした光沢がある黒のスタブがくるくると巻かれていた。それがまた上品で絶妙なコントラストを醸し出していた。


 向き直ったジェンナは、背筋をピンと伸ばして両手を体の前で重ねると、かすかな微笑を浮かべてこちらを見た。


「とってもすてきよ。あなたにぴったりだわ」


 そう言うと、笑顔がはじけ(きら)めく瞳からは感激が伝わってきた。


「お出かけするの?」

「もちろん、カレンさまの側事(そくじ)としてトランまでご一緒させていただきます」

「ああ、なるほど」


 つまり、右も左もわからないわたしの付き添いね。




「さて、今日のご予定を説明しますね。まず、本棟の衣装部屋で着替えをされて、それから、主家(しゅけ)の館まで行きます。そこで姉妹結びの儀を行なったあとに、川港まで飛んで川艇に乗り換えローエンに向かうことになります」

「ちょっと待って。どうしてイオナと姉妹の契りを交わすのに主家のところに行くの? ここでするのじゃないの?」

「カレンさまがアデルの系譜に連なることを広く知らしめるため、主家で執り行われるそうです」

「あ、そう。でもどうして本棟で着替えが必要なの? そこにちゃんとした外服があるじゃないの。さっき確認したわ」

「主家が行う公の儀式だからです。それに、ローエンに赴くには正装が相応(ふさわ)しいとのことです」




「その儀式ってまさかほかの人たちの前でするんじゃないでしょうね? 嫌な予感がしてきたわ」

「おそらく、お客さまがいらっしゃるのではないかと」

「やっぱり。頭が痛くなってきた……。それで、その姉妹結びってどういうものなの?」

「作用者が行う姉妹結びは、いわば同性の交結(こうけつ)のことですけど、融合する場合もあるそうです」

「こ、交結? それに融合って何なの?」

「えーと、つまり、作用を交わして互いに結び合い、ふたりの力を溶け合わせるのです」

「はあ、全然わからないわ」

「交結によって、男どうし、女どうしなら兄弟、姉妹の契りになりますし、男女の場合は成子(なるこ)結びのことです。ミランの話だと、作用者はお互いにつながることで、双方の作用が交わって緩やかな結びつきができて、さらに、うまくいけば最終的に融合するんだそうです。ふたりが融合できれば、作用の連携が可能になって、ふたりとも力が強くなるらしいですよ」




 ジェンナはしみじみとした声を出した。


「当然ですけど交結の結果として、両親の力量が子どもに受け継がれるんです。あたしたちもしました。といってもあたしは作用者じゃないので、ミランから一方的にされただけなんですけどね……」


 それって、わたしが同調力を使ったときのようなことだろうか。しかし、ケタリでない人たちの場合は……。


「具体的には何をしたの?」

「えっ? そ、それは……言えません」


 慌てて答えるジェンナの頬が赤らんでいる。

 顔をしかめてみせる。


「いじわるね」


 ジェンナは頭を何度も振った。


「そうじゃありません。カレンさまは姉妹結びをするんです。あたしは、その、姉妹結びはしたことがありませんから……」


 ジェンナは両頬を手のひらでポンポンとたたいた。


「さ、とにかく行きましょう。服の調整が必要なので急いだほうがいいです」


 なおも考え込んでいると、手を引っ張られ部屋の外に連れ出された。


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