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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第2部 第3章

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237 到着を待つ

 ダイアナはずいぶんとシルに気に入られていたようね。

 わたしたちを北の彼方からシルに転移させ、さらにお母さんに託した。それに、この世で最も貴重なピュアメデュラムを分け与えた。おかげで気になるものを手に入れることができた。


 いや、それは違う。シルは無償で奉仕したりはしない。

 これは、シルが力を取り戻すために行なっていることだ。わたしたちが救い出されたのも、今こうしていろいろな活動ができるのも。


 シルはわたしたちの行動に積極的に関わりはしない。それでも、自分たちの目的のためなら手段を問わないということかしら。


 そうだとしても、わたしは、こうして生かされている事実に感謝したい。

 シルとそこに住まうレイ、幻精たちに。そして、ふたりのお母さん、お父さんにも。もちろん、ケイトにも。


 ページをめくる。




 さて、これでわたしの伝えたいことはすべてです。

 あなたは己の信じる道を進みなさい。わたしたちは常にあなたを想い、いかなる時でもあなたの選択が正しいと確信しています。


 わたしたちがいなくなっても、あなたのザナンが手助けしてくれます。わが友、ディオナも同じです。

 遠慮せずに彼女たちを頼りなさい。最後まであなたを支えてくれるはずです。


 あなたには揺るぎない信念とわたしたちの誰よりも強い力があります。どうか、ひと時の感情に流されないように。それだけを祈っています。


 あなたをいつまでも愛しています。エレイン。




 これですべてだった。

 しばらく、いろいろな考えが渦巻き身動きできずにいた。

 直接、話したかった。面と向かって聞きたいこと、言いたいことがたくさんあった。


 まだ終わりではない。カムランに行って、もう一度あの部屋に入り、そしてどうにかしてケイトとお母さん、お父さんを連れ戻す。絶対に……。



***



 ビクッと震えて目を覚ました。いやに寒い。

 頭を起こしたところで気がつく。どうやら机の上で寝てしまったらしい。

 前の窓からは薄らと漏れる光を感じる。いつの間にか朝が近づいていた。


 ギクシャクと立ち上がり体を伸ばすが、相変わらずボキボキと嫌な音がする。

 傍らのベッドを眺め、ため息をつくとごろんと横になる。毛布を引っ張り上げるとたちまち眠りに落ちた。




 再び目を開くと部屋は日の光に満ちており、そばでミアが見下ろしていた。しゃべる前に彼女の手が動き声がした。


「だいぶ、うなされていたけど」


 夢を見た覚えはない。ケイトが話しかけてきた感じもなかった。


「えっ? わたし、何か言ってました?」


 ミアは首を横に振った。


朝食(あさしょく)、できているけど、ここに持ってこようか?」


 カレンはさっと体を起こした。


「いえ、大丈夫です。今日はみんなが帰ってくるからいろいろ準備しないと……」

「そうか、よし、よし。じゃあ向こうで食べようか」

「はい」



***



 食事をしながらミアが聞いてきた。


「なあ、カレン。ムリンガのみんなを迎えに川港まで行くと言っていただろ? どうやって行くつもりだったんだ?」


 口に入れたばかりのスープをゴクッと飲み込んでしまい少しむせた。


「大丈夫か?」

「あ、はい。……全然考えていませんでした。どうしよう。ここには車はなかったですよね。空艇はあるけれど、わたしたちでは動かせないし……」


 それとも、飛ばせるのだろうか。ひとりで試したことはないけれど、ひょっとするとこの前のように……。


「しょうがない。運動がてら歩いていくか。街で車を借りるとしよう」

「いっそ買っちゃいましょう。ここにも一台くらいないと不便ですし。ああ、もっと早く手に入れておくべきでした」

「とにかく、食事が終わったら出かけてくるよ。大勢が来るとなると食料もかなり心細いしな」

「わたしも行きます」

「歩けるのか?」


 思い切り疑いの目を向けてくれば反論せざるを得ない。


「へっちゃらです。下り道ですから」

「いや、そういう問題じゃないから……」

「初めて来たときは登ってきたんですよ。だから問題ありません」


 まるで理由になっていない。


「……わかった」

「すぐに着替えてきます」




 部屋に戻り戸棚を片っ端からあさり、着られそうな服を探すが見つからない。

 隣のケイトの部屋に行き引き出しの中を調べるが、どれも今ひとつだった。カムランで見た姿を思い出せば当然だった。わたしたち、今でもほとんど同じだし。


 そうだ。ミアはお母さんの服を着ている。急いでエレインの部屋に行き、戸棚をあけて目を走らせる。お母さんはわたしたちより体格がいい。

 あそこでは気がつかなかったと考えながら、少し厚めの作業着ふうの服を引っ張り出した。


 急いで着替えて玄関に向かうと、ふたりはすでに外で待っていた。


「お待たせしました」


 ミアが不思議そうな顔をしてこちらを見た。


「お、おかしいですか?」

「いいや。……それで行くのか?」

「えーと、楽な格好がいいかなと。下までけっこう歩くのだから、動きやすい服装のほうがいいでしょ」




「でも、それ、たぶん作業着だぞ」

「ほら、山を下るんだし、転ぶかもしれないから……」

「留守番をしていたほうがいいんじゃないか?」

「大丈夫ですって」

「そうかい? それじゃあ行くか」

「ちょっと待って。確かめたいことが……」


 そう言いながら扉のほうを向く。

 開閉板を動かし、いつもペンダントを押し当てているところを探った。それから、左手を奥まで入れる。カチッという音とともに扉が開いた。


「ああ、やっぱり……」


 くるっと振り返りミアと目を合わせ場所を空ける。ミアが同じようにやってみると、すんなり開錠された。


「これはいい……」


 ミアはうなずくと扉を閉めた。


「よし。それじゃあ、出発……」

「あーっ、ちょっと待って。誰か来ます」


 いきなりレオンの顔に緊張が走った。


「敵か?」


 彼は手に持っていた荷物を地面に降ろすとかばんの蓋を開いた。

 目を閉じて感知を伸ばすが、すぐに安堵でフーッと息をつく。


「心配ないです。これはイオナです。きっと空艇で先に来たのよ」

「そいつは助かった。これでカレンが坂道でひっくり返って怪我をしなくて済みそうだ……」

「ミア……」


 そうつぶやいたところで、レオンの手に小さな銃が握られていることに気づきギョッとする。どこで見つけたのかしら。




 ほどなく見覚えのある白い空艇が降下してきた。

 船が着地するなり、イオナとクレアが飛び出てきた。


「ああ、カレン、無事だったか」

「はい?」

「いや、シャーリンがね……。まあ、いい。もしかして、出かけるところだった?」

「ええ、実は川港に行こうと思って……。あ、こちらはミアとレオン。わたしの……知り合いです」


 イオナの眉がぐいっと上がるのが見えた。

 そういえば、彼女はミアとメイのことを知っているに違いない。慌てて目を()らすとミアとレオンのほうを向く。このふたりも変な目つきをしていた。


「こ、こちらは、ハルマンの皇女(こうじょ)、アデルのイオナです。そして、あちらがクレア」


 ミアはすばやく正式の挨拶をし、遅れて、残りの三人が言葉を交わした。


「カレンが大変お世話になりました。それに、先日はあなたの空艇を敵船と誤認してしまいました。深くお()びいたします」

「えっ? ああ、あの時、あそこにいた方ですね。こちらこそ皆さまに大変なご迷惑ととても不快な思いをさせてしまいました。謝るのはわたしのほうです」


 クレアが品定めするようにミアとレオンを見ているのが気になるが、とにかくイオナとミアがうまくやっていけそうで安心した。




「そうそう、イオナ。例の医療用ベッドの使い方がわかりました。ノアの時縮をもとに戻せるかもしれません」

「それは本当かい?」


 イオナはカレンの手をさっとつかむと両手で握りしめた。


「ありがとう、カレン。ありがとう。何とお礼を言ったらいいか。わたしは……」

「あの、それはノアが目覚めてからにしてください。まだうまくいくとは……」

「うん、そうだった。川艇は午後に港に着くはず」

「中に入って確認しますか?」

「いや、わたしが聞いてもしょうがない。ノアと一緒に来る医術者たちに直接説明してくれるかい?」

「わかりました。それでは、午後までは時間があるので、ひとつお願いしたいことが……」

「なんだい?」

「港までわたしたちを乗せていってもらえますか? 食料が乏しくて買い出しに行こうとしていたところでして」

「もちろん。それに、ああ、何だな、すまないが医師たちと護衛の者が……」

「大丈夫です、イオナ。部屋はたくさんありますから。ないのは食べ物と飲み物だけでして……」

「よし、それじゃあすぐに行こう。さあ、乗った、乗った。その買い出しだがうちの者にやらせよう」




 あっという間に港に降り立つ。ムリンガはまだ到着していなかった。


「ミア、買い出しをお願いしてもいいですか? わたしは車を買いに行きますので」

「本当に購入するつもりなのかい?」

「もちろんです」

「それなら、あたしが買うよ……」

「そんな。大丈夫です。わたしにも車くらい買えますから」

「……そうか」


 ミアは振り返ってレオンの手をつかんだ。


「ああ、レオン、買い物のほうを頼む。これがリスト。あたしは車の購入に付き合うから。カレンだけだととんでもないものを買わされそうだからな……」

「えっ? それはどういう……」


 そう言いかけたものの、ミアの隣でイオナとクレアが何度もうなずいているのを目にして口ごもる。




 すたすたと歩きだしたミアを見て、慌てて追いかける。

 街のほうに向かいしばらくすると、一軒の店に入った。すぐに買い物の交渉を始めたミアをただ座ったまま眺める。

 車の種類を決めるときだけ会話に参加した。荷物がたくさん積める一番大きい車にしてもらう。


 やはり、ミアがいてくれてよかった。

 まず、車を売っている店を探すのに手間取ったに違いない。たった数回の買い物経験では、とてもミアのまねはできないことも思い知った。

 最終的に当初の約半額で購入した車を動かすのはご機嫌なミアにまかせる。


 隣で新しい車の乗り心地を確かめながら、今後の段取りについて考えた。

 大勢の人がしばらく滞在する。医務室だけでなく全員が寝るための部屋の準備も必要だし、クリスとディードはオリエノールに帰ることになるかもしれない。

 これから忙しくなりそう。


 港に戻るとムリンガがちょうど入ってくるところだった。

 遠くからでもシャーリンが船首に立っているのがわかる。クリスとディードの姿も確認できる。接岸するころには、全員が出てきて手を振っているのが見えた。

 カレンもまた両手を大きく動かした。みんな元気そうで安堵する。


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