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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第2部 第3章

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236 ふたりの母

 姉がユアンの大それた計画に参加すると聞いたときは本当に驚きました。

 さらに、単独、シルまで直訴に行ったと知ってもうびっくりです。姉にそんな行動力があるとは思ってもいませんでした。

 こう言っては何ですが、実行力ならわたしのほうが上だと思い込んでいました。


 つまり、兄の計画は彼女なくしてあり得なかったのです。

 北に向かって出発する前、彼女はわたしの家に現れました。そして、ひとつのお願いをされました。


 もしかすると彼女には予感があったのかもしれません。

 大好きな姉の望みであり、わたしは妹なのですから当然、彼女の願いを受け入れました。

 その時は、姉が帰らぬ人となるなど夢にも思いませんでしたから、本当は渋々だったのです。


 最初からそんな悲観的ではだめだと言いました。

 しかし、彼女の直感は当たっていました。あなたの直感と同じくらい鋭いです。いいえ、あなたの直感が姉譲りなのですね。


 姉の願いは、もし彼女の命が失われそうな時は、娘たちをお願いしたいというものでした。

 彼女の中にまだ誕生したばかりの命があり、「今度は女の子よ」とうれしそうに話し、わたしにも()せてくれました。

 ケタリが宿した子はいずれ双子になるのだとふたりとも知っていました。


 むだとはわかっていても、姉に出かけないように頼みました。

 姉は計画がとても重要なものでこの世界をよりよくするのだと言い、わたしは受け入れざるを得ませんでした。


 そして、わたしは新しい命をお互いのつながりによって守ると誓いました。

 しかしその時は、遥か北に行ってしまう姉の子をどう守るのかについて、まるで理解していなかったのです。

 わたしは本当に無知でした。




 メリデマールから大勢の作用者たちが出発して数日後でした、インペカールの電撃的な侵攻を受けたのは。

 やむなくわたしは家の者たち全員を連れて隣国に脱出しました。


 国都のアダルには幼い子どもたちが残されていたのですが、遠く離れていてどうなったのか確かめようもなかったのです。

 自分の家に居る人たちのことで手一杯でした。

 国を追われ皆の行方がわからないことを北の地にいるはずの姉に知らせる手段もありませんでした。


 脱出は本当に間一髪でした。

 メリデマールの大多数の作用者が国を出ることが知られていたとしか思えません。たぶんそれが事実なのでしょう。


 わたしたちがウルブ3に逃れようやく身を落ち着けたころ、突然ダイアナからの呼びかけを受け取りました。

 もうだめ、という一言だけが何とか聞き取れました。


 あの時の恐怖を今でもはっきりと覚えています。

 遥か遠く離れていて助けに行くことはおろか、姉と交わした誓いをどうやって果たせばいいのかも見当がつかず、ただ身がすくんで思考も止まっていました。


 いったい何が姉の身に起こったのか思い当たりませんでした。

 まさか、北に向かった全員が帰らぬ人となるなど想像もできなかったのです。

 しかし、そのことを知ったのは二年もあとです。


 姉とのつながりが消えてすぐに、ニアのそばに初めて見る幻精が現れました。そして、次に気がついたらシルにいました。

 この時のわたしの記憶はここまでです。




 森からでなくても転移できるのだわ。




 目が覚めたときには、二年が過ぎ去っていて、そして、わたしの中にはあなたたちがいました。




 つまり、時縮作用?




 わたしが眠っている間に看病してくれたのがあなたたちのお父さんです。

 わたしが現実時間に復帰したあと、わたしの中であなたたちが成長できたのは、すべて彼のおかげなのです。


 あなたたちはすでに姉の中でしっかりと根を下ろしていた。

 それをどうやってわたしの中に移動させたのか。シルの使いにしかできない技です。その幻精たちにさえ、二年間という月日が必要だったに違いありません。


 あなたたちはダイアナとユアンの娘ですが、わたしの中で育ったことで間違いなくわたしの力をも強く受け継いでいます。

 あなたたちが産まれるずっと前からつながりを認識していました。だから、あなたたちは疑いなくわたしの娘なのです。


 わたしが目覚めたときに、幻精からとても気がかりなことを言われ、不安を感じたのを今でもはっきりと覚えています。

 ダイアナを帰らぬ人にした元凶があなたにも影響を与えているかもしれないと。


 実際、あなたの記憶は成長とともに、そして力と引き換えに失われていき、わたしたちはあなたに何もしてあげられなかった。

 これは、兄たちが行なった計画に対する報いなのだと何度も後悔しました。


 それでも、ふたりの成長をすぐそばで見届ける機会を与えられたことに感謝しています。あなたたちはもちろん、姉やニアたちにもです。


 あなたたちは、ダイアナとともにあった幻精たち、それにシルによって生かされたのだと今では得心しています。

 シルのことだから姉と何か取り決めがあったのでしょう。




 姉は兄の計画の詳細を話してはくれなかったけれど、兄たちはこの世界の行く末を思って計画を実行したのは間違いない。

 しかし、おそらく何か想定外のことが起きてしまった。あの、紫黒の海の誕生と関係する恐ろしいことが。


 考えてみれば、兄の計画に対してシルの協力が得られたのは、間違いなくその計画をシルが認めたからであり、シルの利益になるのが確かだったから。

 つまり、兄の計画は絶対に実現するだろうとシルは確信していたはずなのです。


 わたしたちは、トランサーの調査を何年も行い、いかなる手段で元の世界に戻すことが可能かをずっと考えてきました。そして、今では、出所を見つけて停止させ、最終的には原初を破壊するのが唯一の解だと信じています。

 どうすればそうできるかは全部表のほうに書き記してあります。


 しかし、これを書きながらも思うことがあります。

 わたしたちには親しい幻精が近くにいるけれど、もちろん彼女たちはシルのために動いています。もしかすると、こうしてわたしたちが方針を決めるその際にもシルの意志が働いているのかもしれないと。


 わたしたちは幻精と深く結びつきすぎています。そう考えながらも、わたしは幻精たちが好きです。だから、彼女たちを、レイを、そしてシルを信頼しています。




 あなたの行方がわからなかった三日間、あのときに実際は何があったのか知りようもありませんが、わたしたちは常にあなたを信じています。

 わたしたちの準備ができる前に、永い眠りにつかなければならなかったのも理由あってのことでしょう。小さいころから、あなたは誰にも負けない強い心と信念を持っていましたから。


 姉とわたしも似たような事態に陥ったのですから、あなたの置かれた状況を理解しているつもりです。

 危急に瀕した際に自分の娘を守るために取った行動なのだと考えています。

 パメラに導かれて見いだした、静かに眠るあなたをここに運んでから、トーマスとともにあなたの考えにできるだけ沿うように努めたつもりです。


 彼が用意した調力(ちょうりき)装具をうまく使えば、途中で引き戻すこともできたでしょう。

 しかし、これほど永く強い作用を自分にかけるのは、あなたの記憶を守るためにも、一度限りに(とど)めたほうがいいのは間違いありません。

 だから、あなたの意志に従い目覚めが訪れるまで待つことに決めました。




 あなたにはダイアナから託された、実際にはわたしが復帰したあとに、ニアから渡されたピュアメデュラムを売って得たディールを用意してあります。

 必要なときには遠慮なくお使いなさい。これはダイアナがあなたのためにシルとの取り決めで獲得したものなのだから。


 あのような結果になってしまったにも関わらず、シルがこのような申し出をしたのには大変驚きました。

 それに、あのとき初めて知りました、シルの地下にもメデュラムの鉱床があるのを。

 レイがそれを()み上げ純化していることが、(いにしえ)から続くシルが有する強い力の源なのだと。


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