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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第2部 第2章

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201 わたしの立場

 痛い足を引きずりながらもカレンは急いだが、最後の瞬間に足がもつれてたたらを踏む。あっと思ったときには、こちらに飛び出ていたイオナに抱きかかえられていた。

 顔を上げるとちょっと苦笑して見せた。


「ありがとう、イオナ」


 しばし息を整える。


「大丈夫かい? カレン。なんかすごく具合が悪そうだけど」

「そんなことありません。少し、足がだるいだけです」

「だるい?」 

「ちょっと、歩きすぎたみたいです」

「歩いた? 川艇で?」

「いや、船に乗るまでが……です」

「まあいい、とにかく発見できてよかった。同じ過ちを二度も犯すなどアデルの名折れだ。本当にすまない」

「そんなことありません。わたしがもっとしっかりしていれば、こんなことにはなりませんでしたから」




「カレンが誘拐されたとジンが大騒ぎしてね。そりゃ大変だったんだよ」


 頭をじっと見られているのに気づいた。

 スタブが子どもっぽいと思っているだろうか? このスタイルはジェンナとあまり変わらないはずだけれど。


「そのスタブ、とても似合っているよ。何というか、さらに若返ったみたいだ」

「そ、そうですか?」


 つまり、幼く見えるということか……。エドナに(だま)された。


「それで、イリマーンのやつら?」

「ええ、気づいたときには部屋の前まで来ていて、すぐに気絶してしまって、次に目覚めたらイリマーンの国都でした」

「よし、話はあと。とにかく船に乗って。このままだとここで倒れてしまいそう」

「すみません」


 いつの間にか現れたクレアに抱き上げられ、空艇の中に運ばれた。

 誰もがわたしを軽々と持ち上げるけれど、それほどわたしは軽いのかしら? それとも、これが普通なの?

 もちろん抵抗はしない。今はもう一歩も歩けないのがわかっていた。おとなしく好意に甘えることにする。




 全員が船に乗り込み席に着くと、すぐに船は上昇を始めた。


「警戒態勢を維持。イリマーンから追っ手の可能性がある」


 そう命令したイオナはカレンの前に座った。


「それで、イリマーンのやつらに連れ去られてワン・チェトラに行ったのね。よく逃げ出せたわね」

「いや、それが、つまり、正確には(とりこ)になったのではないのです」

「えっ? でも、さらっていかれたのでしょう?」

「ええ、そうなのですけど。えーと、つまり……」


 カレンはメイジーからもらった鎖を首元から引っ張って、服の中から指輪を取りだした。

 それを手のひらにのせてイオナのほうに突き出す。ふたつの符環(ふかん)が徐々に青と紫の光を放つ。

 イオナとクレアがそろって息を呑むのが感じられた。


「それは、カムランの符環」


 カレンはこくんとうなずいた。


「つまり、カレンはイリマーンの皇女(こうじょ)になったということ?」

「いえ、皇女ではないんです。えーと、つまり……王女の母親だとか……」


 イオナの眉が思い切り跳ね上がった。


「イサベリータ王女の母? それは……なんだい、イリマーンの王の伴侶にされたということ? さらわれて三日とたってないけど……」

「いや、それが……」


 クレアが声をかけた。


「イオナさま、そう次々とカレンさまを責め立てても何もわかりませんよ。少し落ち着くまで待ったほうがいいかと。やたらに口を挟むから困ってるじゃないですか」


 イオナは前屈みになっていた体を起こすと背中を椅子につけた。


「悪かった。わたしにはまったく理解できていない。順に説明してくれる? 黙って聞くから」




 カレンはしばらく考えを巡らしたあと最初から話すことにした。

 あの日、部屋で襲われたところから、イリマーンで出会ったイサベラという女の子について、彼女に聞かされた仰天するような話の数々。

 それに、国王のディラン、イサベラの兄たち。そして館の奥でひっそりと眠る四人の体と医療設備。


 イサベラの力覚を試みてうまくいかなかったこと。

 セプテントリアの壁が破られ、ディランが全軍を率いて出かけ、イサベラも別の前線に旅立ちカムランを留守にしたこと。

 それで、館を抜け出して町まで行き川艇に乗って国都を出てハルマンに帰ろうとしたこと。




「そうか……。カレンのお姉さんは亡くなったわけではなかった。くそっ、どうして気がつかなかったんだ……。あれは安置所ではなかった……」

「えっ?」

「つまり、ケタリシャが受けた指示は、死したケイトの双子の姉妹を探せというものだったの。国王が何を求めていたのかやっとわかったわ。その妹がこんなに若いとは知るよしもなかったけど……」


 イオナはニヤッとした。

 そうだったのか。


「それにしても、カレンには方々に……家族がいるのね。イリスにロイス、そしてカムラン」


 顔が赤らむのを感じる。


「イオナ、わたしだって、こんなところに自分の……その……家族がいるなんて知りませんでした」

「自分の血を分けた者がいるのはいいことよ、カレン。そう心配する必要はないわ。あなたはイサベリータ王女と会って気に入られたんでしょう?」


 握りしめていた符環をイオナは指さした。


「……はい」




「あのう、カイルはケイトのことを知って、イオナと同じようにわたしを探していたのでしょうか? それで、はるばるオリエノールにまで来て……」

「うーん、最初はわたしもそう思ったけど、よく考えると、カイルのやつはカレンを見てもケタリだとはわからなかった。それは、結局、ケイトを見たことがなかったのじゃないかな。つまり、イリマーンの王はカイルにもそのカムランの館に眠る四人のことは伏せているのじゃないか。もし、知っていたら、オリエノールで鉢合わせしたときに気づいたはずだし。わたしが知ったように。まあ、あの時は一瞬だったが、ウルブの館では面と向かって話をした。あれで気づかないはずはない」

「それなら、カイルはイリマーン国王の命令でわたしを探していたのではないのですよね。それでは、カイルの目的は何だったのでしょう。今でもわたしを探しているはずですよね」

「カイルはケタリを探しているとだけ言っていた。ディランが特定のケタリを求めていたことはわかるけど、それはカイルには明かしてなかっただけかもしれない。最初は、ケタリの(たね)を力覚する方法を探していたのかもしれない……」



***



「もう少し飛ぶとハルマンに入る。ここまで来れば問題ない。今度は警備を厳重にするから」

「ノアのほうはどうですか?」

「ああ、船に移せるように準備している。言ったと思うけどアデルには浅い川を遡れる小さな海艇はないの。だからウルブ1の海港で川艇を借りて移すことになった。そのための手配もしているところよ。二、三日もすれば出発できると思う」


 受け身のままになっていた感知にざわざわとした気配が増えてきた。


「イオナ、向こうに何かありますか?」

「ん? ここはエンファス。あっちにハルマンで最北の川港がある。どうかしたの? 何か察知した?」


 イオナはクレアのほうを向いたが、クレアは首を横に振った。

 その間に何度も確かめたが間違いない。




「イオナ、すみませんがその港の近くに一度降ろしてもらえますか? どうも、あそこにシャーリンが来ているらしいので」

「えっ、シャーリンがここに? どうして?」

「たぶん、わたしを追ってきたのだと思います。ほかにも何人か」

「いやはや、驚いた。カレンの家族はあなたのことを本当に大事に思っているのね。こんなところまで来るなんて。でも、どうやってここがわかったの?」

「それは……たぶん、予想していたのじゃないでしょうか? わたしがイオナと一緒なことを」

「でも、ここは、アデルじゃない……」


 そう言うと、こちらをしばらく見つめていたが、別の質問をしてきた。


「まあ、いいか。それで、どこにいるの?」

「すみません、あちらのほうに向かってもらえますか?」


 しばらくたって、カレンは川港から少し離れた建物を指さした。

 港には大きな桟橋がいくつもあるが、停泊しているのは大型の輸送艇ばかり。てっきりあの船で来たと思ったのだけれど。


「あれは、確かこの町で一番大きい宿だな。しかし、それらしい船が見当たらないな。どうやってここまで来たんだ? まさか、車を使ったんじゃないだろうな」


 イオナは宿の脇に止められている大型の車を指さした。




 空艇は宿から少し離れた空き地に降り立った。

 そのころには、宿から何人かが出てくるのが見えていた。遠目にも、シャーリンのほかに、ペトラとメイ、それにエメラインがいるのがわかる。


 ペトラが来ているとは思わなかった。

 こんな遠くまで出かけて来ていいのだろうか? また国務をほっぽり出して来たのじゃないといいけれど。

 ペトラが来ているならクリスとディードも一緒のはずだけれど感知できる範囲には見当たらない。どうしたのだろう?


 カレンは立ち上がるとあけ放たれた扉に向かった。出口で振り返るが誰も降りる気配はない。

 イオナは首を振った。


「わたしは行かないほうがいいでしょう」


 カレンはうなずいた。

 確かに、イオナとシャーリンがいま顔を合わせるのはまずい。少なくともちゃんと経緯を全部説明したあとのほうがいい。


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