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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第2部 第1章

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184 同じ展開

 シャーリンは目の前のさほど大きくない木を見上げていた。

 反対側にも似たような高さの木がある。どちらも葉はすべて落ちており、見たところ同じような木にしか見えない。


「ねえ、メイ。わたしには、どちらの木もまったく同じに見えるよ。どっちがどっちなの?」

「こっちがわたしの木、メイレンランセア。そして、向こう側のがお姉ちゃんの」


 シャーリンはうなずいたものの、まだ見分けはつかなかった。


「シャーリン、花が咲くころにまたいらしてくださいな。そうすれば違いがわかります」

「うん、そうしたいな。ぜひにも」

「花をみれば、ここについている飾りがこの木を表しているってわかると思う」


 メイは自分のお守りに触りながらこちらを見た。


「へーえ、それは、この木と同じものから作られたの?」

「うーん、よくわからない。たぶん、そうだと思うけど、でも、誰でも作れるわけじゃないと言っていた気がする。何か特別なのだって」

「特別?」

「うん、このふたつは双子の木というらしいの。わたしも教えてもらうまで全然知らなかったのだけど、ずっと昔の風習で双子が生まれると双子の木を贈る習わしがあったそうよ。初めて聞いたでしょ。そんな話を耳にしたことない。なんでかなあ? まあ、とにかくこの木自体がお守りみたいなものかしら?」

「へーえ、つまり、家にはお守りの木があり、その分身としての髪挿しを身につける。そういうことだよね。うん、すごくいいと思う」

「最近これをつけているとね、お姉ちゃんがそばにいるかもしれないと感じることがあるの……」

「うん、よくわかるよ」


 ミアは自分にとっても特別だ。初めてちゃんと力の使い方を教えてくれた先生でもある。ペトラがザナを師匠と呼ぶのと同じだと気づいた。




「ところでステファンは? ご挨拶しておかないと」

「今日は出かけていて戻らないみたい。まあ、留守にするのはいつものことだから」

「会えなくて残念。本当はここに泊まっていきたいんだけど」

「いいの、別に。それに、明日の午後まで戻らないから」

「うん」


 フェリシアは初めて見るロメルの内庭をベンチに座って眺めていた。


「それで、フェリ、内事(ないじ)のほうはどうなってるんだい?」

「服ができしだい本格的に教えてもらえるそうです」

「それはいいね」

「服作りをしながら少しだけ話を聞いたんだけど……」

「ん?」

「やっぱり、フィオナは厳しそうだなーと」

「それはそうでしょうよ。あのペトラの内事だからねえ」



***



 荷物の積み込みが終わるとムリンガはすぐに出発した。

 先に戻っていたスタンの部下たちも乗船した。食料と水の補給もしたしこれで完璧だと思えた。


 港を出て海領に入ってからも南下を続ける。周囲に船がいなくなると、飛行試験の準備が始まった。シャーリンは船倉の後ろ側の上階にある第二操船室を(のぞ)いた。


「あっ、シャル。これからムリンガを飛翔させるところよ」

「へえー。ここが飛翔制御室だったんだ。全然知らなかったよ」

「船を飛ばすときだけはここで行うみたい。エムとディードが準備をしているところ。聞いた話では、ムリンガは普通の海艇だし重いから高度をとれないそうよ。やはり空艇のようなわけにはいかないのね。海面からの高さはせいぜい数メトレだって。でも海から離れれば抵抗が減るから速度を出せる」

「それで、飛翔術を学ぶのかい?」

「もちろんよ。まずはディードから教えてもらうの」

「もう実践しようというわけじゃないよね?」

「まさか。しばらくは見るだけよ。安心してちょうだい。わたしだってすぐには無理なことぐらいわかってるわよ。でも、与えられた力を死蔵させるのはもったいないじゃない?」

「わかるけど、ペトはこういうことになるととても熱心だねえ」

「わたしは何に対してもとことん真剣よ」

「政治に対してもかい?」

「いじわるね、シャル。それとこれは別よ。新しいことを探求し追い求めるのは大好き。政治はつまらないでしょ」

「そうかい。まあ、わからなくもないけど。そこまで割り切れるのは、ある意味すごいと思うよ」




「さあ、もうすぐ始まるみたいよ」

「わかった。下で見てるよ」


 しばらくすると少し船が揺れた。あの飛翔板の入った小部屋を開いたのかな。すぐにそうだとわかった。しばらく足にかすかな振動が加わったが。突然、下からの力を足に感じる。手すりにつかまって見下ろすと、確かに海面が徐々に下がっていくのが見えた。


 すごい。しばらくすると船底が現れてくる。完全に海面を離れると、船体から落ちる水が海面をたたく様子が見えた。

 すぐに振動はなくなり、海の波を受けて進む船特有の揺れが消えたことに気づく。


 まもなく安定した飛行になる。まだ、さほど速度は出ていない。海艇よりも遅いくらいだ。とにかく揺れがまったくないのがすばらしい。こういった揺れない海艇ができればいいのだが……。


 しばらくすると、船の速度が上がったのが感じられる。どうやら試運転は成功みたいだ。これで、予定より早くハルマンに着ける。



***



 日が暮れたころ、張り出した半島の陰からウルブ3の第二海港が姿を現した。

 隣に立って食い入るように前を見つめていたペトラが感心したような声を上げた。


「これが、ウルブ3かー。すごく、華やかな感じがする」


 確かに、港湾施設を照らし出す光が黄色系だけではなく、緑色や青色も多数見えている。

 メイが同意するようにうなずいた。


「わたしも、ほとんど見たことがないけど、ウルブ3にはエネルギー機器を扱うところが多いのよ。たぶん、そのせいだと思う」

「それで、ムリンガをどこに入れるの?」


 メイはペトラのほうを向くと肩をすくめた。


「ザナに教えてもらった十六番係留所につけることになっているわ。そこで車を借りないとね。目的地は高台にあるらしいから。たぶん、あの丘の上あたりよ」


 メイは大きく見えてきた海港から少し離れた山並みを指さした。




 ムリンガが港内に入ると、多くの海艇や輸送艇が停泊していた。ウルブ1にも劣らぬ混雑ぶりに驚く。やはり、移住のための大型船を造っているのだろうか、ウルブ1と同じように奥に向かって数多くの造船所が林立しているのがわかる。


「デニス、あとどれくらい?」

「この先の分岐点を左に入ったところになります。あと数分で着岸できます。記憶では、近くに車を借りられる場所があります。着いたらすぐに手配しましょう」

「お願いするわ」


 メイがくるっとこちらを向いた。


「車に乗るのは何人でしたか?」


 シャーリンは操船室に詰めている人たちを見回した。


「ザナのお母さんに話を聞きに行くだけだから、メイとわたし。それに、スタンとエメラインには同行してもらう。ほかの人たちは休んでほしい」

「わたしは行くわよ」


 ペトラが言うのを聞き、シャーリンはため息をついた。


「そんな嫌そうな顔をしないでよ、シャル。何たって、わたしの師匠であるザナの母上なのだから、ご挨拶に行くのは礼儀でしょう?」

「はあ、わかったよ」

「ペトラさまがお出かけになるのならわたしが……」


 フィオナが言いかけたが、ペトラは首を振った。


「フィンは出歩かないほうがいいと思う。ああ、代わりに……」

「わたしが行きます」


 クリスが言うと、ペトラもうなずいた。

 ディードが口を開くのが見えたので慌てて宣言する。


「これで十分。メイ、六人です」


 メイがデニスのほうを向くとすぐに答えが返ってきた。


「かしこまりました、メイレンさま」


 このメイの主事だというデニスだけはいつも彼女のことをメイレンと呼ぶなと思っていると、スタンの声がした。


「ほら、あそこです。今日は停泊船が少ない……奥まで行かなくて済みそうだ」

「さあ、下船の仕度をしてちょうだい。できるだけ早く出発しましょう。遅くなると迷惑をかけてしまうから」




 メイはいつものように背負いかばんを身につけて現れた。ほかの人たちはシャーリン同様小さな手提げ程度で身軽な格好なのにほっとする。

 桟橋のほうを見ると誰かが立っているのが見え、思わず足が止まる。

 ここに着いたときにはいなかったはず。ほかの人たちもその人を見ているのがわかる。


 その女性がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

 桟橋に片足をつけたまま立ち止まったペトラがつぶやくように言った。


「これ、前にもあった……」


 クリスがペトラより先に桟橋にトンと降り立つと彼女が慌てたようにしゃべる。


「クリス、待ってよ。あれはたぶん……迎えの人よ」

「迎え? どうしてそう思うの?」


 そう言うと、ようやく桟橋に降り立ったペトラがこちらを向いた。


「だって、ザナに会った時と同じだもの」


 ペトラは眉間にしわを寄せて近づいてくる人物を見つめていた。


「でも、あの人がザナのお母さんであるはずはないよね」

「うーん、よく見えないけど若い人だよね」

「まあ、カルも若く見えるから、何とも言えないけどね……」

「あのね、ペト。カレンのような人がそうそういるはずないよ」

「それもそうだね」




 顔を上げると大きな車がこちらに走ってくるのが見えた。

 早足で歩いてきた女性は、少し息を切らしたように二、三回咳払いをしたあと口を開いた。


「みなさま、お待ちしてました。これで全員ですか?」

「ロイスのシャーリンです。それで、あなたは?」

「あっ、申し遅れました。ニコラといいます。ディオナと一緒にアトインカンに住んでいます。遅くなりましたがお迎えに上がりました」


 そこで振り返った。


「あの車で館までお送りします」


 遅いどころか、こんなに早くここがわかるとは、もしかすると彼女は……。


「どうしてここがわかったのですか?」

「ザナから連絡がありましたので」


 それだけではないと思う。

 メイは振り向くと下船しようとしていたデニスに向かって言った。


「デニス、この方と一緒に行くので車はもういいわ。あとはよろしくね」


 デニスは姿勢を正すとわかったと言うようにうなずいた。

 顔を戻すと、ちょうど車が目の前で止まったところですぐに扉が開かれた。大型輸送車並みに大きい。



***



 ニコラは前方の席に後ろ向きに座り、車が動き出すなりしゃべり始めた。


「館までは十分くらいかかるの。あまり道がよくないから気をつけてね」


 隣に座ったペトラが口を開いた。

 よく今まで我慢していたな。少しは成長したらしい。


「ペトラです。はじめまして。よろしくお願いします」

「つまり、あなたが、ザナの秘蔵っ娘(ひぞっこ)というわけね。こちらこそよろしくね」

「えっ? あのー、もしかして、ザナから何か聞いているのですか?」

「ええ、もちろんよ。ザナのお気に入りがどんな方なのかとわくわくしていたのよ。あなたとはゆっくりお話ししたいわ」

「ええっ? そうですか……」


 ペトラはいつもと逆の立場に置かれていた。それにしてもえらく遠慮がちだな。まさかザナに何か非礼な言動をしたことがあるのじゃないだろうな。


 ニコラは笑顔で続けた。


「それで、ペトラ、ほかの方たちは紹介してくれないの?」

「ああ、すみません。えーと、そちらがロメルのメイ、後ろにいるのが同じくスタン、それから、こっちがイリスのクリスとロイスのエメライン」


 全員が挨拶を交わしたあとにニコラがつぶやくように言った。


「なるほどね。確かにディオナの考えていたとおりだわ」


 どういう意味かなと思っているとニコラがこちらを向いた。


「船の出発は明日ですか?」

「はい、朝早くに出る予定です。ザナに言われてディオナさんに会いに来ただけですから、用事を済ませたら戻ります」

「今夜は館に泊まるといいですよ。明日の朝一番に船までお送りしますから」

「でも、そんなご迷惑……」

「大丈夫です。それに、わたしもあなた方の旅に同行するつもりなので」

「ええっ? ど、どうしてですか?」

「それは、あとでディオナがご説明すると思いますので」


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