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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第2部 第1章

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180 どうして彼女なのか

「ねえ、エム、メダンには駐留部隊がいるし、うちの指揮官はあそこに連絡したと言ってたから、メダンに行けばわかるはず」

「あそこを通ったのならば……ですが」

「それは、通るだろ? 上流に向かったのだから」


 そう口にしたもののすぐにシャーリンは気がついた。レラにはたくさんの支流がある。でも、海に出ることのできる川は限られている。一番可能性がありそうなのは……。


「マルチェキに向かったと?」


 エメラインはうなずいた。


「あくまで可能性です。メダンの先はセインですし、あえてそんな面倒になりそうな針路を取るとは思えないですけど……どうします?」

「ここまで来たら、目的地に行くにはウルブ領内を南下して海にでるか、ポレラ川を下って東の海に出るかのどっちかってことになるよね。でも、東に向かうと相当な回り道になる」

「そうです。でも、わたしなら、メダンを通りセインを(くぐ)り抜ける案は最初から除外しますね」


 エメラインの言ったことを考えていると、ペトラがいらいらした声を出した。


「どうする、シャル? マルチェキに行くならこの先で……」


 手を振ってペトラを制する。


「このままメダンに向かいそこで確認しよう。メダンを通ってないとしたらマルチェキだし、どっちにしても目的地はわかっている。予定どおりセインに向かう」




 昼前には前方に船が見えた。メダン湖への入り口に陣取っている。

 つまりちゃんと臨検は実施していたということか。それなら通過した船はわかっているはず。


 すでに船は減速し、ペトラは甲板に降りてきたクリスと話している。

 まもなくムリンガは臨検船と並んだ。接舷するなりクリスが向こうの川艇に乗り移って、誰かと話を始めるのが見える。ほかの人たちはそのまま待った。


 ここで検問していたのなら、カレンの乗った船、それを追ったカイルの船がここを通ればわかるはずだ。

 すぐに、クリスが戻ってきた。


「シャーリン、やはり、それらしい船はここを通過してないらしい」

「どっちも?」

「ああ、そのようだ」

「やはり、東に向かったのか」

「カイルはともかく、イオナは空艇を持っている。途中で空艇に乗り換えたんじゃないかな」

「えっ? ああ、そうか。確かに、そうだよね。わざわざ船で回って行くはずないか……何をしているんだ、わたしたちは」




「それで、どうしますか?」

「うーん、ここまで来て戻るのも時間がかかるし、それにエレインの家にも行く必要がある。ロメルにも寄らないといけない」

「それじゃあ、このままセインに向かいますか?」

「うん、そうしよう」

「では、急いで出発しましょう」


 そう言い残したクリスは操船室に上がっていった。

 甲板に残ったペトラに話しかける。


「イオナは川艇でロイスに来たはずだよね。どうして空艇で来なかったのだろう?」

「いくらなんでもロイスに空艇で現れるような無謀なことはしないと思う。たぶん、どこか国境付近に待機させておいてその近くで船を降りた可能性が高いわ」

「ああ、確かにそうだね」

「まあ、どっちにしても、イオナと一緒のカルがハルマンに行くのは確実よ。とりあえずカイルのことは忘れてハルマンに向かいましょ」




 クリスと少し話して、セインに寄るのはやめにした。その代わりに今夜はウルブ7に泊まることにする。


「ねえ、ペト。どう思う?」

「どうって何が?」

「カレンのことだけどさ、どうしてイオナと一緒に行ってしまったのかな。何も言わずに」

「それは単に時間がなかったからでしょ。交戦があったみたいだし」

「追っ手はやっぱり、あのカイルってやつなのかな?」

「わからないけど、みんなの話では、そのカイルがカルをエレインの家から連れ出したんでしょ? それなら、また拉致しに来たとしてもおかしくはない」

「でも、イオナはカイルと一緒にあそこに来たんだよ。なんで、あのふたりが争うのかがわからないよ」

「シャルの話だと、イオナはカイルを止めたんでしょ。それが理由じゃないの?」

「うーん、確かにそれは聞いた。でもそれは、カイルが破壊を使ったあとの話だよ」


 そう話した後でもう一度、当時の状況を思い起こす。


「待てよ、もしかすると、カレンを探していたのはカイルじゃなくてイオナのほうだったのかも……」


 そう考えれば、あの時に聞こえてきた話とつじつまが合う。それに、ふたりがカレンを探す理由はそもそも違うのかもしれない。




「わたしは、どちらとも直接会ったことがないから何とも言えないけど、ザナはそんなに心配していなかったよ」

「でも、あの丘の上でイオナに攻撃されたことをザナはすごく気にしてた」

「そうなんだよねー。カレンが昏睡(こんすい)した時、ザナはすごく怒ってた。あんなに怒ったザナを見たのは初めて……」

「でも、昨日はそれほど心配してなかったように見えた。どうしてだろ?」

「それはね……別の情報源があったからかも」

「情報源?」

「うーん、たとえばの話よ」

「何を言っているのかわからないよ」

「いいの。それよりウルブ7に着いたら、クリスとわたしは混成軍の指揮所に顔を出してくる」

「なんだい、突然」

「アリーに言われたのよ。ちゃんと手順を守りなさいって」

「そうだと思ったよ」

「ねえ、シャルも一緒に来ない?」

「何でわたしが行く必要あるの?」

「行きたいかなと思っただけよ」

「別にないよ。ふたりを降ろしたらミアの家に先に行ってるよ。場所はわかる?」

「大丈夫。メイに聞いておくから。でも、少し遅くなるかも」

「やっぱり、仕事があるんじゃないの?」

「大丈夫よ。ほかの人たちとも会っていろいろ話をするだけよ」

「わかった、わかった」




 ちょうど船倉から出てきたフェリシアを見かけ呼び止める。


「ねえ、フェリ、糸のほうはどう?」

「今回は順調ですよ。前回手こずった巻き取り機を改良しましたからね。いま、流しているところですよ。あ、中には入らないほうがいいですよ。暑いですから」

「なんで?」

「芯にらせん状に巻いているんですけど、加熱しながらやってるんですよ。前とは量が違いますからね。なんせ、胸当てとは言え服を作るんですよ。でも、あんなので役に立つのですか? ペトラさまの話では本当は板状のものが理想なんだとか?」

「うん。そうだけど、それだと身動きできないだろ。まあ、ちゃんとした遮へいができるなんて最初から思ってないから。でも、ないよりはずっといいのは確かだからね」

「それならいいですけど。フィオナはとても熱心に手伝ってくれます」

「別にフィオナは何も悪くないのだけど、その、何というか責任を感じているのかもしれない。うまくいくといいけど」

「わかってますって。あたしは糸を作る。そして、フィオナは手伝いながら仕事の話をしてくれる……」

「ああ、そうだね。それじゃあ、お邪魔するのは遠慮しておくよ」

「大丈夫ですよ。ある程度の量ができてしまえば、あとはフィオナがうまく作るでしょうし。あたしは服なんて作れる気はこれっぽっちもしないですけどね」

「それなら、これを機会にフィオナに教わればいいじゃないか。その、話をしながら……」


 フェリシアは眉を寄せたが、すぐに明るい声を出した。


「そうですね。これも仕事だと思えば、いつか役に立つかもしれないですね。それでは服作りにも参加することにします。たぶんあたしはお手伝いにはなりませんけど」

「うん。頼んだよ」


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