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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第2部 第1章

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173 状況を理解する

 目が覚めたとたんにカレンは激しい頭痛を覚えた。思わずうめき声が漏れる。

 急に体が軽くなったように感じたかと思ったら、次の瞬間には背中に衝撃が走った。いったい何? そこでハッとする。何も見えない。


 すぐに記憶が戻ってくる。店を出たところで……倒れた。

 衝撃銃で撃たれたに違いない。いったい誰が……。さらに記憶を探る。帰り道を歩き始めてまもなくだった。でもあの時、不審な作用は何も感じなかった。


 衝撃銃が使われたことを考えると作用者ではない人たちに……。それなら人混みの中ではどうしようもない。


 カイルかしら? すぐに違うとわかる。イオナが言っていた、カイルは空艇を失ったから海艇で戻るはずだと。


 レラ川でわたしたちがすぐに上陸したのを隠せていたら、あの人たちは、オリエノールの東の海港に出るか、ぐるっと回ってウルブを南下するかだ。どっちにしても、一日や二日で追いつく距離ではない。


 そうすると、誰だろう。そういえば、セインでも……。

 あの人たちと同じなのだろうか。彼らが何者だったのかはまだ聞かされていないが、オリエノールではもう見当がついているかもしれない。


 うーん、ここで考えてもわかるはずがない。今はこの状況を何とかしなければ。


 背中からの感覚だと車の後ろに乗せられている。目が塞がれているようだし、堅い床だから貨物車かしら。感知を切り換えてみる。近くに三人いるが気配は感じない。すぐそばでガチャガチャと金属の擦れ合うような音がする。


 やはり、荷台に放置されているみたい。手足は縛られ、きっと扉に鍵がかかっている。監視の者がここにいないのは逃げられるはずがないから。


 ミゲルはどうしたかしら。彼がわたしと一緒に倒れるのは見えた。護衛のふたりも。また、みんなに迷惑をかけてしまった。彼らが殺されていたら……。

 わたしが、外出したいと言ったせいだ。いろいろな人に目をつけられていることを思い出すべきだった。




 頭を振って嫌なことを全部追い出そうとする。

 とにかくどこに向かっているのか、どこを走っているのか探らないと。


 まずは、感知を目一杯広げてみた。どうせ、ここには作用者は乗っていないから、何をしても同じだ。最大限に広げれば、洪水に襲われるかと思ったが、そうではなかった。


 ということは、もう町中ではない。どれくらい眠っていたのだろう。

 ミゲルたち以外にも、わたしがどこに出かけたかを知っている人はいるのかしら。イオナが報告を受けたとして、その後どうするだろう? 探し出してもらえるだろうか?


 わたしはノアを助けられなかった。はるばるハルマンまで連れてこられたけれど、まだイオナたちの何の役にも立っていない。このまま見捨てられるかもしれないわね。


 ため息をつく。自分で何とかするしかない。わたしに、イオナのような強制力があれば、こんな状況は簡単にどうにかできるのに。


 すぐに、目が見えない状態では強制力は使えないことに思い至る。

 そこでちょっと震えた。強制力をわたしが使えるとは思えなかった。きっと、あの力を使うにはそれなりの覚悟と勇気が必要だ。

 そういう意味では、他人に影響を与えるどの力も同じ。わたしに感知しか使えないのは、実はよかったのかもしれない。




 苦労してようやく体を起こせた。

 しばらく奮闘したが結局(いまし)めは解けないし状況もわからずじまいだった。頭の中がどんどん静かになることから、郊外をかなりの速度で走っているに違いない。


 こうなったら、目的地についてから行動するしかないし、それまでおとなしくしているしかなさそうだ。きっと終着地には作用者が待っている。

 今は作用を全然感じないが目的地に近づけば何かわかるだろう。遮へいを感知したらたぶんそこがその場所だわ。


 カレンは感知力を大きく広げたまま目的地に近づいたらすぐにわかるような状態で、再び横になった。

 また車の振動が激しくなってきた。道がよくない証拠ね。ところが、この振動に慣れてくると今度は睡魔が襲ってきた。



***



 衝撃を感じて目を覚ます。体がふわっと宙に浮いたあと体が回って床にたたきつけられた。顔をどこかにぶつけたようで、すごく痛い。どこからか怒鳴り声がする。何が起こったの?


 突然、近くでアシグが膨れ上がるのを感じる。叫び声がしたかと思うと、再び体が放り出され、続いてたたきつけられるように落下し背中に衝撃を受けた。

 ものすごい金属音とともに何かが足に激突してくる。さらに重いものが胸やおなかにのしかかると息がつまり、そのままずるずると滑っていくのを感じた。


 そのあとは何が何だかわからないうちに再び飛ばされ、今度は背中が何かにぶち当たった。衝撃でまたもや息ができなくなる。

 轟音(ごうおん)と共に車が横転するのを感じたあと、体が滑っていき何かに激突した。しびれるような痛みに襲われたあと、ようやく静寂が訪れた。


 もう声は聞こえなかった。人の気配も消えていた。何となく光を感じて目を開いてみる。激しい動きで目隠しがずれたようで、あたりが少しだけ見えもう真っ暗ではなかった。


 どうにか体をおこすと光が漏れているほうにいざって進む。ひしゃげた扉と思われる残骸の間から外を(のぞ)くと、すぐ近くで空から降りてくるものが見えた。空艇だ。あの船から攻撃を受けたの?


 そこで、作用を使うのを忘れていたのに気づき、急いで感知を開く。

 すぐにイオナとクレアがいることを感じ、安堵(あんど)のあまりがっくりと頭を落とす。体を(ひね)り上を向いて楽な姿勢になると何度も深呼吸する。




 ギシギシという音がして、扉の間に何かが突っ込まれ、ひとしきり抵抗するような響きを立てていた扉が、すごい音とともに外れた。

 目を扉があったほうに向けたが、(まぶ)しい光を浴びて(つむ)る。もう一度体を起こそうとしたが、その前に誰かの手が背中に回されるのを感じた。


「オネ! 彼女は無事だ!」


 誰かが目隠しを取ってくれて、ようやく周りがまともに見えるようになった。手足のロープが切られたので、両足を抱き寄せて手首と足首を交互にさする。

 顔を上げるとイオナの次兄が立っていた。


「ありがとう、エミール」


 イオナの顔が視界に入る。


「カレン! 大丈夫? 怪我(けが)してない?」

「あ、はい、たぶん……」

「本当? ちょっと見せてちょうだい」


 イオナは両手で顔に触ったあと、服をめくって手足や背中を調べていたが、すぐに解放される。

 コリンがやって来て、イオナのすることをじっと見ていた。




「どうやら額の傷と打撲だけみたい。今はどこも()れてないけど、そのうち大変なことになりそう。あとでちゃんと()るわね。何はともあれ幸運だったわ」


 イオナは隣に立つコリンを見上げた。


「まったく、無謀すぎるよ、兄さん。カレンを殺す気なの?」

「いや、一気にけりをつけるのが一番。それに、うまくいったじゃないか」

「あのね、兄さん。こんなむちゃばかりしているといつか痛い目に遭うわよ」

「へいへい。でも、オネのあの剣幕では、一刻も早く助け出すしかなかったじゃないか。それにこうなったのは、この車の運転者が下手くそだったからだよ」

「だからといって、何をしてもいいわけじゃないのよ、まったく」

「まあまあ、ふたりとも落ち着いて。カレンは無事助け出したし、さらった連中も何とか生きたまま捕まえられた。終わりよければ何とやら……でしょ?」


 そう言ってにこりとしたエミールを見るイオナとコリンは、同時に肩をすくめた。

 その間にカレンはあたりを見回した。荷台には長く太い金属の棒が散乱している。運が悪ければあちこち骨折していたかもしれない。打撲だけで済んだのはとても幸運だったに違いない。


 散らばった金属の間に巾着が落ちているのを発見し、急いで拾い上げて中身を確認する。隠避帳(いんぴちょう)符証(ふしょう)も無事だった。よかった。これをなくしたらもう取り返しがつかない。首に回して体の前に抱える。




「カレン、すまなかった。カイルが戻ってくるまでは何も起きないと思っていたんだがね。やつらは……」

「このやり方はイリマーンとは思えないね。もしかして、帝国の連中……」


 エミールのつぶやきにコリンは肩をすくめた。


「さあね、すぐにわかるさ。とにかく帰ろう」


 空艇に乗るとイオナは男たちを前方に追いやった。それから医療キットを取り出してくるとカレンの前に座った。


「服を脱いで。これ以上(ひど)くならないように手当てをするから」


 そう言われて、あちこちの痛みがぶり返してきた。

 イオナの手際よい処置に感心しながら、カレンは考え込んでいた。どうして、作用者でない人を送り込んできたのだろう。これはセインの時と同じだ。

 やはり、わたしが感知者だからだろうか。それとも……。




 手当てを終えたイオナが真剣な表情で話し始めた。


「カレンにわたしたちの立場をちゃんと説明しておかなくてはいけない」

「立場?」

「そう。ハルマンは、ローエンもだが、わたしたちはイリマーンのケタリシャだ。つまり、ケタリを守ることが最優先される。もっとも、この場合のケタリはイリマーンというよりカムランと言ったほうが適切だ。その意味はわかる?」


 カレンは首をたてに動かした。カムランは現在の国王の地氏。


「イリマーンの代々の王は直系のケタリを保護し、それ以外は排除してきた。まあ、それが、エルナンがローエンから消された理由でもある。でも、アデルはいまケタリの助けを必要としている。こんなことは、エルナンにとっては許しがたい行為だろうな。でも、イリマーンの意向に敵対すればエルナンのように滅ぼされる」


 イオナの瞳に妖しい光を感じるのは気のせいではない。


「……それでも……いつか、この日が来ることはわかっていた。いつかは、ハルマンも真の意味で独立しないといけない……。もう後戻りはできない。オハンも理解してくれた」


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