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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第2部 第1章

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172 作用の象徴

 カレンは顔を上げてローラの澄んだ琥珀(こはく)色の目をじっと見る。それがハチミツと同じ色であることに気づいた……。

 振り返ってミゲルに助けを求める。

 傍らに来て膝を曲げたミゲルに小声で聞く。


「あの、このようなときには値切るものでしょうか?」


 ミゲルはちらっとローラを見てから一言だけ小声にのせた。


「不良在庫……」


 あ、そうだ。ローラは祖父の代からこれらの品を眠らせてきたと話していた。

 ローラはミゲルをそっと(にら)んだが、カレンはきっぱりと言う。


「これらの品を買うような物好きはいないですよね。きっとこれからも。わたしが買わなかったら、またお蔵入りで、あなたの次の代に持ち越される」


 にっこりと微笑みかけてみた。

 ローラは小さなため息をついた。


「では、その半分にいたしましょう」


 ローラの顔には笑みが浮かんでいる。好奇心に満ちた瞳には光が踊っている。

 えっ、半分? 目の前にある品の本当の価値がわからなくなった。あっという間に半値にした真意を求めて彼女の目を探るが何も浮かんでこない。これは……買うべきではないのだろうか。


 しかし、わたしの直感はこれらを手に入れろと頭の中で鐘を鳴らし続けている。このようなときはその声を信じるしかない……。


「わたしの直感では、これらはきっとあなたの大切な方たちのお役に立つはずよ」


 カレンはうなずいた。なぜかわたしもそう確信している。そこは一致しており同意するほかない。

 ローラは先ほどの男性を呼び小声で何か言うと、男性は奥に消えていった。




「これはレンダーだとおっしゃいましたね。それなら調整が必要なのでは?」

「スライダはレンダーといっても補助的なものなのでわざわざ調整の必要はないでしょう。それにこれは表面が木で覆われているので、直接的な増強力を求めるのは無理があるわ。それよりも別の効果を期待したほうがいいでしょう」

「別の効果?」

「先ほどもご説明したように、これは双子の作用者に持たせるものです。(つい)の木は双方の力を強め合う……とか引かれ合うとか……そういう話ですよ」


 とてもあいまいだわ。買うのは失敗かしら。

 そこに、先ほどの男性が別のお盆を持って現れた。


「これは、カレンさまへのわたしからの贈り物です」


 目の前に置かれたのは別のスライダだった。途中で色が変わっていて、少し変な形をしている。

 もう一度よく見ると、色が違うのはふたつが組み合わせられているからだと気づいた。


「これも、(つい)の木で作られているのよ。形が微妙に違っていて、こうやって並べると組み合うようになっている」




 ローラは黄色と緑のふたつを切り離してからまたひとつにして見せた。


「もちろん別々のスライダとして使え、ふたりがそれぞれ持つこともできる」


 その色合いに引き込まれるように見つめる。


「いかがかしら? これは、あなたのお召し物とも何となく似てないかしら?」


 ハッとして自分の服を見下ろす。これと同じ? どういうこと?


「その衣装に描かれている文様の意味をご存じかしら?」


 えっ? イチョウとスイレン。それくらいは覚えている。

 おとなしく首を横に振った。

 ローラは何かを思い出すように目を閉じた。


「その絵柄は久しぶりに拝見したわ。イチョウは最古の樹木。そして、スイレンもとても古い種族よ……。どちらも、作用者の根源を表す象徴だったと聞いたことがあるわ」


 古代の木と草。作用者の根源? そんな意味があったとは思いもしなかった。これは、わたしにとっても特別な服だったのだろうか。目を閉じ記憶を求めてむなしくさまよう。

 目を開くと体をかがめてスライダが置かれた布を回して角度を変え眺めてみる。




 何ともいえない鈍い色で、青みがかった緑と橙に近い黄色が並べられたことで引き立て合う。確かにとてもすばらしい一品に見える。

 でも、ケイトはすでに亡くなっている。


 そう考えたとたんに思い出した。

 ステファンはケイトが行方不明で死亡認定されたと言っていた。つまり、本当は死んでいないのかもしれない。いや、しかし、それはあり得ない……。確かもう三年になるのだし。


 でも、もし……。どういうわけか胸が高鳴る。だめよ、カレン。思考の暴走は抑えないと。

 そこで、別のことに気づきさっと頭が切り替わった。


「あのー、スイレンは木ではないですよね?」

「ええ、そうよ。これは、古きスイレンが時を経て樹化したものなのよ。それに、太古のイチョウもすでに絶滅したわ。だから、そこに描かれているのは、正確にはこれらの木とは違うの。でも、それは作用の根源を表したものだし、このスライダにも同じ意味が込められている。それには変わりないわ」 




「それで……この名前は?」


 尋ねる声が震えてしまう。

 ローラはにっこりとしてうなずいた。


「こっちがレンシオン。反対側はランレイ。青き精と秋の霊。正式名称は、えーと、シウニシア・レンシオンとキトゥリニア・ランレイ。シウニは緑を表しキトゥリノは黄色のことよ。とてもいい名前だと思うわ」


 カレンはローラの顔をまじまじと見た。

 ただの冗談なの? この一連のことは? 何か(だま)されて泥沼にはまったような気がしてきた。頭を何度か振る。

 それからもう一度目の前のスライダをじっと見つめる。そして、その向こうに並べられた四つの品。


「本当に、これをわたしに?」

「ええ。このものたちはきっと、今日のために……あなたの来訪を待っていたの。これがあなたの手に渡るのを見届けずにどうしろとおっしゃるの?」


 ローラは遠くを見るように続けた。


「太古に繁栄し光に向かう樹木の末裔(まつえい)と豊かな水を共有し小さな青き花弁を頂く樹形。それが、あなたのその姿が映し出すものであり、そしてこの装身具でもあるの」


 そうまで言われたらもはや想像の世界に飲み込まれるしかない。


「……はい。全部、お願いします」


 巾着の中から符証(ふしょう)を取り出す手がブルブルと震えた。




 テーブルからすべての品が下げられるのを見ながら尋ねる。


「ひとつ、うかがってもよろしいですか?」


 ローラはにっこりとうなずいた。


「あなたとイオナのご関係は?」

「ふふっ」


 微笑を漏らしたローラは一瞬とても若く見えたが、意外な言葉が発せられた。


「腐れ縁かしら」


 どういうことだろう? イオナには友人が少ないとローラは言ったけれど、つまり、そのうちのひとりだろうか? 先ほどはイオナよりも若いと感じた。

 でも、このすごい店を切り盛りしているのだからそんなはずはない。うーん、人の年齢はさっぱりわからない。


 ローラは立ち上がると、書機を持ったまま立っていた男性に声をかけた。


「ご案内して」


 買い物は終わったという合図。カレンは慌てて立ち上がるとミゲルを見た。

 なぜか彼は満足そうにうなずいた。


「それでは参りましょう」


 そう言いながら、ここに入ってきた入り口を示した。


「裏通りのほうなら車を回せるでしょう? ミゲル」

「カレンさまは街中を見物したいでしょうから、帰りも商店通りを歩くことにします」


 よかった。普通の店をもっとじっくり見たかったのよ。


「帰り道はゆっくりお願いします、ミゲル」

「はい、かしこまりました」


 ミゲルは入り口のホールで待っていた護衛と二言、三言、声を交わした。

 扉をあけてくれた使用人に挨拶すると表通りに出る。

 外に立ったとたんに明るさに目がくらんだ。後ろで扉が閉まりもと来た道を歩き始める。


 突然、右前方を進んでいた護衛がよろめいたのが見えた。考える間もなく背後にいた護衛が意識を失うのを感じる。

 すぐに作用力を全開にするが近くには何も怪しい動きを感知できない。あたりを見回す暇もなく意識は遠のいていった。


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