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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第2部 第1章

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168 諦めと期待

「カレン、わたしはずっと考えていた。これは第五の陰作用だろ? ケタリならこの作用を使えるはず。だからノアが発動させた作用を取り消せるんじゃないかと」


 そう言うイオナに顔を向ける。ちゃんとしたケタリならあるいは……。残念ながらわたしは役に立たないひとつもちだ。

 首をゆっくりと横に動かす。


「たぶん無理です……。わたしは自由に第五作用を使えないの。それにそもそも第五作用は自分にしか使えない」


 イオナはがっくりと肩を落とした。


「やはりそうか。医術者たちは口をそろえて無理だと言い続けていたんだが、わたしはケタリならこれを何とかしてくれるのではないかと考えた。それで、ケタリを探し回り、カレンに出会えた。その時わたしはこれが天の恵みだと思ったんだよ。これしかないと。わたしは、これにかけていた」


 エミールの小さな声が聞こえる。


「つまり、ノアは永遠に目覚めないのか……いや、その前にこのままだと衰弱死してしまうよ……」


 全員から落胆の波が押し寄せてきた。




 ……そうだ。あのエレインの家の医療ベッド。たぶん、わたしはあそこで十六年を眠って過ごしたはず。

 あの日記の日付は十七年ちょっと前。わたしの今の年齢、シャーリンの年齢、それに歳の差を考えると……経過時間はせいぜい一週間か十日か、それくらいだわ。

 確かにその程度なら飲まず食わずでも何ともない。


 それに対してノアの時間の進みは遅くない。

 わたしはどうやって現実に戻ったの?

 川に落ちたときも、レオンとやり合ったときも、いつの間にか自然に戻っていた。別に作用の続く時間を決めたわけでもない。

 つまり、作用を使うときにどれくらい強く望むかで異なった結果になるのだろうか。それなら、ノアは目一杯まで試そうとしたのだろうか。


「彼なら、この状態を正しく理解できたかも……」


 知らずに考えが口に出てしまった。

 レオンが生きていたら、この状態を見て何かわかったかもしれない。




「これを理解できる人がいるの?」


 イオナの問いかけにカレンは無意識にうなずいた。


「わたしの……知り合いで、第五作用の扱いに()けていた。わたしも少しだけ教えてもらった……」

「その方は今どこに?」


 急にイオナの声が大きくなった。

 カレンは意気込むイオナに気づき、慌てて首を振った。


「その人はもうこの世にいません」

「それは……とても残念だ」

「すみません、期待させてしまって。だけど、彼にしても他人に作用することはできなかったので、たぶん無理なのだと思います」

「ああ、そうか……」


 イオナの両手は固く握りしめられていた。


「オネ、どういうことだい?」


 コリンの問いには答えず、イオナは目を閉じて黙ってしまった。




 わたしはどうやって現実に戻ったのだろう。

 自分で十六年間という時間を制御したとはとても思えない。そうだ、あのベッドの下にあった装置、あれは時を刻むものだった。それに、誰かがロイスまでわたしを連れてきてくれた。


 そうだ、誰かがあるいは何かが元の状態に引き戻すきっかけを与えたに違いない。あのベッドの機能を調べれば何かわかるかもしれない。




「イオナ、イオナ……」


 兄妹で声を荒らげて議論していたイオナがこちらを向いた。


「わたしはあの家で眠っていたはず」

「家? ああ、この前、カイルと押しかけたあそこのこと?」

「ええ、あの奥に医務室があって、医療用のベッドが置かれていて、いろいろな機械がつながれていました。あの装置に何か目覚めさせる機能があるかもしれない……」


 そう言いながらも、だんだん自信がなくなってきた。


「それは……もしかすると救いの手になるかもしれない……。カレン、厚かましいにもほどがあるとあなたに言われるだろうが、それでも、わたしはノアを救い出したい。他人を不幸にしてまでこんなことを願うわたしは本当に人でなしだ。それはわかっている。それでも……」


 イオナはがっくりと腰を落とした。


「それでも、わたしは、ノアのためにお願いするしかない」




 カレンは慌ててしゃがみ込むと、イオナの両手を取った。


「イオナ、その医療設備の件はただの可能性に過ぎません。わたしの勘違いかもしれない。全然見当違いかもしれないです。単にもとに戻るのは自分でしか決められないのかもしれない。本当にわからないのです。それでもよければ、あそこに戻って調べてみますか?」

「本当に協力してくれるのかい? これまでにあなたたちにしてきた仕打ちにもかかわらず?」

「ええ、もちろん。あれは、そこで深い眠りについているノアには関係ないことですもの」


 イオナは長いため息を漏らした。


「カレン、あなたはいい人だ。とてもいい人だ。お人好しすぎる。それが、多くの人たちにつけ込まれる原因ではないかと思うが……わたしも含めて」

「わかっています。わたしは何も知らないし、経験も浅くてどうしようもないのは。それに、わたしがあなたに恨みを抱いていないのは本当ですし。時をこえた経験者としては、ここで何とかするしかないじゃないですか」




「カレンさん」


 ずっと黙ったままでいたオリビアの声がした。


「わたしからもお願いします。どうか、ノアの眠りを解いて再び生を与えることに力を貸してください」

「はい、オリビアさま。……といってもまったく自信はないのですけれど」

「あなたを頼りにしています。わが娘が出会った方ですもの。娘が言ったように、きっとこれは天の温情なのだと信じています」


 突然抱きしめられ、耳元でささやく声が聞こえる。


「あなたを見てから確信しておりました。イオナの契りの姉妹となるのはきっとあなたなのだと……」


 カレンにはオリビアの思いがまったく理解できなかった。簡単に他人を自分の娘同様に考えるなど、あり得ないことだわ。


「母さま、カレンは、その、母さまとさほど……」


 そう言いかけたイオナと、オリビアの肩越しに目を合わせたカレンは首を横に動かした。

 イオナがばつの悪そうな顔を見せて、続く言葉を飲み込むのが感じられた。その後すぐに言い換えるのが聞こえる。


「つまり、これで、カレンは……母さまの大切な人になったということね。最も、わたしが妹なのは変わらないわね……」


 最後のほうはほとんど聞き取れなかった。




 オリビアはロバートを見て、医術者たちを呼ぶようにと言った。

 これではアデルの当主がロバートなのかオリビアなのかわからない。まあ、どっちにしてもロバートはオリビアに頭が上がらないような気がしてならない。


「ノアはこの医療装置と切り離さないほうがいいと思うわ。でも、これだけのものをそのまま空艇に積むのは無理ね。連れていくのなら海艇でということになるわ。とすると、向こうの海港で川艇に乗り換える必要があるわね。大丈夫かしら、ちょっと心配だわ」


 オリビアの声を耳にしながら、カレンはノアをじっと見ていた。


「この状態だとかなり弱っているので、多少でも回復させたいところなのですが……。そうでないと川からあの家までが……」


 イオナはしばし考え込んだ。


「川港から尾根までは空を移動するしかない。その間、これを切り離すことになる」

「家まで行けば、これと同じような機械があります。たぶん、同様の機能を持っているはずです。でも、ここにいる間にもう少し何とかできるかもしれない……」

「何かやれることがあるの?」

「わからないけれど、ノアとつながれば少しは力になれるかも」




 イオナは理解したようだったが、すぐに首を横に振った。


「ああ、何でも試してくれるのはありがたい。でも、それは明日にしたほうがいい。今日はもう遅いし、カレンは疲れている。十分休養してからにしてほしい。ノアのほうは別にあと何日かこのままでも変わらないだろうし」

「わかりました。実をいうと今すぐにでも眠れそうです」

「よし、一番近い客間まで行こう」


 途中で、家事(かじ)に声をかけたイオナは、ずんずんと廊下を進んだ。カレンは遅れないようにイオナに必死について行き、たちまち客間にたどり着いた。

 家事があけてくれた部屋に入ると、イオナ自ら棚に置かれていた内服(うちふく)をとって渡してくれた。


「向こうに浴室があるが……」


 ベッドを見たとたんに睡魔が襲ってきた。


「今夜はもう無理です……すぐに寝たいです」

「そうね。脱いだ服はここに置けば、朝までに洗ってもらえるから」

「わかりました。おやすみなさい」


 すばやく着替えると、ベッドに潜り込む。何かを考える暇もなく眠りに落ちた。


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