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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第1部 第5章

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145 合流

 壁を越えてから一時間が過ぎた。

 しばらく前から、どちらの方向を向いてもトランサーしか見えない。

 シャーリンの目に映るのは、黒に覆われた大地ばかり。日光の加減だろうか、ところどころが薄紫色に染まっている。


 高いところを飛んでいるため、個々のトランサーの動きが見えることはないし、これだけ離れているとその脅威すら感じられない。感知者を除いては。


 シャーリンは、反対側の窓側に座っているカレンをちらっと見た。隣のメイと何やら話しているが、その視線はずっと前方に向けられたままだ。


 エレインの残した資料によれば、トランサーが現れる場所、つまりは生まれるところ、を感知で特定できるらしい。


 どのようにしてこの無数のトランサーが作り出されるのかさっぱりわからないけれど、とにかくその生産工場のようなものを探し当て破壊すれば、これ以上増えることがなくなる。


 これ以上発生しなければ、時間さえかければ残った全部を消し去ることも決して不可能ではない。




 わたしたちがそろってこの作戦に参加しているのは、皮肉にもあのレオンが言ったとおりの展開だ。

 本当に、彼が主張していたように紫黒の海を消滅させることができるのだろうか、わたしたちだけの力で。ミアがいないのに。


 頭を何度も振る。ここで、先のことを悩んでもしょうがない。やってみるしかない。ザナが言ったように、たとえこの作戦がうまくいかなくても、状況が今より悪くなるわけではない。


 まだ、時間がかかる飛行のことを考えながら見上げる。今日は雲一つないが、少し紫がかった空を背景に多くの鳥が飛んでいくのが見える。


 地上はとんでもないことになっているが、大地を離れれば脅威はなくなる。

 わたしたちも空で暮らせれば何の問題もないはずだ。


 そう考えながら、視線を前方に戻すと、少し先を飛行していた空艇01が見えないことに気づいた。偵察のために先行したのかなと考えていると通信が聞こえてきた。




「02、どうぞ」

「どうした、01。高度が少し落ちてるぞ」

「増幅管に少し問題があり、出力が安定しません。何度か調整を試みましたが難しいようです」

「降下率は?」

「0・3」

「そのまま待機」


 フィルは振り返ってザナと視線を交わした。


「この降下率では、ここから引き返しても、壁までたどり着くのは難しいかと」

「わかった。こちらに収容するしかない」


 そう答えたザナは船内を見回した。


 向こうの船を捨てるらしい。壁を越えたら着陸する場所はないから、ひたすら飛び続けるしかない。地上に降りたら死を待つのみ。

 交代要員も乗せているし、わたしたちもいる。さらに向こうの人たちが移ってくるとかなり狭くなるだろうな。


 軽くうなずいたフィルは通信を再開した。


「02、そちらの乗員をこちらに収容する。準備を始めてくれ」

「了解」


 隣のペトラが声を挟んだ。


「ザナ、収容って空中で乗り移るってことですか?」

「この下に着陸はできないからね」


 こちらを向いてそう言ったザナはフィルを呼んだ。


「投下物をどれだけ捨てればいいか計算して」

「半分にはしないとだめかな」


 そう言いながらモニターのほうを向いて操作を始めた。


「やむを得ない。やってちょうだい」

「了解」




 体を寄せたペトラが小声で聞いてきた。


「ねえ、どうして捨てるの?」

「積載重量と高度や速度の関係だったと思う。重くなると高度が下がるし速度も落ちる」

「ああ、なるほど」


 納得したように首を動かすペトラのほうを向く。


「ペトは空艇の操作は覚えないの?」

「うーん、医術にしか興味がなかったけど、飛翔術も覚えようかなー」

「ふーん」

「ほら、エレインの家に小さい空艇があったでしょ。ああいうのを飛ばせるようになりたい」

「ああ、あれ、いいよね。そうなったら、わたしも乗せてほしい。聞いたけど、あれ、ひとりでも動かせるように造られてるらしいよ」

「うん、メイに教えてもらった。何とかして両方使えるようになりたい」

「それって本当にできるの?」

「カルに教えてもらうの。何たって、わたしの師匠だからね」

「ペトの師匠はザナだと思ってた」

「ふたりともわたしの師匠なの、へへへ」

「迷惑そうだな」

「そんなことないよ。わたしはまじめだから」

「へ? そうなんだ」


 まあ、好きなことはとことんやるからな、ペトラは。




「わたしも教えてもらえるかな。そのう……ペトラの師匠に」

「何を言ってるの?」


 ペトラは目を吊り上げた。手で口元を覆って小声で続ける。


「お母さんでしょ」

「それなんだけど、どうすればいい?」

「まだ、話をしてなかったの?」

「うん」


 ペトラは首を何度も振った。


「あきれた」

「なかなか機会がなくて……帰ったら話してみる」

「うん、それがいいよ。それで、師匠に何を教えてもらうの?」


 シャーリンは同じように手で口元を覆ってペトラの耳に近づける。


「ほかの人には言わないでよ」


 ペトラは素直に頭を動かした。


「レンダーを使わない方法」


 ピクッとしたペトラのささやき声が聞こえた。


「えっ? これなしでできるの?」


 ペトラと同じように、自分の手首にある腕輪を撫でながら言う。


「カレンは必要ないと言ってた。実際、カレンはそうできた。でも、自分ではどうにもならなくて」


 ペトラは力のない笑い声を上げたが、すぐにまたひそひそ声になった。


「実はわたしも、ひとりだと二つ同時に使えなくて困ってるの」


 ふたりは目を合わせて大きなため息をついた。




 フィルの大声が響き、今の状況に引き戻される。


「隊長、01の高度が急激に落ちてます」

「どうした?」

「こちら、01、飛翔維持困難。もうだめです」

「フィル、前衛に高度合わせ!」

「後部飛翔装置停止です」

「テッサ、補助装置は?」

「補機も動作不能」

「ありえない!」


 フィルの吐き捨てるような声が聞こえた。


 ペトラがさっと立ち上がった。


「ザナ、このままだと、海に落ちてしまう。助けないと」

「わかってる」

「ザナ、お世話になりました。何の支援もできずに申し訳ありませんでした。我々一同、任務達成を信じています」

「テッサ、何をばかなことを言ってるの? ちゃんと助けるから心配するな」

「隊長、下を見てください。たとえ不時着できたとしても、あの中で生き残れないのはわかっています。隊長は先に進んでください」

「いいか、テッサ。とにかく損傷を最低限に抑えて。防御に最大の力を注ぐ。わかった?」


 しばらく、答えはなかった。


「わかりました。何とか不時着します」

「よし」




 フィルがザナに尋ねた。


「隊長、作戦は?」

「着陸できたとしても、防御板はだめになる可能性が高い」

「こっちで囲うしかないですね」

「問題は時間だ。とにかくぴったりくっついて降りるしかない」

「防御面を広げないとだめだが、もう一つ抱え込むのは……」

「シャーリンとメイにやってもらう。うちの乗員より力があるから範囲は伸ばせる」


 シャーリンはすっと立ち上がった。


「わかりました。交代します」


 やっと出番が来た。ただ椅子に座って待ち続けるのはもう飽きた。


「ロイ、マレ、01と5メトレ差でぴったりつける。できるか?」

「はい、隊長、やってみます」

「いいか、絶対に近づきすぎるなよ。こちらの飛翔板をぶち当てたら、こっちも墜落する」

「副長、それ、言わないでくださいよ」

「すごく緊張するわ……」

「大丈夫。ふたりとも優秀だから。とにかく向こうの動きを見逃さないようにして」


 ザナの言葉にロイとマレはそろってうなずいた。



 先任の防御者と交代してメイの隣に座る。そばに来たザナに念を押された。


「わたしの合図で防御フィールドを展開。フィールドを01の中に通してはだめ。もし離れてしまったら、しょうがないからいったん消す。そっちの心構えもしておくこと。いい?」

「わかりました。メイ、準備は?」

「わたしはいいですよ。大丈夫、うまくいきます」

「それで、どうやって収容するのですか?」

「うまく不時着できたら、こちらは向こうの上に(とど)まって両方をフィールドで包む。あとはすばやくどんどん移動するしかない」

「向こうに積んである水とメデュラムを全部ぶちかませば時間が稼げるはずだ」


 そう言ったフィルも何だか心配そうだ。




 通信機がしゃべり続ける。


「高度100、メデュラム射出」

「高度50、水を全投下!」


 下を見ても変化が見えない。ちっとも効果があったように感じられない。

 フィルとザナの声だけが響く。


「高度20」

「フィールド解除!」

「高度10」

「フィールド展開」

「01接地。フィールド確認。降下停止。近傍にトランサーの動きなし」

「よし、すぐに収容開始」


 01の扉が開いた。そこから数人が出てくると下ろされたはしごを登り始める。

 視線を上げると、トランサーが殺到してくるのが見えた。すぐに、防御フィールドが光り始める。

 フィルの落ち着いた声が告げた。


「上からも来ます」

「これはよくないな。急がせろ!」

「最初のグループが船内に入った」


 二重扉を通ることで時間がかかっている。周りからの圧力に押しつぶされそうに感じる。もっと急いで。



***



 先ほどから、ザナとフィルの声だけが響く。


「あと、どれくらいだ?」

「五回くらいか」


 ペトラの心配そうなささやき声が届いた。


「シャル、大丈夫?」

「急に、圧力が増えた気がする。これはきついな。でもまだ大丈夫。それでも、ここは長居する場所じゃないな。このあたりに全力で長時間続けられる量の精気があるとは思えない」


 フィルのせっつくような声が聞こえる。


「01、あと何人残ってる?」

「四人、今から出ます。通信終わり」


 とりあえず、01のほぼ全員が外に出たらしい。もう少しだ。

 下の空艇を見るとその周りのトランサーはそれほど多くない。


 クリスが独り言のように言う。


「何か、ほとんどのトランサーがこちらの防御面に取りついてないか?」


 フィルがうなずいた。


「確かに01にはそれほど群がっていかないな」

「たぶん、防御面のもとに向かってくるんだろう」

「それって、フィールドのもとがわかっているという意味ですか?」


 シャーリンの疑問にクリスは肩をすくめた。


「まさか。単にそう見えるだけ」

「ザナ、あと、どれくらいですか? かなり(つら)くなってきました。あまり持たない……」

「もう少しよ、メイ。あと、二回。頑張って」


 外扉が開いて閉じる。それから少し待って内扉が開く。まどろっこしい。

 フィルのホッとしたような声が聞こえる。


「よし最後のグループが中に入った。外扉閉鎖」

「離脱する。上昇開始。最初はゆっくりだ。急ぐとフィールドが崩壊する」


 空艇02が上昇を開始したとたんに、フィールドの天上は激しく燃え上がった。すぐに激しい震動に襲われる。それでも、上昇は続いている。しばらくすると、安定してきた。


 そのあと急に通常どおりの上昇速度になり、負荷が軽くなる。ほっとして、ためていた息を大きく吐き出す。


 上空に戻ったところで交代する。レンダーグローブを握っていたほうの手が汗でぐっしょりだ。


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