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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第1部 第5章

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143 再び前線へ

 基地に到着したのは日没後だった。


 今回は、セインから直接オリエノールの空艇で連れてきてもらった。船から降りて指令室に向かう間に、夜の(とばり)に包まれる。

 思わずカレンは立ち止まって空を見上げた。


 西のほうにはうっすらと橙色に縁取られた地平線が見え、振り返ればどこまでも深い青色の空が、急速に暗褐色に変貌しまた紫色へと転じる。

 足元には影が忍び寄り周りが漆黒に溶け込む。東の天上から星がキラキラと自己主張し始めるのを無言で眺める。


 メイが息を呑む音がはっきり聞こえた。


「すごいわ。こんなの初めて……」


 何もない丘の頂からの眺めは確かにこの世の驚異。どこまでも静寂が広がっていて、一瞬ここが最前線であることを忘れそうになる。

 空の輝きはあまりにも美しい。


 再度振り向くとうっすらと黄色に光る筋が目の前に伸びていた。時折明滅する光がしだいに強くなり、やがて左右にどこまでも続く金色の帯を見たとたんに、一気に現実へと引き戻される。


 地上に見える光束と満天の星。その対比に胸が押しつぶされる。

 あらゆる方向にぐるりと地平線が見えるここでしか体験できない光景だった。


「あれが北の壁……」


 隣でつぶやいたメイはそれっきり黙ってしまった。

 ディードが単眼鏡を取り出して壁に沿って動かすのが見えた。それをエメラインは食い入るように見つめている。


 少しして、ディードから単眼鏡を借りるとさっと目に当てた。

 しばらく壁に向けていたが、次に頭をそらして星空に向けるのが見えた。


「これはすごい」


 長いため息も聞こえた。

 ペトラがエメラインに目をやる。


「へえ、星を見るのにも使えるのか……。わたしもほしいな」

「あれは軍の支給品じゃないの?」

「軍では普通の遠視装置を使ってるよ。ディードは自分で買ったんじゃないかな」


 こちらを向いたディードの説明が聞こえた。


「ペトラの護衛をするようになったときに、クリスからもらったんですよ」

「へえー、知らなかった。クリスもいいとこあるね。でも、それ、クリスのとは違うようだけど」

「あれは特別なやつらしいです。確か、クリスの父親のものだったと聞きました」

「へえ、そうなの」




 突然、ペトラの不思議そうな声が聞こえる。


「前より大きく見える」


 何がと思ってペトラの視線の先にある光の帯をあらためて見る。そこで思い出した。


「アレックスが配置を換えると言っていたけど、もう実行したのじゃないかしら」

「なるほど」

「それでもね、ここからだと遠くに思えてしまう。ウルブ7ではすぐ近くに見えたもの」

「それは、壁が低いからだよね」


 うなずく。

 守備範囲を広げるほど高さは低くなるという話だった。それに、ウルブ7にいた時は、夜の光景は地上からしか見たことがなかったけれど、ここではやや見下ろしているせいもある。


 エメラインがディードに質問するのが聞こえた。


「ディードは銃にご執心らしいですね?」

「クリスに言われてね。護衛をするなら作用者を相手にすることを念頭に置くようにと。攻撃力だけじゃだめだと言われました。それで、いろいろな銃を正確に使えるように、できるだけ練習するように努力中です」

「そうですか……」


 エメラインは考え込んだ表情を見せた。


「そろそろ中に入りませんか。凍えそうです」


 メイに言われると、慌てて全員が指令棟に向かって移動した。




 すぐに指令室に案内される。

 室内に入ってぐるりと見渡すと、ザナがいつもの自分の席にいるのを発見した。シャーリンとクリスはいないようだ。

 ザナは、椅子をくるっと回してこちらを見るなり手招きした。


 ディードとエメラインを残して、ほかの三人は呼ばれたほうに歩みを進め、言われるままに席につく。ザナはすぐ後ろに座っている人に話しかけた。


「フィルとセスを呼んで」


 向こうからカティアがトレーを持ってひょこひょこと近づいてきた。急いで立ち上がり挨拶する。

 トレーを机に置いたカティアは軽くお辞儀をした。


「ようこそ、北の果てに。ペトラ国子(こくし)、カレンさま」


 そう言ったカティアは続いてメイのほうに向きを変えた。


「お初にお目にかかります。カティアです。一応、ここの防御指揮官です」


 すぐにザナが訂正する。


「司令官代理」


 メイは丁寧にお辞儀を返した。


「ウルブ1はロメルのメイと申します。以後、お見知りおきを」


 ペトラが変なものでも見たような表情をしているのに気づいたメイは苦笑いした。


「わたしは、これでも一応、商人ですから」


 それを聞いて、今までメイの本当の姿を見たことがなかったのに気づいた。

 カティアから温かいお茶を受け取るとザナに尋ねる。


「足はいかがですか?」


 ザナはそばに立てかけてあったつえを軽く叩いた。


「これを使えば、一応、ひとりで動けるから問題ないわ。これなしで歩けるまでには……まだ何日も必要」


 ペトラがメイに質問している。


「メイ、ロメルはオリエノールに何を売ってるの?」

「それは、わたしからは申し上げられませんわ」


 困ったように目を泳がせたペトラにカティアはすらすらと答えた。


「輸送用の空艇、建設用の空艇、甲車(こうしゃ)穿車(せんしゃ)、輸送車両、庇車(ひしゃ)の一部、輸送艇、それにもちろん、移住用の輸送船団」

「ええっ? そうなの」


 ペトラは優雅にお茶を味わっているメイをじっと見ていた。




「壁は移動させたのですか? この前来た時にここから見た光景と比べると近いですね」


 そう聞くとカティアが答えた。


「だいぶ後退させたので。オリエノールが南下させるのに合わせました」


 ザナが付け加える。


「まあ、ここも、それほど遠くないうちに撤収することになりそうよ」


 ザナは脇に置いてあった地図をテーブルに広げ、カレンを見た。


「さて、まず、あの資料によれば、現所はこのあたりと思われる」

「大陸の中心ではないですよね」


 そもそもの始まりは、たぶんもっと中央だったはず。荒廃した大陸の中心。

 どうして、こんな南にあるのだろうか。


「そこまでの距離はどれくらいですか?」

「ここから90万メトレくらい。思っていたより近くて助かった。それでも、飛行時間は全速で片道六時間といったとこ。日の出とともに出発して日が落ちるまでに見つけて決着をつけるには、ぎりぎりの時間しかない。帰り道は夜でも構わないけど、問題の場所を見つけるまでは明るくないと無理だろうから」

「もう、だいぶ、日の出は遅いですし」

「だから、明日作戦を実施することにした」

「急ですね。でも、足は?」

「そんなの待っている時間はないから。それに、椅子に座っているだけだから何とかなる」


 そうは言ったものの、何が起こるかわからない。こんな状態で、トランサーと直接戦うのは不可能だわ。


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